Facebookが携帯電話を開発中? 世界最大のSNSの次の戦略は


 SNS最大手のFacebookが、オリジナルの携帯電話を開発している――。先週のビジネス、IT系メディアは、この話で持ちきりだった。5億のユーザーを抱え、ソーシャル化のトレンドに乗ってGoogleも脅かす存在となったFacebookがモバイルに進出するとなると、そのインパクトは極めて大きい。Facebookは、まず報道を否定し、さらに創業者兼CEOのMark Zukerberg氏本人が説明のためインタビューに答えることになった。その真意は――。

「Facebook携帯電話」開発報道で賛否両論

 Facebookのモバイル進出に関する報道の経過は次のようなものだ。

 最初は9月19日付のTechCrunchで、編集長のMichael Arrington氏が「プロジェクトに近い筋からの情報」として「Facebookが携帯電話を開発中」とスクープした。「電話帳をはじめ、携帯電話の機能と密に統合するためには、OSをコントロールするしか方法はない」と解説。開発中とされるFacebook携帯電話では、Facebookがソフトウェア面を構築し、ハードウェア面ではサードパーティと提携するという。

 Arrington氏は、このプロジェクトに、Facebookのトップレベル開発者であるJoe Hewitt氏とMatthew Papakipos氏の2人がかかわっているとの情報も得たとしている。Hewitt氏はMozillaでの「Firefox」開発を経て、実現しなかったWebベースOSプロジェクト「Parakey」にかかわった人物。またPapakipos氏は、2010年6月までGoogleで「Chrome OS」の開発に携わっていた。Arrington氏は、2人とも「OSに深い経験を持つ」「申し分のない経歴」と評価している。

 この話は、またたく間に広まったが、当のFacebookは即日否定した。New York Timesなどのメディアに広報担当者が送った電子メールで「ソーシャルであることはほぼすべての経験を改善する。これを実現するための方法は、既存のプラットフォームとOSに密に統合することだ」とした上で、(1)「Facebook Connect」のiPhone対応、(2)初の“Facebookフォン”こと「INQ1」(2008年12月に登場した携帯電話。Facebookとの統合を特徴とする)――の2つを具体的例として挙げ、Hewitt氏ら2人はこれらのプロジェクトにかかわっていると説明した。

 しかし、それで終わったわけではない。Facebookのモバイル参入は非常に大きな関心を集め、各メディアで、その是非を巡って活発な議論が展開された。

 たとえばeWeekは、「Facebookはすでにモバイルで最もよく使われているアプリになっている。消費者が新たにFacebookフォンを必要とするだろうか?」(Forrester Reserachのアナリスト、Charles Golvin氏)という否定的な意見や、「プロフィール情報とソーシャルなつながりを拡張していくことがFacebookのミッションであり、OS開発は的を得ている」(Altimeter Groupのアナリスト、Jeremiah Owyang氏)との肯定的な意見を併せ紹介した。一方、PC Worldは「プライバシーの観点からは悪夢となるのではないか?」との視点から分析した。

 Fortuneでブロガーを務めるSeth Weintraub氏は「単なるモバイルアプリでは、Facebookはこれ以上成長できない」と述べ、Facebookが次の手を打つべき段階に来ていると指摘する。キーマンとしてHewitt氏とPapakipos氏に加え、GoogleでAndroidを担当したあとFacebookに移ってきたErick Tseng氏の名を挙げている。そしてモバイルOSを構築するまで行かずとも、他のモバイルOSにFacebookレイヤーを付け加える可能性はあると推測する。ベースになるのは、オープン性の観点からAndroidの可能性が高いという。

 Mashableも、同様の視点から論じている。「モバイルOSは飽和状態だ。モバイル広告でGoogleとAppleと比較してよほどすごい計画がなければリスクが高すぎる」「Facebookはもっと別のものを開発している」と見る。

「ハードメーカーと競合するつもりはない」CEOのZuckerberg氏

 こうしてメディアがかまびすしい中、Facebook CEOのZuckerberg氏が、この話を最初に報じたTechCrunchのArrington氏を指名してインタビューに応じた。TechCrunchは22日付で、Zuckerberg氏との全てのやりとりを入れたメモを掲載している。

 それによると、Zuckerberg氏はまず、「コミュニケーションの行き違いがあった」と謝罪。「特定のデバイスを構築したり、統合するのがわれわれの戦略ではない。AppleやDroidなどのハードウェアメーカーと競合するつもりはない」と断言している。Facebookの戦略はアプリがあるところにソーシャル機能を付け加えることである、とZuckerberg氏は言う。そしてモバイルでは、(PC/Webとは異なり)シングルサインオンで統合が可能という特性を活用するというビジョンを示した。

 そこでのアプローチはあくまでも「(モバイルを含む)あらゆるものをソーシャルにすること」であって、垂直型ではない、と強調する。Zuckerberg氏によると、さまざまな企業からさまざまな話を持ちかけられているという。同氏は「特定の企業と深い統合についてのやり取りを行っているのか」という質問に対しては「イエス」と答えた。

 一方、Bloombergは同じ日に、「INQ1」を製造したINQ MobileがFacebookフォンを開発中と報じた。Androidをベースとして、QWERTY付きのものとタッチ画面のみのもの、の2機種を用意するという。記事によると2011年前半に欧州で、同後半に米国で投入する予定で、米国でのキャリアはAT&Tだという。これについてFacebookは「数年前からFacebookエクスペリエンスを深く統合した携帯電話の開発でINQと協業している。INQの製品開発計画についてはコメントできない」とコメントしたという。

 CNET NewsはBloombergの記事に関して、Facebookの関係者から「スマートフォンの開発を進めているようなことはない」「INQが進めているのだろう」というコメントを得たと伝えた。BloombergのINQ端末が本当にFacebookのモバイルビジョンの下で開発された製品であるかの判断が難しいが、CNETが引用するFacebook関係者のコメントとBloombergが引用するコメントには矛盾があるようにも見える。なお、Zuckerberg氏はTechCrunchのインタビューでは、INQ1で、Facebookは開発面の協力は行わなかったと語っていた。

 Bloombergの記事やFacebookのコメントには、Zuckerbergとのインタビューにも参加したTechCrunchのMG Siegler氏も混乱した様子だ。「(Zuckerberg氏の言う通り)開発面でないとすれば、どのチームがINQと協業しているのか? マーケティングだけなのか?」と記している。

 ひょっとすると、Facebookの中では、いまだ戦略が固まっていないのかもしれない。だが、Facebookにとってモバイルの重要性が極めて大きいことは間違いない。CNETによると、FacebookがキャリアやハードウェアメーカーにFacebookブランドの携帯電話についてリサーチを行っているという。Zuckerberg氏が描くソーシャルのビジョンを、モバイル分野でどう実現していくのかが明らかになるのは、少し先かもしれない。

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(岡田陽子=Infostand)
2010/9/27 11:43