クラウドサービスに暗雲? ファイル共有のMegaupload摘発
オンラインストレージサービスMegauploadの創業者ら7人が著作権侵害容疑で逮捕され、サービスも強制閉鎖となった。新しいオンライン著作権保護法案「SOPA/PIPA」に対するネット企業などの抗議活動が大々的に繰り広げられた翌日のことである。サービスの摘発は、同業者に衝撃を与え、静かに方針を変更したサービスもあれば、停止を決めたものもある。クラウド業界にも大きなインパクトを与えたようだ。
■オンラインストレージサービスが相次いでサービス変更
Megauploadは、クラウドを利用してファイルの保存や他のユーザーとの共有ができるサービスだ。オランダ人でニュージーランド在住のKim Dotcom(Kim Schlitz氏)が2005年に設立。無料で2GBまで、有料ならば無制限の容量を利用できる。香港を拠点としているが、米国にサーバーがあるため、今回は米国の著作権法が適用された。
米連邦捜査局(FBI)などの発表では、Megauploadのサービスが、映画や音楽など著作権で保護されているコンテンツの共有に使われていたこと、サービスがポイントプログラムにより著作権侵害行為を奨励したことなどが問題で、不当な手段で1億7500万ドルの収益を得ていたとしている。
Megauploadのサイト閉鎖は1月19日だが、それから数日の間に、同様のサービスを提供していた他社は、さまざまな動きを見せた。Torrentfreakによると、少なくとも9つのサイトがサービス内容を変更。英国と香港を拠点とするファイル共有大手のFileSonicはファイル共有機能を停止し、ポイントプログラムを打ち切った。また、Uploaded.toやFileserveなどは米国ユーザーの利用を遮断し、Uploaded.toとx7.toはサービスを完全停止するという。
■クラウドのイメージが“クール”から“ダーク”に
こうした動きについて、サイバー法を専門とするオハイオ州立大学のPeter Swire教授は「(ファイル共有サービスのイメージが)“クール”から“犯罪行為”に一転した」「Megauploadの閉鎖、それにSOPAとPIPAの議論を受けて、ファイル共有サービスは告発を避ける方法を探りはじめたのではないか」とABC Newsにコメントしている。また、セキュリティブログthreatpostのDennis Fisher編集長は「萎縮効果が出てきた」とUSA Todayに語っている。
オンラインストレージでファイル共有機能を提供するサービスとなると、Dropbox、Box.net、YouSendItなども同じカテゴリに入る。さらに解釈を広げれば、Amazon、Google(YouTube)も当てはまりそうだ。これらのサイトも摘発対象になるのだろうか?
著作権に詳しい弁護士、Adam Rendle氏はBBCに「他のデジタルロッカーサイトが違法になることはない」と述べている。根拠は、(1)違法な共有の数、2)合法ユーザーの存在――という2つの点でMegauploadと他のサービスは大きく異なるというものだ。
Wall Street Journalも、DropboxやBox.netは長期的に利用するビジネスユーザーを狙ったものであり、一般ユーザーを相手にエンターテインメントにフォーカスしたMegauploadとは役割や位置づけが異なると説明する。
PC MagはBox.comとYouSendItからのコメントを紹介。そこで、両社とも「著作権侵害の心配がほとんどない企業ユーザーにフォーカスしている」と述べている。YouSendItでは、著作権侵害の通告があった場合は、即座にリンクを削除していると述べ、デジタルミレニアム法を順守していることを強調する。
また、Wall Street Journalはクラウド投資への影響を分析した。クラウドは近年、投資家の注目分野となっている。例えばDropboxは昨夏、評価額40億から50億ドルで新しく資金調達することに成功している。
ベンチャーキャピタルIgnition Partnersのパートナーは「現在のクラウド投資を大きく阻害する要因にはならないだろう」としながらも、投資家が注意深い姿勢をとるようになると見る。Box.netのCEO、Aaron Levie氏は、「深刻な問題。だが、クラウド業界に暗い影を落とすものではないだろう」とコメントしている。
■合法ユーザーもシャットアウト
Megaupload閉鎖が突きつけた問題はほかにもある。合法的に使っていたユーザーまでもが犠牲になることだ。Wall Street Journalは、2009年から創作活動でMegauploadを利用していた英国在住のミュージシャン、Suzanne Barbieri氏の話を紹介する。
Barbieri氏は「(Megaupload閉鎖により)ほかのファイル共有サイトも使えなくなったら、どうすればよいのか」と困惑。「海賊行為はアーティストに打撃だが、合法的に使っているユーザーをも困らせる厳しいアプローチも打撃だ」と当局の姿勢に疑問を投げかける。
突然の閉鎖によって自分のファイルにアクセスできなくなったユーザーは他も多くいる。Wall Street Journalの欧州版では、合法なコンテンツ保存を脅かす行為だとして、スペインの弁護士がFBIを訴える動きがあることを紹介している。なお同紙によると、Megauploadはユーザーに対し、閉鎖の際に自分のファイルがなくなるリスクを通知していたと警察側は述べているという。
Megauploadの閉鎖は、既にファイル共有サービスに影響を与えているのだが、今後はどういう展開になるのだろう?
弁護士のMichael Moore氏はBBCに対し、Megaupload閉鎖はこれまで個人を狙ってきたコンテンツ業界が(違法なコンテンツ共有を容易にする)サービス側に狙いを変更した兆しだと語る。当局は「ファイル共有のイメージを汚すつもり」であり、今後サービス事業者に対する攻撃も増えるだろうと予想する。
オンラインでの著作権問題が「SOPA/PIPA」でクローズアップされており、議論は続いている。そんな中での摘発について論じたThe Times Leaderのコラムニスト、Nick DeLorenzo氏は「オンラインファイル共有の1つの時代が終わる」と述べている。