世界同時不況迫る IT産業の行方は
サブプライムローン問題に始まった金融危機から、世界同時不況への懸念が次第に強まっている。9月末からの株価急落は10月10日のG7(先進7カ国財務相・中央銀行総裁会議)の金融危機沈静化の行動計画を受けて反発。落ち着いたかに見えたが安定は続かず、なお迷走状態だ。このまま実体経済が悪化すれば、IT業界の行く手にも暗雲が広がる。
金融不安を背景とする株価急落は、IT企業にも大きな影響を与えている。ハイテク株の多いNASDAQ市場も10月2日に2000ポイントを割り込んでから急落、9日には1645ポイントまで300ポイント超下落した。週末には少し戻して1711ポイントで引けている。
主要企業もそれぞれ大幅な下げを記録した。この間の終値ベースの最安値を9月末時点と比較すると、Yahoo!が11.75ドル(15日、9月30日は17.30ドル)、Appleが88.74ドル(9日、同113.66ドル)、Oracleが15.95ドル(15日、同20.31ドル)、IBMが87.75ドル(10日、同116.96ドル)、SAPが33.73ドル(15日、同53.43ドル)、Microsoftが21.50ドル(10日、同25.01ドル)、Hewlett-Packardが37ドル(10日、同46.24ドル)、Googleが332ドル(10日、同400.51ドル)といった調子だ。
このうち、今年初めにMicrosoftの買収オファーを受けたYahoo!は、当時から一時8ドル弱、40%近い安値となり、再度、買収観測が浮上した。MicrosoftのSteve Ballmer CEOが16日のカンファレンスの場で「(Yahoo!は)なお経済的に意味がある(still make sense economically)」と発言したのがきっかけで、Yahoo!株は約10%跳ね上がった。Microsoftは公式コメントで、買収する意図はない、と打ち消しに躍起である。
投資家にとっては、この世の終わりとも見えそうな状況だが、そんななかでも、半導体やIT大手企業が予想を上回る好調な四半期決算を発表して、市場にやや明るい材料を与えた。
ハイテク業界の先行指標として注目されたIntelの四半期決算は、純利益が前年同期比12%増の20億ドルという好調ぶりで、ノートPC向けCPUがけん引したという。ほかにも、IBMが純利益で同20%増の28億ドルを計上。Googleは同26%増の13億5000万ドルとなるなど、他の産業が惨状なのに対して、堅調さを見せている。
しかし、売上高同31%増と突出していたGoogleを除くと、その伸びは減速している。Intelは同1%増の102億ドルでアナリストの予想を下回った。また、今後の業績予測の下方修正も相次いでいる。
Intel CEOのPaul Otellini氏は決算発表の場で、「金融危機がわれわれのビジネスへの圧力の兆候を作り出していることは明らかだ。チャンネルの顧客には、少々、あるいはまったく影響を受けていないものもあれば、憂慮すべき事態になっているものもある」と述べた。つまり、すでに深刻なダメージを受けている企業もあるということだ。
Reutersによると、信用危機で最も深刻な影響を受けた金融業界では、すでにIT支出の削減や延期が始まっているという。コンサルティングやソフト開発といった分野で、ITサービス企業の業績は、次の四半期となる10~12月期に顕在化するとみられるという。
また調査会社は2009年の企業のIT支出見込みを相次いで下方修正している。Gartnerは13日、「最悪のシナリオ」としたうえで、IT支出成長率予測を従来の5.8%から2.3%に引き下げた。「米国と西欧でとくに影響が大きく、新興地域も逃れられない。そして、成長は欧州ではマイナス、米国と日本はフラットになるだろう」とアナリストは述べている。
また、Forrester Researchも同様に成長率予測を8%から4%に下方修正した。米国に限れば6%から2~3%程度で、いずれも、当初見込みから半減となる。
ただし、アナリストたちは、まだIT業界が“ドットコムバブル崩壊”の2001年に経験したほどではないとみているようだ。16日付のSan Francisco Chronicleで、ForresterのアナリストAndrew Bartels氏は「前回はテックバブルで崩壊がIT業界を直撃したが、今度は不動産バブルであって、直接ではない」とコメントしている。
とはいえ、新興のベンチャーにとっては、資金調達が難しくなり、大幅な戦略の見直しを迫られることに違いはない。San Francisco Chronicleは18日付の記事で、シリコンバレーのベンチャーが次々に人員削減を行い始めたことを伝えている。現場では、すでに嵐が吹き荒れているのだ。