グリーンIT元年 IT業界に大きな波



 IT業界で、2008年の重要なトレンドになりそうなのが「グリーン」だ。京都議定書の第一約束期間がスタートする年でもある今年、IT業界はこれまで以上に真剣に環境問題に取り組み、同時にビジネスチャンスも迎えることになりそうだ。


 昨年は「グリーン」が急浮上した年だった。まず2月、データセンターの消費電力問題に取り組む業界団体「The Green Grid」が発足した。参加企業に名を連ねているのは、Sun Microsystems、Dell、Intel、AMDなどのハード関連企業で、電力効率のよいプロセッサなどの開発を支援するほか、データセンター運用のベストプラクティスを共有するという。

 6月には、IntelとGoogleが中心となって、「Climate Savers Computing Initiative」を立ち上げた。「The Green Grid」がデータセンター全体を対象としているのに対し、こちらは単体のPCやサーバーを対象としている。コンポーネントレベルでの省電力で、2010年までに消費電力を半減することを目指している。

 ほかにも、10月にはStorage Networking Industry Association(SNIA)の「SNIA Green Strage Initiative」といった業界団体が生まれている。さらに、個々の企業としても、IBがの「Project Big Green」、Googleが「RE<C」というイニシアティブを発表するなど、非常に動きが活発化した。


 2007年は、グリーンという新しいトレンドを確かなものにする種がまかれた年と言ってもいいだろう。世界各地で地球温暖化現象が確認され、その影響が懸念されている。環境問題は、何者も無視することができなくなっているのだ。

 消費電力についていうなら、“電気なしではタダのハコ”にすぎないコンピュータを抱えるIT部門の責任は大きい。IDCによると、企業が消費する電力コストのうち、IT部門が占める比率はこの10年で2.8倍に増えているという。また米環境保護庁(EPA)によると、米IT業界は2006年に610億kWhの電力を消費し、これは全米の総消費電力の1.5%に相当するという。

 こうした背景から、ITベンダー各社がグリーン仕様に力を入れるのは当然の流れといえる。米Gartnerがまとめた2008年の戦略的トレンドトップ10にも「グリーンIT」は入っている。

 IT企業の武器は技術だ。現在、業界ではさまざまなレベルで技術改善が進められている。プロセッサレベルでは、IntelやAMDが、電気効率に優れた4コアのクアッドコアプロセッサを投入している。また、サーバー稼働率を高める仮想化技術にも対応する。

 サーバー側のフォームファクタとしては、高密度実装のブレードがある。また、APC、Dell、Hewlett-Packard(HP)などのメーカーは、冷却装置でも改善を進めている。

 ソフトウェアも進化している。EMC傘下のVMware、XenSourceなどの仮想化ソフトウェア専業メーカーが生まれており、HP、IBMなどは管理ソフトでも省電力機能を強化している。OSでは、Microsoftの「Windows Vista」も電力管理機能を特徴の1つとして強調している。


 こうして、「省電力」をキーワードにした、コンポーネントからソフトウェアまでのエコシステムが形成されつつある。これらを完結させる最後の要素が、規格や指標だ。この分野では、EPAと米エネルギー省(DOE)共同の省電力規格「Energy Star 4.0」がスタートしている。こうした規格が機能することで、大きな成果を期待できる。

 だが、ハイテク業界は業界内の節約にとどまらない技術革新の貢献を目指している。物流や製造の現場でITを活用することで効率化・省エネが可能となり、環境破壊を緩和できると考えられる。Sunなどは、二酸化炭素などの排出測定ツールを提供して別の角度からも支援する取り組みを見せている。

 新しい技術をビジネスに育成することでは人後に落ちないシリコンバレーは、すでにクリーンに投資の目を向けはじめている。シリコンバレーの代表的なベンチャーキャピタル、米Kleiner Perkins Caufield&Byersは、元米副大統領で、環境問題でノーベル平和賞を受賞したAl Gore氏を招いてグリーン/クリーン技術分野の強化に乗り出している。Gore氏は、米Appleの取締役を務めるなど、ITと環境問題の両方に精通している人物だ。)。

 San Jose Mercury Newsによると、米国でのクリーン技術への投資額は2007年の最初の9カ月で26億ドルで、前年通年の16億ドルをはるかに上回るペースだという。また、投資カテゴリーとしては、クリーン技術は半導体などを追い越して第3位になっているという。

 グリーンITは、環境を守ることだけにとどまらず、ビジネスとしてもメリットがある。一過性のブームでなく、本格的に立ち上がってほしいものだ。

関連情報
(岡田陽子=Infostand)
2008/1/7 09:09