Amazonがスマートフォン参入? 無料配布の可能性も


 Amazonがオリジナル端末でスマートフォン市場に参入すると伝えられている。オンライン小売という、またまた異業種からの挑戦だが、同社には199ドルという衝撃的な価格のタブレット「Kindle Fire」を2011年第4四半期で480万台出荷した実績(IDC調査)がある。最も競争の激しいスマートフォン市場で、いきなり成功しうる新規プレーヤーがいるとすれば、筆頭に挙げられるだろう。関心はいやがうえにも高まっている。

 

画面サイズ4インチから5インチ、来年にかけて量産

 Bloombergが7月初めに報じたところによると、Amazonは、iPhoneの製造委託先としても知られる中国のFoxconnと、新しいスマートフォンのテストを行っているという。プラットフォームはAndroidで、Kindle Fireの戦略を踏襲しながら、電子書籍、音楽、映画などのコンテンツを販売する戦略を進めているというのだ。リリース時期は、2012年末とされていた。

 その翌週には、Wall Street Journalが、Amazonのパーツサプライヤーの匿名幹部の話として、テスト中のスマートフォンは年末から来年初めにかけて量産というスケジュールを伝えた。さらに別の関係者によると、端末の画面サイズは4インチから5インチという。現在のiPhone 4(3.5インチ)より一回り大きく、多くの新しいAndroidスマートフォンが採用しているサイズだ。

 Amazonがスマートフォンを出すといううわさは以前にも出たことがある。昨年11月、Citigroupのアナリスト、Mark Mahaney氏が、台湾などのサプライチェーンをチェックした結果、2012年の第4四半期にAmazonのスマートフォンが登場すると見込みで、その製造コストは1台当たり150ドルから170ドル程度と予想されると報告していた。

 「テスト中」はその具体的な話となるが、Amazonのスマートフォンをめぐってはこのところ、さまざまな“状況証拠”が出していた。まず先月、Amazonが3D地図技術のベンチャーUpNextを買収していたことをGigaOMが報告。現行のKindle FireにはGPS機能がなく、この買収がスマートフォンにつながるものである可能性を指摘した。

 また、先のBloombergの記事もAmazonが無線技術のInterDigitalから無線関連特許買収を検討していたこと、知財法務の体制の強化を図っていることを伝えている。さらに先週後半には、Microsoftで携帯電話部門のシニアディレクターを務めていたRobert Williams氏が、Amazonに移籍したことがビジネスSNSのLinkedinに書かれた同氏のプロフィールから判明した。Amazonではアプリストアのディレクターに就任しているという。

 

無料スマートフォンが実現する?

 こうしてAmazonのスマートフォン市場参入は、かなり確度が高いとみられているが、その狙いはどこにあるのだろう。

 シアトルのベンチャーキャピタルFounders Co-Opのgeneral partner、Chris DeVore氏は、Amazonが「消費者の財布の100%をコントロールする」ことを目指しており、スマートフォン進出は「モバイルデバイスが消費者の買い物の世界で、デフォルトのユーザーインターフェイスになろうとしている」なかで、理にかなった戦略であると指摘している。

 また、businessweekの経営ブログでは、ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院のAlexander Chernev教授(マーケティング専攻)が「なぜ、Amazonスマートフォンが意味があるのか…Amazonにとって」と題して寄稿。消費者がますますモバイルデバイスに依存していく流れの中で、スマートフォン参入は意味あることであり、ソフトウェア・プラットフォームとしてのKindleシリーズとの相乗効果も期待できるとしている。

 そして両氏がそろって挙げるのが、Amazonのスマートフォンの価格が、Kindle Fireの199ドルより、もっと安価に、ひょっとすると無料で配布される可能性があることだ。

 Chernev氏は、Gilletteの有名な「Razor and blades」(かみそりとかみそりの刃)戦略(かみそりのホルダーをタダで配って替え刃を売ることで利益を得た)を引き合いに出す。またDeVore氏は、例えば、特典付きの有料サービスAmazon Primeの長期契約者向けに配布する可能性があると述べている。毎月必ず一定数の品物をAmazonから買うことを条件に、広告付きの無料スマートフォンを提供するといったことだ。

 

「スマートフォン市場は甘くない」

 一方、メディアには、Amazonのスマートフォンビジネスへの懐疑論も根強い。一様に指摘しているのが、スマートフォン市場が既に相当に過密な状態であることだ。iPhoneや多くのAndroid端末、そして再参入を図るMicrosoftのWindows Phone。さらにRIMやNokiaも忘れてはならない。この中に新参者が入って生き残るのは容易ではないだろう。

 Business Insiderは、Bloombergのニュースを受けてすぐ、「電話で本や雑誌を読むなんて、よい考えではない」「ユーザーが“Kindle Phone”を必要とする理由なんて一つも思いつかない」と辛らつにコメントした。また最近も、13日付のForbesが「Amazonのスマートフォン市場参入は非常によくない考えだ」という投資顧問のRobert W. Baird & Coのアナリストの分析を紹介している。

 アナリストのColin Sebastian氏はリサーチノートで、「AppleやGoogleとの競争の問題はさておいても、スマートフォン市場への参入コストは巨額で、数億ドルにもなる」「その上、Amazonには、自社のWebサイトで販売するほかに、コストの高いキャリア経由の販売も必要である」とスマートフォン参入の難しさを指摘している。Bairdの調査でも消費者はAmazonのスマートフォンを望んではおらず、Amazonは“KindlePhone”を作るというアイデアそのものを再考すべきだとしている。

 だが、幾多の困難の一方、自社のスマートフォンを持つことには、潜在的に巨大なメリットがある。Wall Street Journalは解説記事で、スマートフォンによってモバイルの消費者に到達できるほかに、通話情報、アプリのダウンロード、位置情報、地図検索など、膨大な新しい消費者データが次の販売に活用できると指摘している。

 当のAmazonは完全に沈黙を守っているが、新しいタブレット“Kindle Fire 2”の投入は目前であり、配送体制の大きな変更も伝えられるなど、その攻撃的なビジネス展開は変わっていない。Chernev氏はAmazonがスマートフォンに進むと信じており、ブログエントリーをこう締めくくっている。「Amazonが直面する困難も、そのスマートフォンでの成功を妨げはしないだろう」

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(行宮翔太=Infostand)
2012/7/17 11:22