Baiduのモバイル&クラウド戦略 世界2位の検索サービスの次の狙い
中国の検索最大手Baidu(百度)が、モバイルとクラウドの拡大戦略を打ち出した。5億人を超えるインターネットユーザーを擁し、その過半数がモバイルという中国で、モバイル端末とクラウドが支える新しいネット時代に向けた布石である。PCで築いた地位をどう維持し、次につなげるかが課題だ。
■クラウドが支えるBaiduのモバイル戦略
Baiduは、“中国のGoogle”とも呼ばれる同国の検索サービス最大手だ。80%近い圧倒的なシェアを持ち、中国では本家Googleをも寄せ付けない。世界でもGoogleに次ぐシェア第2位に位置づけられる。NASDAQにも上場しており、中国のインターネットを語る上で欠かせない存在だ。
Baiduは9月3日、年次カンファレンスで新戦略を発表。Androidスマートフォン向けのWebブラウザー「Baidu Explorer」を公開した。合わせて10億元(約16億ドル)を投じてクラウドサービス分野を強化することも発表した。Baidu会長のRobin Li氏は「クラウドが支えるモバイルインターネットこそ、次のイノベーションの波の中心になる」と述べている
Baidu ExplorerはReutersなどによると、独自技術の「T5」エンジンを搭載、競合製品と比べ約20%高速という。2010年から開発を進めてきたもので、英語版と中国語版を用意する。技術的特徴としては、Webベースのモバイルアプリやサービスに高速にアクセスし、HD動画もプラグインなしで閲覧できる。マルチタスクレンダリング、高度な中国語による音声検索、位置情報サービスなどの機能も伝えられている。
The Next Webによると、HTML5サポートを検証するテストThe HTML5 Testで、Baidu Explorerは好スコアを記録し、500点満点中482点だったという。モバイル版Chromeの371点、Operaの367点などを上回る点数である。Baiduは、年内に中国内でのAndroidブラウザーでのシェア8割を目指すと豪語している。
一方、クラウドについては投資の発表にとどまり、詳細は明らかにしていない。だが、クラウド経由で利用できるサービスを増やすことで、モバイルとクラウドを相互に補完するという位置づけとみられる。
China Dailyによると、Baiduはアプリ開発者に、データストレージや分析など7種類のクラウドサービスを提供する予定。同社のモバイル・クラウドコンピューティング部門担当ゼネラルマネージャーのLi Mingyuan氏は「これまではユーザーのニーズを調べていたが、現在は開発者のニーズを調べている」と語っている。
■ライバル急浮上
中国という巨大な市場で、これまでBaiduは順調に成長してきた。そんな中での拡大戦略で、背景にはモバイルへのシフトと他社との競合という2つの要因があるようだ。
モバイルへのシフトは世界的なトレンドとなっている。中国でも7月に同国政府が発表した2012年上半期データで、初めてモバイルからのネットアクセスがPCからのそれを上回った。総ユーザーは11%増の5億3800万人、うちモバイルからのアクセスは3億8800万人で22%の増である。
拡大するモバイル市場に対し、実はBaiduはこれまで後発組に甘んじてきた。Analysys Internationalによると、デスクトップでは検索市場の78.8%を占めるBaiduだが、モバイルでのシェアは35%にとどまる。そこで、5月に独自のOS「Baidu Cloud」を発表。8月末にはTCLが製造したBaiduブランドのスマートフォン「TCL S710」を発表するなどのモバイル対策を打ち出している。クラウド側では、3月にDropBox風のオンラインストレージサービス「Wang Pan」の提供を始めたばかり。15GBを無料で提供する“太っ腹”だ。
一方で他社との競争が激しさを増している。中でも、先にモバイルブラウザーをスタートさせ、検索でのBaiduのシェアを脅かす勢いで成長しているのがQihoo 360 Technologyだ。
Qihooは、ウイルス対策ソフトなどセキュリティベンダーとしてスタートした企業で、8月中旬にローンチしたモバイルブラウザーでは、自社の検索サービスをデフォルトにした。この戦略は成功し、現在検索市場で、Baiduに次ぐ2位の地位に詰め寄っている。その一方でBaiduの株価は17%下がったという。
両社は現在、お互いに相手サイトから来たトラフィックを自社にリダイレクトして取り込もうとするなど、激しい競争を繰り広げているという。China Dailyは、こうした状況を受け、当局が調査に乗り出していることも示唆している。
またBaidu Explorerは、モバイルブラウザー市場では、UCWeb、Opera、Google Chrome、Androidのネイティブブラウザーなどと戦うことになる。そこで目標の8割を年内に達成するのは容易なことではないだろう。
■課題は「収益をどう得るのか」
では、Baiduの動きについて、専門家はどう評価しているのだろう?
BBCは、BDA ChinaのアナリストDuncan Clark氏の「戦略的にみて正解」というコメントを伝えている。「PCでの独占をモバイルとタブレットの世界に移そうとする」ことは当然ともいえる流れだが、問題はビジネスモデルだ。
Clark氏は「広告の売り上げに依存するWeb企業にとって、モバイルで収益を上げることが課題になっている」とした上で、「Baiduが主事業とする検索はモバイルに適しており、地図のようなアプリ、位置情報ベースのサービス、それにブラウザーにより、自分たちのアプリへ高速かつスムーズなアクセスを提供できる」と優位性を指摘している。
RedTech AdvisorsのMichael Clendenin氏も同意見だ。Baiduの課題はモバイルで収益を上げることだと認めたるが、顧客である広告企業側のモバイル対応にも時間を要することから「中期的な懸念がある」とReutersに語っている。
広告に依存する企業がPCでの成功をモバイルでどう実現するかは、Facebookなどにも共通する課題だ。この難題に、BaiduはモバイルOS(Android)とブラウザー(Chrome)を提供することを選んだ。やはり検索からスタートしたGoogleと同じ戦略をとっているようにみえる。