Googleは「邪悪なプライバシー侵害者?」 やまない保護団体の攻撃


 プライバシー問題は、Googleにとって永遠に続く頭痛の種なのだろうか。今年2月に個人情報流出騒ぎを引き起こした「Google Buzz」の集団訴訟が850万ドルの和解金で終息する見通しとなってきた。あわせて同社は、プライバシーポリシーを「より分かりやすいもの」に改訂し、10月から適用すると発表した。だがGoogleに対するプライバシー懸念は根強く、新ポリシーは、早速プライバシー保護団体の攻撃の的となっている。

集団訴訟となったGoogle Buzzのプライバシー漏えい、850万ドルの和解金を提案

 Buzzは、Twitterのような短いメッセージの投稿や、写真・動画の共有などができるソーシャルネットワークサービスで、2月に「Gmail」の追加機能としてスタートした。ところが、開始早々、ユーザーの本名や場所が特定されてしまう、コンタクトリストが本人の知らないうちに公開される、という問題が起こった。

 Google側は特急で改修を行い、取りあえず問題は解消したが、プライバシー保護団体のEPIC(Electronic Privacy Information Center)はサービスを非難し、連邦取引委員会(FTC)に調査を申し立てた。さらにユーザーらからの複数の訴訟が起こり、その後集団訴訟に1本化された。

 この和解案が9月3日、北カリフォルニア地区連邦地裁に提出された。現在判事の承認待ちとなっている。和解案は、Googleの取り組みを認めた上で、850万ドルの和解金をGoogleが支払うというものだ。このうち約200万ドルは訴訟経費として差し引かれ、残りは教育・啓発を含むプライバシー保護活動に充てられる。

新ポリシーは早くも攻撃の的に

 Googleは同時に、プライバシーポリシーの改訂を発表した。これまでの専門用語を含むプライバシーポリシーの文言を簡素化して、分かりやすいものにするのが目的という。Googleの法務担当Mike Yang氏によると、プラクティスを変更するのではなく、重複部分の削減とサービス間の連携の反映が主なポイントという。だが、この新ポリシーは早くも攻撃の的となっている。

 新ポリシーの適用は10月3日だが、internetNews.comによると、EPICが声高に非難しているという。EPICが問題としているのは、Googleがユーザーのデータ収集を統合プラットフォームの一部として扱っており、ユーザーはこれまでのようにサービス別に提供する情報を選択できなくなる、という点だ。「FTCは変更個所を調査する必要がある」とEPICの執行ディレクター、Marc Rotenberg氏はコメントしている。

 くしくも別の消費者団体のConsumer Watchdog(CW)は和解案提出前日の2日、対Googleのキャンペーンを開始した。中心となるのは「Don't Be Evil?」というタイトルのビデオだ。Googleの有名な社是「Don't Be Evil」(邪悪になるな)に疑問符を付け、「ホントに?」と問うタイトルだ。

 ビデオは、アイスクリーム売りのEric Schmidt氏が、子供たちにタダでアイスクリームを配りながら、「Google Analytics」で全身スキャンをとるというもの。米国一の繁華街であるニューヨークのタイムズスクエアの大画面で放映され、また(皮肉にも)GoogleのYouTubeでも公開されている。

 このキャンペーンの最大の目的は、政府に「Do Not Track Me」制度の必要性をアピールすることだという。米国には、勧誘電話を望まない人が自分の電話番号をリストに登録することで迷惑電話を拒否できる「Do Not Call」制度があり、CWは、この仕組みをオンラインでのトラッキングに適用すべきだと主張している。CWは「オンライン企業による個人情報収集を拒否できる」としており、独自に行ったオンライン調査では、回答者の80%の支持を得たという。

プライバシー保護団体の反Googleキャンペーンは行き過ぎとする意見も

 こうしたプライバシー保護団体の反Googleキャンペーンの一方で、その主張は行き過ぎだとする意見もある。

 eWeek europeはCWのビデオについて、何も知らずにタダでアイスクリームをもらう子供たちがGoogleのユーザーだとすれば、われわれユーザーはそれほど無知なのか、と問いかける。例えば自分の購入履歴を基に広告が表示されたとしても、キーワード広告の仕組みを知っており、無料サービスと引き換えである点を理解していれば、それほど大きな問題ではないはずだと主張する。

 Wired.comのRyan Singel氏も、Googleの広告追跡システムとアカウントシステムが別々に設計されている点、プライバシー設定用のダッシュボードの提供、GmailでSSLをデフォルトでオンにしていることなどの取り組みを挙げてGoogleを擁護する。そして、1人のユーザーが認識可能なIDを複数持つインターネットと電話はまったく性質が異なるものであり、Do Not Track Me構想は「ただ愚かというしかない」と批判する。

 「Street View」撮影車が3年間もの間、個人データを「うっかり」収集していたことなど、Googleには手落ちも多い。だが、インターネットはまだ新しい空間であり、バーチャルという性質がさらに問題をややこしくしている面がある。

 プライバシー議論はGoogleだけでなく、Facebookなどにも持ち上がっており、コンセンサスができるまでには、まだ時間がかかりそうだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2010/9/13 11:47