「幻滅期」に入ったクラウド~正しい理解ができているか


 クラウドを取り巻く状況についての2つのレポートが先月発表された。過熱するマーケティングがクラウドの正しい普及を妨げる恐れがあるという内容で、ベンダーや業界関係者にとって少々耳が痛いものだ。同時に、コンシューマーの間にクラウドサービスがすっかり普及していることも分かった。
クラウドを本当に有効に活用することを、いま一度考える時が来ている。

「幻滅期」に入ったクラウド

 1つ目のレポートはGartnerの「Hype Cycle for Cloud Computing 2012」だ。「Hype Cycle」は同社が開発した手法で、技術の成熟度を「黎明期」「流行期」「幻滅期」「回復期」「安定期」の5段階で評価する。期待を縦軸、時間を横軸とした曲線で表すと、「黎明期」から「流行期」に向けて高い山を描き、幻滅期で深い谷をつくった後、「回復期」と「安定期」で緩やかに上昇する。あらゆる新テクノロジーは、こうした段階を経ていくというものだ。谷に落ちた後に上昇に至らず、消えていく技術も少なからずある。

 Gartnerは、昨年がクラウドの「流行期」のピーク(hype)だったと考えており、最新のレポートでは「幻滅期」に入ったと報告した。「幻滅期」ではメディアの注目が薄れ、市場の関心も低くなる。Gartnerは、ここでベンダーがクラウドではないサービスまでクラウドと形容するなど、人気にあやかろうとクラウドという言葉を安易に使ったため、混乱が生じたと述べている。

 また、企業の関心を引くため、コスト削減につながらない場合にまでクラウドが持ち出されているようだと指摘する。その一方で「hype疲れが定着してしまった場合、アジャイルさ、スピード、イノベーションなどクラウドコンピューティングが、もたらす散在メリットが見過ごされる可能性もある」と結論している。


一般ユーザーの理解も不足

 クラウドは、GoogleやMicrosoftなどが一般ユーザー向けに提供するWebメールが先駆けであり、コンシューマー分野で先に発展したトレンドだ。2つ目のレポートはコンシューマー調査で、先行したはずのコンシューマーの間でも、あまりクラウド理解されていないというものだ。

 調査は、クラウド技術をラインアップに持つCitrix Systemsが出資し、調査会社が米国人1000人以上を対象に行ったもので、クラウドコンピューティングという用語が正しく理解されているかについて調べた。

 それによると、クラウドコンピューティングとは何かを正確に理解していたのは16%で、「雲」を思い浮かべたのか、「天候が関係する」と思っている人が51%もいたという。54%以上が「使ったことがない」と回答したが、実際には、オンラインバンキングやSNSなどクラウド経由で提供されるサービスを97%の人が使っていることも分かった。「クラウド人気はメインストリームの文化に根ざしつつあるが、クラウドコンピューティングについての理解とその現実は大きく乖離している」とCitrixはまとめている。


コスト削減メリットへの偏りに落とし穴

 こうしたことは以前からも指摘されている。Gartnerが言うクラウドの言葉の混乱については、業界団体Cloud Industry Forum(CIF)も、「クラウドの定義」が急務として課題に挙げていた。「幻滅期」に入った現在、クラウドを安全に回復期に移行させることが課題であり、「常時直面している大きな課題は定義だ」とCIFのチェアマンAndy Burton氏が述べていることをCloudProは伝えている。

 NetworkWorldは、別の業界団体Cloud Security AllianceのCOOであるJohn Howie氏の見解を紹介している。それによると、消費者の間ではクラウドの機能やメリットに過度な期待が残るが、プロバイダーは現実的になっており、期待を適切なレベルに設定するという点で評価できる努力があったという。そして、「エンタープライズITレベルでクラウド実装の決定権を持つ人たちは、クラウドとは何か、どのような機能やメリットをもたらすのかを正確に理解している」と付け加える。

 エンタープライズによるITを主なテーマとするブログA Passion for Researchは、Gartnerのレポートを取り上げ、「コスト削減のみにフォーカスしてクラウドを見ている企業は、潜在的可能性を見失う」「特定の戦略に的を絞り、業績アップのためにクラウドを活用しようとする企業が最高の結果を得ている」と読み解いている。


エンタープライズでの混乱には要注意

 もう一つのエンドユーザーの理解不足について、Computer Business Review(CBR)は「何ら問題はない」と一蹴する。「明らかにクラウドコンピューティングの利用は増えている。クラウドコンピューティングとして認識していないことが問題だろうか?」とCitrixのレポートを批判し、「どのみちマーケティング部門から出てきた用語で、以前から存在するものを再ブランディングしたにすぎない」とした上、ユーザーが最も気にしていることは情報の保存、共有、アクセスなのだとしている。

 とはいっても、エンタープライズ分野での誤解や混乱は悪影響をもたらす恐れがある。「回復期」への移行を遅らせる、あるいは移行の障害となる可能性もあるからだ。ソフトウェアのSaaS、インフラのIaaS、プラットフォームのPaaS、そしてプライベート、パブリック、ハイブリッドと「クラウド」といっても、非常に広範囲に使われている。

 これから、クラウドは無事「安定期」に向かうのだろうか? Cloud Security AllianceのHowie氏は、混乱が倦怠や失望を招くことにはならないだろう、と楽観する。むしろ、最大の問題はクラウドを導入するユーザーがクラウドとコスト削減を直結させている点という。

 Howie氏は「クラウドは特効薬ではない。適切な目的のために正しく実装する必要がある」と述べ、組織内でクラウドコンピューティングの計画と実装を導くことに、ベンダーの責任があると指摘している。


関連情報
(岡田陽子=Infostand)
2012/9/3 09:22