Googleの新プライバシーポリシー 背景にFacebookとの競争激化


 Googleが新しいプライバシーポリシーへの移行を発表した。これまで各サービスごとに設けていたポリシーを1本化するもので、メインの検索を含むほぼすべてのサービスが関係する大規模な変更だ。「Search plus Your World」を巡る議論に決着がつかない中、新たなプライバシー問題として浮上している。

Googleサービス間で個人情報を統合・共有

 1月25日に発表された新プライバシーポリシーは、検索、電子メール(Gmail)、カレンダー(Google Calendar)、動画(You Tube)など60種類以上のサービスで、別々だったプライバシーポリシーを1本化する。ユーザーにとっては大幅に簡素化されたものになるという。

 その代わり、Google Accountを使ってログインしたユーザーは、あるGoogleサービスで入力した情報とほかのGoogleサービスで入力した情報の組み合わせが可能になることを承諾する。Googleの言葉を借りれば、「Googleの各サービスを横断的に1人のユーザーとして扱える」ことになり、サービス体験や品質(検索であれば、検索結果の精度)をアップするという。

 これにはもちろん広告も含まれる。Androidユーザーの場合はGPS情報なども対象となり、カレンダーにある予定、位置情報、交通情報などを組み合わせ、「待ち合わせに遅れる」と警告することなどが可能になるという。同時に、データ移行の自由を尊重し、ユーザーが希望すればデータを別のサービスに移行できると強調している。

 新しいポリシーは1カ月間の告知期間後、3月1日に発効する予定だ。


わきあがるプライバシー懸念

 これに対し、まず、8人の下院議員が変更の意味を問う質問状を翌1月26日付で送付した。Googleは31日に13ページにわたる回答を公開。プライバシーへのアプローチは従来と変わらず、ユーザーは引き続き選択やコントロールができる。またプライバシー情報も引き続き非公開で、新しい情報を収集するものではないと説明。さらに、統合を望まないユーザーはアカウントを使い分けることで懸念も回避できるとした。

 また、欧州連合(EU)は2月2日、Googleの新しいプライバシーポリシーに対する調査を開始したことを明らかにした。そして、最新のポリシーがEUのデータ保護法に抵触しないことを確認するまでは実施を待つよう求めた。Googleはこれに対し、「新ポリシーを発表する前に当局にブリーフィングを行ったが、そこでは大きな懸念は聞かれなかった」とする声明文をHuffingtonpostなどに出している。

 Googleでプライバシー問題が取りざたされるのは今年早くも2回目だ。前回は1月10日にスタートした新サービス「Search plus Your World」で、主にGoogleのSNS「Google+」のユーザーが関係するものだった。だが今回は、GmailやGoogle CalendarなどGoogle Accountを持つ全ユーザーが対象となり、影響は広範にわたる。この2つの発表は、ある程度事前に計画されていたように思える。Googleの“金の卵”であるユーザーデータを扱う態度が変わってきたとも見える。メディアの反応はどうだろうか?


広告をめぐるFacebookとの競合激化

 Wall Street Journalのテクノロジーブログは、「ある意味、今回の変更はショッキングなものではない」とする。Googleはこれまでもユーザーの情報を収集しているのだし、ユーザーは広告の代わりに無料でサービスを利用できる。多くのユーザーが待ち合わせに遅れる警告を便利だと思うかもしれない。結局のところ、『タダ飯なんてものはない』(タダほど高いものはない)。企業は収益を上げなければならないのだ」と述べている。

 Wall Street Journal本紙では、プライバシー/セキュリティ研究者のChristopher Soghoian氏の「WebのどこにいってもGoogleはユーザーを追跡できる。Androidのユーザーなら実生活もだ」というコメントを紹介しながら、「(新しいポリシーは)ユーザーとGoogleの関係を書き換えるものになる」と述べ、こうした大胆な変更の背景には、SNSのFacebookとの競合があるとする。

 世界に8億4500万人のユーザーを持つFacebookは、その個人情報を保持している。同社が株式公開申請で公開した情報によると、2011年の売り上げは37億ドル。うちの85%が広告収入という。同じく広告を主要な収入源とするGoogleにしてみれば、今後広告主をめぐってFacebookとの競争が激しくなることは想像に難くない。Wall Street Journalは「個人データをめぐって両社の競争が激しくなっていることを示すものだ」としている。


ユーザーとサービス提供者との関係再構築へ

 ユーザーはどう考えているのだろう。Washington Postが実施したオンラインアンケートによると、なんと66%が「今回の変更を受け、Google Accountを削除するつもり」と回答した。同紙はその後、「どうやってGoogle Accountを削除するか」というハウツー記事を掲載している。

 企業や政府などの法人ユーザーの影響を調べたArsTechnicaは「法人ユーザーには影響なし」と結論づけている。米国で政府機関のサービスや製品の調達にかかわる連邦政府調達局(GSA)も、Google Appsソリューションの利用はGoogleと主要プロバイダのUnisysとの間で合意している契約に基づくものであり、今後も方針を変更するつもりはないと述べている。なお、GSAもGoogle Appsの顧客である。

 こうしたデジタル時代のプライバシーを考える上で、BetaNewsのJeremy Liu氏と、ZDNetのJohn Fontana氏の記事が興味深い。Liu氏はハイスクール在学中で、ガジェットを使いこなす若いライター。Fontana氏はNew York Timesなどにも寄稿するベテランのITジャーナリストだ。

 デジタルネイティブ世代といえるLiu氏は、SNS、スマートフォンなどによってユーザーの生活が変わっていること、現実世界では匿名性の維持は難しいことなどを挙げ、「Googleは邪悪ではない。単に古い考えから脱しつつあるだけだ」と擁護する。そして、「乱暴な言い方をすれば、公開性と発見できるオンラインアイデンティティを背後に持つアイデアや価値が理解できない人は、Google+やFacebookを使うべきではない」と言い切る。

 Fontana氏は「デジタル時代のプライバシー議論には、プライバシーの定義が必要」と主張する。「ユーザーは、データの収集・集積が一方的に行われていると感じており、ユーザー自身がコントロールできると思えるようにすることが業界の課題」というEFF(Electronic Frontier Foundation)の見解を引用。その上で、「これまでの固まった見方を一度見直すことができれば、業界もユーザーも共に恩恵を受けられるようにする第1歩になりうるだろう」と述べている。


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(岡田陽子=Infostand)
2012/2/6 10:22