「伝説を残す」「パテントトロール」? Paul Allen氏の突然の特許訴訟
名誉も富も手に入れた人が、時として理解に苦しむ行動をとることがある。Microsoftの共同創業者で、大富豪のPaul Allen氏が、Google、Facebook、Appleなど11社を相手取って特許訴訟を起こした。特許の内容はかなり基本的なもので、影響は極めて広範囲にわたるとみられる。なぜ、Allen氏が、このタイミングで訴訟を起こしたのか、当人は沈黙を守っており、その意図をめぐってさまざまな憶測が飛んでいる。
■世界長者番付37位、資産135億ドルのAllen氏が起こした特許侵害訴訟の不思議
Allen氏が所有するInterval Licensingは8月27日、ワシントン州西部連邦地裁に、AOL、Apple、eBay、 Facebook、Google、Netflix、Office Depot、OfficeMax、Staples、Yahoo、YouTube(Google傘下)の11社を4件の特許侵害で訴えた。
4件の特許は、記事に関連項目を追加する技術や、同じページに動画やテキストを組み合わせる技術などで、「Eコマース企業やインターネット検索企業の運営に重要な技術」(Interval Licensing)。Allen氏のInternal Researchが開発した技術をベースにしているという。この訴訟に対し、GoogleやFacebookなどは争う姿勢を見せているようだ。
Interval Researchは、Allen氏が1992年に元Xeroxの研究者、David Liddle氏と立ち上げた会社だ。最盛期には約110人のエンジニア、科学者を雇い、通信やコンピュータ分野の技術開発を行っていたが2000年に閉鎖となった。このInterval Researchの特許を管理・ライセンスするためのAllen氏が立ち上げたのがInterval Licensingである。同社はほかにも約300件の特許を管理しているという。
特許を買い取り、その特許を侵害している企業を相手に訴訟を起こす行為は“パテントトロール”といわれる。多くは、誰かが開発した特許の権利を買い取り、大企業をその特許権の侵害で訴え、特許料あるいは和解金を受け取る――。金銭を目的としたものだ。
今回の訴訟も、Intervalが、差し止めと損害賠償を要求していることからパテントトロールだという見方がある。だが、Allen氏が経済的に困っているとも思えない。Forbesの最新の世界長者番付では第37位、その資産は135億ドル(数年前まで220億ドル規模だったので減ってはいるが)という。さらに8月初めには、Microsoftを共に創業したBill Gates氏らの呼びかけを受けて、保有資産の寄付に署名しているのだ。
Intervalは、自分たちの特許は他から買い取ったものではなく、訴訟の目的は「自社特許ポートフォリオの収益化」と説明している。
■これはパテントトロールなのか~分かれる第三者の見解
スタンフォード大学法学部教授のMark Lemley氏は「典型的なパテントトロールのように見える」とWall Street Jounalにコメントしている。Ars Technicaも、Interval Licensingが何の製品も持たず、ライセンスを企業名としていることから、「パテントトロールのよう」との見解を示している。
ただ、専門家の中にも、これはパテントトロールとも違うという見方がある、特許専門家のRon Laurie氏は「攻撃的な訴訟を避けてきたことからパテントトロールではない」とIBTimesにコメント。Intervalが法廷に提出した書類には、Interval Researchを協力企業として掲載している創業時のGoogleの画面ショットが含まれている点も指摘している。
同じような立場にあるAppleの共同設立者、Steve Wozniak氏は、Allen氏の行為に理解を示している。BloombergのTVインタビューに対してWozniak氏は「技術者の立場」でコメントし、Allen氏が「オリジナルの発明者を代表している」と語った。「(自分でも)パテントトロールを完全に否定するつもりはない」「Allen氏が特許から富を築いたとしても、どの特許が価値があるのかを見分ける鑑識眼があったのだ」から、それで問題になならないとも述べている。
一方、PC WorldのSteven J Vaughan-Nicolas氏は、Intervalが主張する4件の特許は「『Prior art』(公知技術、発明として出願される前から知られていた技術)ように思える」と懐疑的だ。そして、Interval Researchがインターネットの“草分け的な貢献者”だったという主張にも首を傾げる。
同様の意見は、技術ライターGlyn Moody氏からも出ている。Moody氏はComputerworldのブログでこの訴訟は「ナンセンス」として、Interval Researchの“功績”に異論を唱える。
また、法律関連ニュースサイトのGroklawは、Interval Researchで働いていたTerry Winograd氏の2002年のインタビュー記事を取り上げている。Interval Researchが成功しなかった理由を聞かれたWinograd氏が「IntervalはWebによって大きな打撃を受けた」「デバイス、ユーザーが利用するもの、ホームなどの分野を探っていたが、インターネット上で商取引を実現するという分野は対象外だった」とコメントした点を挙げ、これが「Interval Licensingの主張と矛盾する」と指摘している。
■訴訟は伝説作り?
訴訟の目的のほかに、訴えた時期と相手企業についての疑問もある。特許訴訟は、取得から時間が経過するほど相手企業に有利になるとされているが、4件の特許の中には、取得から10年が経過しているものもある。また、同様の技術を使っているとみられるMicrosoftやAmazonを訴えてない点にも疑問符が付く。
Allen氏の行動には不可解な部分が多いが、その理由を同氏の内面に探る見方もある。たとえばThe Seatlle Timesは、Allen氏の行動の目的を「自分の伝説作りのため」ではないかと推測している。
Allen氏は現在57歳。決して若くはない年齢に達しており、昨年には、がんの一種である非ホジキンリンパ腫と診断された。治療は順調で、Allen氏のスポークスパーソンは「現在は医療問題はない」と述べている。
しかし、Seatlle Timesは、彼も自分の死後に何が残るのかを考え始めたのではないか、と言う。特許訴訟に出るという行動は「Web黎明期に自分が重要な研究を行ったことを世に知らしめたいためではないか」というのである。たしかに訴訟を起こせば(敗訴になったとしても)公に記録が残る。同紙は、Allen氏がこのところ、所有するヨットを売ったり、土地を貸し出していることにも言及している。
Bloombergのコラムニスト、Ann Woolner氏も訴訟の真意について「以前には気にしなかったようなことを気にするようになったのではないか」と推測し、インターネット技術に重要な貢献をした伝説を残そうとしているのかもしれない、と記している。