「追求してきたことの延長線上が、クラウド・コンピューティングだった」
Google・村上憲郎名誉会長
クラウド Watch新装刊記念・特別インタビュー
「Googleが歩んできた道は、結果として、クラウド・コンピューティングへの道だった」。
グーグルの村上憲郎名誉会長は、Googleのクラウドに対するスタンスをこう語る。クラウド・コンピューティングという言葉は、2006年に、米Googleのエリック・シュミット氏が初めて使ったものだといわれる。そのGoogleにとって、クラウド・コンピューティングは、ごく自然な流れの上で事業化されてきたものだというのだ。
「むしろ、Googleがこだわっているのは、3つの要素で示される『鉄の三角形』。これを推進した結果が、クラウド・コンピューティングにつながっている」と、村上名誉会長は語る。「鉄の三角形」と表現される、同社が創業以来持つ揺るぎない基本事業方針とはなにか、そして、同社のクラウド・コンピューティングの考え方について、グーグルの村上憲郎名誉会長に聞いた。
■「鉄の三角形」~Googleの枠組みは明確で、変化していない
Google株式会社 村上憲郎 名誉会長 |
――Googleという会社は外から見ていると、非常に変化の激しい会社のように見えます。いまでは、「検索サービスの会社」という枠を越えた事業にまで幅を広げていることがその証です。村上会長が2003年4月にGoogle入りされてからの7年間の変化をどう捉えていますか。
村上会長:いや、人が言うほど、Googleは変化していませんよ(笑)。原理原則がしっかりしており、その枠組はまったく変化していない。やろうとしていることは明確なんです。
1つは、みなさんが情報に辿り着くための道筋を作ること。これはミッションステートメントとして明確に示している。2つめは、提供するサービスには課金しないということ。サービスはサービスとして完結させ、無料で提供する。そして、3つめには、収益を得るのは広告に特化するということ。いまでもGoogleの売り上げの97%は広告によるものです。
この枠組みは一貫しており、まったく変わっていないんです。これを私は個人的に「鉄の三角形」と表現しています。
「Googleの社員は自由に好きなことをやっていますね」、ということを言われます。自由な発想を生かす風土はありますが、この枠組みからは逸脱しないなかで自由な発想を用いて仕事をしている。ですから、広告以外に、新たに課金できるサービスはなにか、ということを考えている社員は1人もいませんよ。
――鉄の三角形が、変わらない枠組みだとする一方で、Googleが変わった部分もありますね。
広告そのものの手法には変化があります。最初は、アドワーズという、検索の結果に伴って広告を表示するサービスからスタートしました。
サービス開始当初は、大手企業の担当者から、「なんでうちの広告が一番上に表示されないんだ」というお叱りも受けましたが(笑)、Googleは広告も情報と捉えていますから、広告代金を多く払えば上に表示されるという発想ではなく、検索された言葉に関連する広告として情報価値が高いものが上にくるということにこだわった。最初はなかなか受け入れられませんでしたが、この考え方はいまや常識となっています。
アドワーズの3年後には、アドセンスという手法を展開し、第三者のニュースサイトなどに広告枠を設定し、Googleの人工知能がそのニュースを読んで、最適な広告を表示する。
これはアドワーズの定着後ということもあり、大歓迎で迎え入れられましたね。そして、ここにきて、ダブルクリックの買収により新しい広告配信の仕組みを手に入れたり、YouTubeによって動画サービスを提供するなかで、ディスプレイ広告と呼ばれる新たな広告提案も開始ししました。広告の手法という点では、継続的に進化しているといえますね。
■新事業は、検索が求められるデバイスの増加に対するGoogleの回答
6月にGoogleが開催した記者説明会では「Google TV」のデモも披露された |
――その一方で、Gmailサービスの展開や、Chrome OS、Android OSといったOSの開発、Google Appsといったアプリケーションや日本語変換機能の提供など、検索サービスとは異なる領域にも進出しています。昨今ではGoogle TVの発表もありました。
これらも事業が広がっていように見えますが、よくよく考えてみると、ミッションステートメントで掲げられた、情報に辿り着く道筋を提供する、という観点から逸脱したものではないのです。
検索が求められるデバイスや、情報に辿り着きたいと思うシーンが広がっています。最初は、デスクトップ、ノートPC、ネットブックだったものが、携帯電話、スマートフォンにも広がってきた。お茶の間のテレビでも、情報に辿り着きたいという要望がある。
これらは、そこに対するGoogleの回答だと捉えていただきたい。PCのユーザーは、全世界で10億人、携帯電話が20億人、それに対して、テレビが40億人。これから40億人に対して、検索窓を提供していくということになるわけです。
Googleのサービスを使いたいとされる場面が広がりを見せるなかで、情報に辿り着くために必要なものを開発し、それをサービスとして無償で提供していくという手法は変わりません。Googleは自らの立ち位置をよく理解しているつもりです。
それを最もよく表しているのがコンテンツは所有していないという姿勢です。かつてGoogleがニューヨークタイムズ社を買収するという噂が出ましたが、エリックはこれを言下に否定しました。買収したらコンテンツを所有することになり、立ち位置が崩れるからです。
Googleはコンテンツはどこにあるかという道筋を指し示すのが役割で、Googleはコンテンツを所有しているわけではない。ですから、コンテンツが有料だとか、無料であるべきだとかを言う立場にもない。
■「Googleの目標を完遂させるには200年ぐらいかかる」
ストリートビュー画面。肖像権はあくまで被写体にあるため「要望があれば消す」という。この例のように人が写っているものは、人物が特定できないように画像処理している |
――とはいえ、ストリートビューは、Googleが撮影し、コンテンツを保有しているともいえますが。
それは多くの人から指摘されます。ストリートビューは例外じゃないかと。ただ、これも、Googleの基本的なスタンスは、肖像権などの権利は、被写体を所有している人たちにある。ですから、権利者からその画像を消してくれと言われたら消すんです。
――Googleは「検索サービスの会社」としてスタートしました。いまは、なんの会社といえばいいですか。
あくまでも「検索サービスの会社」ですよ。私はそう思っています。GMailを捉えて、メールサービスをやっているじゃないかとも言われますが、GMailサービスの胆(きも)は、自分のメールを検索できることなんです。
GMailに登録すれば、一生モノでこれを使える。何年も前に、あの人と、こんなやりとりをしたな、というのが検索できるんです。Google EarthやGoogle Mapsは、これまでの言葉からの検索ではなく、住所や緯度経度といった位置情報から検索するゼオグラフィカルな検索サービスなのです。すべて、情報に辿り着くという、検索サービスなんです。
――しかし、「検索サービスの会社」と言い切るには事業範囲が広すぎますね(笑)
確かにそうかもしれませんが、私は、「検索サービスの会社」という表現が適切だと思っていますよ。その言葉でGoogleのすべて事業を表現しきれていないというのであれば、ミッションステートメントに習って、「情報に辿り着く道筋を提供する会社」という表現がいいのかもしれませんね。
ただ、主要な情報には数年以内には辿り着くことができるようになるが、この目標を完遂させるには200年ぐらいかかりますよ(笑)。
いま検索できる情報というのは、非常に限られている。書籍の情報ひとつをとっても、どれぐらいの書籍が電子化されていて、そこに辿り着ける状態になっているのかというと、ほんのわずかでしかない。
Google Earthの写真も、「うちの小学校が建て替え前の写真だから、ぜひ新しいものにしてほしい」といった要望をいただく。利用者は現在の状況を知りたいのだから、本来はもっと更新頻度を高くしなくては必要な情報へ辿り着けているとは言えない。
こんなことを考えると、まだ辿り着けている情報は、全体の0.1%以下ではないでしょうか。世の中に溢れている公開情報のすべてに辿り着く道筋を作るのには、 10年や20年じゃ、とても無理です。このミッションステートメントは、200年先を見越したものだといっていいでしょう。
■クラウドサービスを支えるデータセンター
GoogleがYouTubeで公開した、Googleのコンテナ型データセンター。現在はもっと進み、最新のベルギーのデータセンターは外気に野ざらし状態で冷房していないという |
一方で、Googleがあまり興味を持っていない分野のひとつが、物理レイヤーです。ブロードバンドが普及することは望んでますが、インターネットを支えるインフラが、光なのか、銅線なのか、あるいは無線LANなのか、3Gなのかといったことはまったくこだわらない。
しかし、検索サービスやYouTubeサービス、クラウドサービスを支えるデータセンターには大規模な投資をしていく。Googleがデータセンターで使用しているサーバーは、すべて手作りのものです。つまり、既製品ではなく、独自開発したものです。
最近、パワー・ユーセージ・エフェクティブネス(PUE)という指標が使われています。データセンター全体の消費電力を、サーバーなどの電力消費量で割った数値、つまり、冷却などの付帯施設に電力を使えば使うほど大きい数字に(悪く)なるという指標です。
日本のデータセンターの場合は2.0以上だといわれています。これに対して、Googleのいくつかのデータセンターはすでに1.2を切っている。米国のデータセンタ協会では、現状の平均値1.7を改善すべく、2011 年度の目標値として、1.2を掲げている。Googleはこの目標値を2年前倒しで、クリアしつつあるわけです。
――Googleが、この指標を達成できてきている理由はなんですか。
Googleのデータセンターは4年持てばいいという考え方を前提にしています。CPUは、ムーアの法則で明らかなように、年々進化を続け、一方で、最近では消費電力あたりの計算能力も大幅に高まっている。ですから4年経てば、全部取り替えた方が効率がいいんですよ(笑)。
コンシューマーユーザーもPCや携帯電話をその頻度で交換していますよね。それと同じです。この考え方を前提にすれば、4年で交換するならば少し壊れたっていいという発想も成り立つ。そこで室温を30度ぐらいで動かしてみたが、案外壊れない(笑)。電力料金を含むTCOの観点でみれば、ガンガンに冷やして、まったく壊さないで、かっちり使うという考え方よりも、コストでもこの方がはるかに効率的です。
Googleのデータセンターは、だいたいスレートを打ちっぱなしの倉庫のなかにありますが、最新のベルギーのデータセンターは、さらに進んで(笑)、外気の吹きさらしの中にありますよ。無理やり冷やしてなんかいない。ですからPUEは1.1です。
また、自前で開発しているサーバーはコストの観点から、CPUは一世代前のものを使っている。そして、回路設計はGoogleの開発陣が大変な工夫をして不要なものをなくし、コスト削減をしている。
■Google AppsとGoogle App Engineの位置づけ
Google Appsがユーザーあたり年間6000円という金額で提供できるのも、コストを徹底的に追求した自前で開発したサーバーを導入していることと、PUE1.1を実現するような環境をベースにしているからです。最新のCPUを採用した既製品のサーバーを外部から調達していたら、Google Appsの料金はこの水準では収まらないでしょう。
実は、Google Appsも、我々の基本姿勢からすれば、すべて無料で提供すべきものです。しかし、米国において企業間の取引のなかで、責任をどう持つかという観点から、どうしても価格設定をしてほしいという要望があった。
それならばということで、社員1人年間50ドルの料金設定をさせていただき、日本では当時の為替レートをもとに6000円としました。いまの為替だったら5000円で提供できたかもしれません(笑)。Googleの売上げの3%、約750億円が、Google Appsによるものです。
――Google AppsはGoogleにおけるクラウドビジネスの象徴的な取り組みといえますが、これはどんな意図から展開しているものですか。
Google Appsは情報系のアプリケーションであり、自前でサーバーを構築するよりは、手軽に、低料金で利用してもらえるという位置づけです。
外回りの人たちが、最新のiPadなどを使って、情報をありありと見せたい、会社に連絡をとって、見積もりのやりとりをしたい。しかも、情報漏洩を気にしなくて利用できる。そこにメリットがある。
ただし、Googleは面倒見が悪い(笑)。これは強く認識しています。日本のユーザーはこの点を指摘して敬遠することも多い。ただ、その部分まで、Googleは踏み込むことができません。そこで、SIerさんに間に入ってもらい、日本のユーザーが望むような細かな対応をしていただき、その分の収益は、SIerが得るという仕組みができています。
また、マーケットプレイスにおいては、さまざまなものがサードパーティーから提供されており、これも利用者の利便性を高めることにつながっている。いづれにしても、Googleから見ると、ファイアウォールの向こうにあるエンタープライズの世界においても、情報にアクセスする手伝いをしたいということが目的であり、その点ではミッションステートメントに合致したものです。
「Google Apps」はGmailやGoogleカレンダー、Google Documentなどをパッケージ提供するクラウドサービス。教育機関向けには無料のGmailも提供している | 「Google App Engine」はスタートアップ企業の支援を目的としたサービス |
――一方で、Google App Engineは、クリティカルな業務には使いにくいという声があります。その点はどう捉えていますか。
Google App Engineは、エンタープライズユーザーよりも、スタートアップ企業の方々が、初期のIT投資に苦労することなく、利用できることを狙ったものです。これからWebアプリケーションを作っていこうという場合にこれを活用でき、さらに将来のスケーラビリティを保証する形で公開しています。
Google App Engineは、JavaとPythonしか使えないという限定的な部分もありますし、Googleとしても、まだ試行錯誤のところがある。Google App Engineを収入の柱にするというような考えは基本的にはありません。
■追求してきたことの延長線上が、クラウド・コンピューティングだった
2006年に、エリック(=米Googleのエリック・シュミットCEO)が、初めてクラウド・コンピューティングという言葉を使ったと言われていますが、たまたまGoogleが追求してきたことの延長線上が、クラウド・コンピューティングだったということなんです。
Googleは、意図的にクラウドの世界をコントロールしようだとか、策謀を巡らせてこの世界に乗り込んできたと言われますが、そんなことはなく、むしろ、自然なプロセスの結果だったといえます。
Google Docsを例にあげれば、社内で自分たちでドキュメントを作成するときに、コラボレーション型の使い方をするのがいいことに気がつき、生まれたものです。その際にはもちろん、ドキュメントがどのサーバーににあるのかなんてことを社員が意識することなく使えたわけです。
これが次の時代のドキュメントの扱い方なんだということに気がついた。結果が、クラウド・コンピューティングだったというわけです。エリックに問い質したことはないですが、ビンゴゲームと同じで、Googleがやってきたことを並べていったら、クラウド・コンピューティングとでも呼ぶべき機能が並んで、「ビンゴ!」となった感じじゃないでしょうか(笑)。
――Googleのなかで、クラウド・コンピューティングに関する売上高は、全体の3%の売上高という認識ですか。
いや、100%すべてがクラウド・コンピューティングの関連の売上高と捉えていただいて構いません。アドワーズも、データセンターが稼いでいるわけですから(笑)、すべてがクラウドです。今後もそうした状況が続いていくでしょう。
私は、クラウド・コンピューティングは、「最終的なコンピューティングの姿」だと捉えています。少なくとも、このスタイルは長期的に続くでしょう。
クラウド・コンピューティングの本質的な部分は、雲のかなたに巨大なコンピューターがあり、手元はスマートフォン、タブレット、ネットブックといったシンクライアントで利用できるというもの。大容量のハードディスクや、パワフルなCPU、重たいOSは、手元には必要ないのです。
これはどんどん進化していくでしょう。眼鏡とイヤフォンを装着し、音声だけで操作するというように、ガジェットはより小型化していくことも想定される。手元のものはより薄く小さくというのが、クラウド・コンピューティングのこれからの進化だといえます。
――Googleにおけるクラウド・コンピューティングの強みとはなんですか。
Googleの強さは、検索技術などのソフトウェアにあるといわれますが、私から見たら、データセンターに代表されるハードウェアの力もあることが大きい。
YouTubeに関しても、すべての動画を、無料でお預かりするということを決めているわけですから、そのためにはどんどんデータセンターを増やしていかなくてはならない。無料でサービスを提供する一方で、無尽蔵に増えるデータセンターに投資を続けている。
ネットビジネスは、うまくいけばいくほど設備が足らなくなる。特に初期には、収入がそれに追いついてこない、先行投資型のビジネスです。YouTubeが依然として赤字というのも当然のことです。だけど、ユーザーはどんどん増加する。本来ならば、「社長! 収入が足りなくて、データセンターを増やせません」という話になる(笑)。
だが、Googleは、これをうまく回してきた。2兆円を超える売上高を誇り、巨大なデータセンターを運用して、まだ余力を持っている。
ブック検索のためのコンテンツも、図書館から書籍を運び出して、すべて手作業でスキャンしている。これも膨大な投資になります。日本では、和紙を綴じた古書も丁寧に扱って手作業でスキャンをしています。こうしたことをやっていけることも、Googleの強みだといえます。
■Google特有の文化を維持していくことが永続的な成長に必要
「これまで培ってきた期待を裏切ることは、人が離れることと同義語であるということは理解しています」 |
――Googleが「鉄の三角形」の維持を含めて、いまの体制を、将来に渡って維持することはできるのでしょうか。いまは経営を維持しているが、なんらかの事情があって経営トップが変更した場合など、Googleに預けた情報がどうなるのかという不安もあるはずです。
創業者であるラリー・ペイジ、セゲイ・ブリン、そして、エリックの3人が持つ株式は、特別で、市場に流通する株式の議決権の10倍の議決権が付与されています。
創業者の2人はまだ30代ですから、まだ何十年もこの体制は維持されるとは思いますが、これからは、この鉄の三角形を次世代の人が引き継いでくれる流れも作っていく必要があるでしょうね。
いま、Googleがやっていることは公共事業に近いところがある。まぁ、いわば究極のどんぶり勘定なんですよ(笑)。赤字の事業も多いですよ。Google Earthひとつとっても、あれが無料でみんなが楽しめるなんて、普通は考えられないですよね。これまで培ってきた期待を裏切ることは、ユーザーが離れることと同義語であるということは理解しています。
Googleは、サービスと収入とを切り離しています。だから、R&Dの人たちはお金の心配をせずにサービスを考えている。これがGoogleならではのサービスの創出につながっている。こうしたGoogle特有の文化を維持していくことは、Googleの永続的な成長のためにも重要なものです。
■日本市場で注力していくこと
――今後、Googleが日本で力を入れていくものはなんですか。
ひとつは、ディスプレイ広告ですね。ここは大手の広告代理店とのパートナーシップも強化していきたい。トータルな広告プランのひとつとして、これを広告クライアントに活用してもらえるような提案ができるようにしたいですね。
YouTubeには、いま広告はほとんど掲載されていませんが、YouTubeを有効な広告メディアとしても活用してもらえるようになるという観点でも大きな取り組みだといえます。YouTubeのディスプレイ広告では、YouTubeの動画の下に表示される関連する広告をクリックすると、動画でそれが紹介されるというようになる。今後1年で目に見えるような成果を出していきたいと考えています。
■クラウド・コンピューティング普及における課題
――今後、クラウド・コンピューティングの普及における課題はなんだと考えていますか。
ひとつは、法的な監督権限はどの政府がどこまで持っているのかということが国際的な問題となってくる点でしょうね。
クラウド・コンピューティングの世界や、コンピューティング技術の世界では、どのデータセンターに、どのデータがあるのかというのは、もはや無意味な議論でもあるのにも関わらず、法制度がそれに追いついていない。
いまのままでは、犯罪に関する証拠データの提出に関して、そのデータが国外のデータセンターにあった場合、外交的な問題にも発展する可能性がある。その点では、クラウド・コンピューティングでの利便性の裏で、、こうした問題を解決する必要性があります。
また、さすがに最近では少なくなってきましたが、データを預けることに対する不安を持っている人がいまだにいるということも問題です。これは、明治初期に銀行ができたが、銀行にお金を預けるよりも、床下に埋めたり、タンスのなかに貯金しておく方が安心だというのに等しい議論です。
自前のサーバーでやっている方が、情報漏洩やセキュリティに対する危険を増大させており、サーバーダウンも多い。また、クラウド化していないことが、情報を外に持ち出す温床にもなっている。安全、安心という点においても、クラウドは最適であるという認識を広げていく必要があるでしょうね。
とはいえ、オンプレミス型のアプリケーションは残ります。とくに、勘定系の領域などでは、残っていくことになるでしょう。Googleはあくまでもファイアウォールの外でビジネスをしており、ファイアウォールの向こう側に対しては、Google検索アプライアンスを提供していくという形になります。
■スマートグリッドへ~人とモノ、モノとモノのコミュニケーション
「インターネットは人と人のつながりだったが、スマートグリッドは人とモノ、モノとモノのコミュニケーションにまで拡大します」 |
――ところでGoogle TVは、今後、日本ではどんな展開になりますか。
Googleには、1社とのエクスクルーシブな契約というものは存在しませんから、すでに報道されているソニーに限らず、将来的には複数の企業から製品が出てくることになるでしょう。
さらに、Android OSという観点で捉えれば、携帯端末メーカーだけではなく、ハウジングメーカーが、スマートハウス、家電メーカーも、スマートアプライアンスという観点から活用することができるようになります。いよいよ冷蔵庫も洗濯機もインターネットにつながるようになり、ここでもAndroid OSが採用されることになると期待してます。
社会がスマートクリッド化していくなかで、家庭のなかにAndroid OSが組み込み型で入っていくことになります。そのなかで、テレビもAndroid OSが搭載されたGoogle TVとなるのはごく自然の流れです。
また、Android OSが持つ、オープン性は大変魅力的なものです。これによって、Androidをサポートするチップが増加するのはわかっていますから、結果として、どんな規模のものでも対応できようになる。そうなると、Google TVが目指す、40億人の市場だけでなく、スマートグリッドが実現する「Internet of Things」を、Android OSが支援することになる。
インターネットは人と人のつながりでしたが、スマートグリッドでは、人とモノ、モノとモノとのコミュニケーションにまで拡大する。屋根に乗っている太陽光パネルと、キッチンにある冷蔵庫が会話することもある。この世界にまでAndroid OSが活用されていくことになる。これは、インターネットへの間口を広げていくという点でも、Googleがこれまでやってきたことと、一貫性があるわけです。
――やはり検索サービスの会社という枠では収まりませんね(笑)。ちなみに、Googleのライバルはどこなんですか。
まわりはいろいろと言いますが、どこかと競合しているという意識はないんですよ。検索サービスという点では、ヤフーと競合するところはありますが、Googleが鉄の三角形にこだわるビジネスモデルであるのに対して、ヤフーは、サービスの一部が有料だったり、物販を行ったり、オークションを行ったりといった課金サービスを展開しています。ですから、直接に競合する部分は、少ないんです。
また、最近はスマートフォンの分野で、アップルとも比較されますが、iPhoneの発売当初は、Googleの社員のなかで一番使われていたのはiPhoneじゃないですか(笑)。さらに、私は講演会ではPowerPointを使っていますから、マイクロソフトの製品も利用している。
八百屋と魚屋とみたいなもので、店の前に主婦が立ち止まったら、「今日は魚にしてよ」、「野菜はヘルシーだよ」という取り合いはしますが、食卓には、野菜炒めの横に、魚の煮付けが並べばいいんですよ(笑)。競合といわれる企業とGoogleは、そんな関係だと思っています。