Yahoo!再建の切り札はGoogleから? Mayer氏の新CEO就任


 新しいCEOを探していたYahoo!が、Google初期からの幹部で、顔として活躍してきたMarissa Mayer氏を迎えたと発表した。米国のハイテク業界は、この電撃移籍の話題で持ち切りだ。Web検索、Gmail、マップなどのサービスにかかわってきた同氏は、Google成功の立役者の一人といわれている。そのMayer氏がYahoo!再建のリーダーとなるのだから、興味も期待も大きい。

 

5年で最大1億1700万ドル

 Mayer氏はGoogleでの社員番号が20番。同社初の女性エンジニアでもある。13年間勤務したGoogleではこれまで、製品マネジメント担当幹部として主力製品の検索やGmailなどのサービスのユーザーエクスペリエンスなどを担当。直前まで、地域情報担当副社長としてGoogleの強化事業である地図・ローカルサービスを統括してきた。

 Yahoo!にしてみれば、検索、広告とさまざまな面で後塵(こうじん)を拝してきたGoogleからMayer氏を迎えるのは願ってもないチャンスだろう。当然オファーでもそれなりの金額を提示していた。同社がSEC(証券取引所委員会)に提出した書類によると、Yahoo!はMayer氏に基本年俸100万ドル、業績によって最高400万ドルのボーナスを提示し、5年間で最大2500万ドルの報酬を支払う。さらにストックオプションや、Googleで保持していた株の補償などを合わせれば、最大で1億1700万ドルを手にすることになるとBusiness Insiderは計算している。

 引き抜きは慎重に行われたようだ。BusinessWeekなどによると、CEOを探していたチームがMayer氏にアプローチして最初にミーティングを持ったのは6月。Yahoo!社内の誰にも知らせず、本社から20キロ近く離れた法律事務所で会った。移籍の話がまとまり、最終的にYahoo!の取締役会がMayer氏に会ったときは、役員はバスでその法律事務所に連れて行かれたという。かなりの“スピード婚”だったことになる。

 

Yahoo!とは何か?――ビジョンを示せ

 この人事、話題性は十分だが、Mayer氏がYahoo!再建という重責を果たせるかとなると話は別だ。Yahoo!の低迷が長期化しているだけに、メディアも市場も楽観はしていない。新CEO発表の数日後に報告した第2四半期の業績は、売上高が前年同期比0.9%減の12億1800万ドル、純利益が同4.4%減の2億2600万ドルの減収減益だった。Yahoo!株は、この5年で41%下落している。主な収益源であるディスプレイ広告では、GoogleやFacebookにシェアを奪われ続けているのだ。

 Mayer氏が取り組まねばならない課題は山のようにある。ビジョンの確立、戦略立て直し、そして投資家はもちろん、この1年で3人目(暫定を入れると4人目)のCEOを迎える社員からの信頼獲得とモチベーション改善も図らねばならない。

 そして多くのメディアが「ビジョンを示せ」と注文をつけている。ポータルサービスでスタートしたYahoo!は、Microsoftとの提携で検索を手放し、買収したFlickrなどのサービス資産も中途半端な状態だ。昨年9月に解任されたCarol Bartz氏は「デジタルメディア企業」を標榜し、その後を引き継いだScott Thompson氏はFacebookに対して訴訟を起こすなど知的所有権を強調した。

 Thompson氏が学歴詐称疑惑の中で辞任したのを受けて暫定CEOを務めたRoss Levinsohn氏は、Facebookと和解すると同時にコンテンツや広告で提携を結び、再度メディア/コンテンツ側に針を戻した。Forbesは新CEOは「Yahoo!が何であるのか?」をユーザー、広告主、従業員ら皆に示す必要があると説いている。

 Yahoo!側も、こうした声を分かっているようで、CFOのTim Morse氏は決算発表時、「Mayer氏は時間をかけてYahoo!の現状を把握する」と説明し、数カ月内に戦略発表を行うと述べた。Mayer氏本人は「Googleではすばらしいユーザーエクスペリエンスの提供を通じて、ユーザーに喜びとインスピレーションを与えることにフォーカスした。Yahoo!でもこれを行うつもりだ」とNew York Timesに述べている。

 また、All Things D:が入手したYahoo!社員向けメモでMayer氏は「ここ数カ月、Yahoo!にはたくさんの変化があり、戦略に関しての問題が残っていることを認識している」と記している。「いくつかのアイデアがある」としながらも、戦略や方向性を変更するまでにまだ作業が残っているとしている。

 

Mayer氏への評価は

 外部からの目はどうだろう。Mayer氏が製品マネジメントや開発のエキスパートで、企業戦略やマーケティングでの経験がないことを不安視する声もある。

 オンライン広告事業を2007年にYahoo!に売却したRight Mediaの元CEO、Mike Walrath氏は、Mayer氏は適任でないとブログで表明した。理由として(1)Yahoo!は技術イノベーターではなく、同社の強みはメデイア資産にある、(2)直近の2人のCEOは製品リーダーだったが、この戦略は成功しなかった――という2つのポイントを指摘。Yahoo!には「メディアのチャンスを理解しているCEO」が必要で、暫定CEOのLevinsohn氏こそが適任だったと主張する。

 一方、Mayer氏がうまくやれると見る者も少なくない。Netscapeの生みの親でベンチャーキャピタリストのMarc Andreessen氏はBusiness InsiderのインタビューでMayer氏を手放しで称賛し、拡張性のあるマネジメントスキル、製品リーダー、インターネットの熟知を理由に挙げている。

 Gartnerのアナリスト、Allen Weiner氏は、Mayer氏の起用を「予想外」とWall Street Journalにコメントしながら、Mayer氏がLevinsohn氏と強いリーダーチームを組めるかが、成功のカギになると見る。そして「従業員のモチベーションを高め、うまく協業できれば成功できる」とYahoo!に溶け込むことを条件とする。

 ベンチャーキャピタリストのFred Wilson氏も自身のブログで、「3月(Yahoo!がFacebookを提訴した月)、Yahoo!は死んだと思ったが、改心したようだ」と述べ、見方を改めたことを記している。

 

プライベートでは妊娠7カ月

 Mayer氏には、プライベートの話題も飛び出している。Yahoo! CEO就任発表後すぐにMayer氏は自身の妊娠も発表、再び業界を驚かせた。出産は10月予定というから、まさにYahoo!立て直しの最初の重要な時期に、出産という女性の大イベントも迎える。Mayer氏は産休の間も仕事をするという。

 Yahoo!本社には、先の大統領選挙中のBarack Obama氏のポスター「HOPE」をまねて、Mayer氏のHOPEポスターが張られているという。Yahoo!にとってMayer氏は希望であり、そして頼みの綱であることがうかがわれる。Mayer氏の責任は重い。

 Mayer氏が、このヘビーな仕事と出産・育児の両方をうまくこなすことができれば、ハイテク業界にとどまらず、ビジネスの世界のスーパーウーマンとして評価されることになるだろう。

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(岡田陽子=Infostand)
2012/7/23 11:11