Salesforce.comはクラウドではない? Oracleの新戦略


 Oracleがクラウドに公式に参入した。これまでクラウドブームに冷ややかな目を向けてきたCEOのLarry Ellison氏が、米サンフランシスコで開催したイベント「Oracle OpenWorld(OOW) 2010」で、自社のクラウドコンピューティング戦略を披露。一転して、クラウドの伝道師のように力説し、同時に、早くからクラウドに取り組んできたSalesforce.comを「クラウドではない」とばっさり切った。

「Salesforceはクラウド上にアプリケーションがあるだけ」

 9月19日のOOW初日、Oracleは初のクラウド製品「Exalogic Elastic Cloud」を発表した。買収したSun Microsystemsのハードウェア技術を活用し、オリジナルあるいは買収で手に入れたソフトウェアを組み込んだ製品だ。Oracle VM上でSolarisとLinuxが動き、Java実行エンジン「JRockit」、アプリケーションサーバー「WebLogic Server」、データグリッド「Coherence」などを統合。30台のサーバー、360のコアを持ち、InfiniBandでデータベースストレージのExadataと接続する。Oracleは、これを「クラウド・イン・ア・ボックス」と呼んでいる。

 クラウドコンピューティングには、ここ数年、さまざまなベンダーが取り組んでおり、それぞれのアプローチで製品を提供している。そんな中で、Ellison氏はこれらを「新しいものではない」と一蹴してきた。しかし、この日のOracleのテーマはクラウド一色だった。

 Ellison氏は新製品を披露する前に自らのクラウド論を説いた。そこで取り上げたのが、Amazonの「Amazon Elastic Compute Cloud(EC2)」とSalesforceの比較だ。Amazon EC2はインフラをサービスとして提供するIaaS(インフラ・アズ・ア・サービス)で、顧客はその上でアプリを開発し、動かすことができる。一方のSalesforceは、営業支援や顧客関係管理のアプリケーションをサービスとして提供するSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)だ。

 Ellison氏は「Salesforceはクラウド上にアプリケーションがあるだけであり、クラウドコンピューティングとはいえない」と批判。仮想化環境ではなく、Salesforceのアプリケーションを使うために顧客のデータが混じっている状態であり、伸縮性(“elastic”)もないし、「セキュリティが非常に弱いモデル」と、マルチテナントについても批判した。

 その一方で、Amazon EC2を、すべてが仮想化されており、顧客は安全で独立した仮想環境を持つと賞賛した。新製品の名にAmazonと同じ“Elastic”を冠したのもそうした考えからと見られる。

クラウドに対する考え方の違いが意見の相違に

 ところで、これまでのSalesforceとOracleの関係を考えると、Ellison氏のコメントは意外に感じられる。SalesforceのCEO兼社長のMarc Benioff氏は、1999年に起業するまで13年間Oracleで働いた元Oracle社員。Ellison氏は、この優秀な部下の起業にあたって、資金提供を行っている。実際、Benioff氏は今年のOOWにスピーカーとして参加している。

 そのBenioff氏のスピーチは、Ellison氏のスピーチの3日後に行われた。Benioff氏は冒頭でEllison氏が自社に言及したことに謝意を表しながら、「われわれはクラウドの人間。クラウドは平和な場所だ」と述べ、ソフトな口調でスピーチを開始した。

 ただ、Benioff氏も言われっ放しでは済ませられない。OracleのExalogic Elastic Cloudについて、高額な“ボックス”を買わねばならないのではクラウドコンピュータ企業とはいえない、と反撃。「こういう“ニセのクラウド”は効率性に欠け、民主的ではなく、経済的でもない」と述べ、クラウドコンピューティングではキャパシティとアプリは(ボックスを購入しなくても)インターネットで購入できると主張した。

 Ellison氏とBenioff氏の応酬は、単なるマーケティング上の言い争いとも見えるが、「クラウド」という言葉そのものが抱える問題を表しているとも言える。

 ReadWriteWebは「意見の相違の中核にあるのは、ネットワークを活用するのがどういうことかについての定義の違いにある」と説明。Oracleはオールインワンアプローチで、これまでの延長であり「伝統的なソフトウェア戦略」と形容する。

 E-Commerce Newsの分析記事によると、OracleのクラウドはIaaSであり、IaaS自体は新しくはないので、Ellison氏の過去の主張(クラウドコンピュータは新しくない)とも合致するという。一方、Benioff氏らは、クラウドをこれまでの流れを変えるイノベーションと見ていると位置づける。そして、「実際のところ、市場は両方を必要としているのだ。だから、(Ellison氏とBenioff氏の)議論は、今後も長く続くだろう」と見る。また大企業はOracleモデルを支持し、規模に関係なくフィットするのがSalesforce型と付記した。

メディアの反応ではSalesforceに軍配

 あえて勝敗をつけるなら、メディアの間ではEllison氏の方が印象が悪かったようだ。ReadWriteWebは「Oracleは全てをコントロールしようとしているのではないか」とし、Oracleのやり方を孤立主義で、顧客にサービスすることよりも覇権を握ることに関心を持っているように見える、と論評した。

 そのReadWriteWebの読者投票では、「Oracleのクラウドコンピューティング戦略は意味をなさない。クラウドコンピューティングを開始するのに新しいハードウェアは不要」が、「意味がある。エンタープライズマネージャーにアピールする新しいクラウドコンピューティング手法を作った」を大きく上回っていた。

 Oracleがクラウドで追う立場にあることは事実だ。そのクラウドアプローチで、どれだけ顧客を納得させられるのか――。これからの見どころとなる。

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(岡田陽子=Infostand)
2010/10/4 10:05