「SaaS」と「仮想化」と“あちら側”-2007年回顧



 2007年のIT業界を振り返るとき、まず浮かぶキーワードが「SaaS」と「仮想化」だろう。エンタープライズITでは、毎日のように関連ニュースを目にした。この両者、互いに密接に関連しており、コンピューティング環境のメインが次第にオンライン側に移行していることをあらためて感じさせる。


 「SaaS」(Software as a Service)は、登場した当初は、「バズワード」(実態が明確ではない、あおり文句)だとも言われたが、この1年で、すっかり市場に根付いてきたようだ。今年のSaaS企業の活躍はめざましかった。

 オンデマンドCRMでSaaS分野をリードするsalesforce.comは12月5日、世界での契約数が年内に100万を突破すると発表した。最初の50万に達するまでに7年かかったが、あとの50万は、わずか16カ月という伸長ぶりだ。

 12月20日には、NetSuiteが、エンタープライズ向けSaaS企業としては2番目にIPO(新規株式公開)を行い、約1億6000万ドルの資金を調達した。3年半前にIPOしたsalesforce.comの株価はすでに当時の5倍以上になっており、投資市場でも注目されていることが分かる。

 こうした新興企業に対して、既存のエンタープライズソフト大手もSaaS対応を進めている。SAPは9月に発表したオンデマンドサービス「SAP Business ByDesign」でSaaSを導入し、ビジネスモデルに大きな変更を加えた。Microsoftもオンデマンド型CRMとなる「CRM Live」の本格展開へ向け準備中だ。

 オンデマンドCRMに、他の機能を取り込もうという動きも目立っている。11月、Oracleが「CRM on Demand」にSNS機能を追加すると発表。12月初めにはsalesforce.comも「Salesforce to Salesforce」という新しい企業間SNSを発表している。

 これらはFacebookのようなSNS機能を企業間のコミュニケーションで利用しようというものだ。「膨大な数のユーザー企業がsalesforce.comのネットワーク上でワンクリックで情報を共有できれば、Force.comプラットフォームの圧倒的な魅力となり、企業をひきつけるだろう」(salesforce.comのGeorge Hu・プロダクト・マーケティング副社長)としている。

 SaaSは、さまざまなアプリケーションに適用できる。新興SaaS企業はCRMという突破口からユーザー拡大を狙い、既存ソフト企業は実績のあるソフトウェアをベースにして対抗する。SaaSの覇権争いは、プラットフォームの覇権争いでもある。


 もうひとつのキーワード「仮想化」の分野では、VMwareがリードしている。“Google以来の大型案件”と言われた8月のIPOで同社の株式時価総額は200億ドルを突破。IPO後の四半期初決算では前年同期比2倍近い3億5800万ドルの売上高を達成した。

 これを、オープンソース仮想化ソフト「Xen」のソリューションを提供するXenSource、同じく「Xen」ベースの「Virtual Iron」を提供するVirtual Iron Software、独自のOS仮想化技術を持つSWsoftなどが追う。Microsoftも、来年2月末リリース予定のWindows Server 2008に独自の仮想化技術「Hyper-V」(Viridian)を搭載して迎え撃つ。

 来年の仮想化市場は、VMware、XenSource(Citrixが8月に買収)、Microsoftの三つどもえの戦いになるとみられている。


 ところでSaaSは当初、「ASP」(Application Service Provider)の焼き直しのように考えられ、これが「バズワード」と言われる理由にもなっていた。しかし、SaaSには、ASPでは言われなかった「マルチテナント」という特徴があることも次第に分かってきた。複数のユーザーでサーバーなどのリソースを共有することで、「マルチテナント」を実現するが仮想化技術という関係にある。

 大勢のユーザーにサービスを提供するSaaSでは、負荷のピークに合わせてサーバーのリソースをダイナミックに割り振るのが効率的だ。サーバーを統合して、大型のデータセンターからサービスを提供するとともに、仮想化でマルチテナントのサービスシステムを構築する。同時に、データセンターのエネルギー問題もクローズアップされ、もうひとつのキーワード「グリーンIT」にもつながっていく。

 ともあれアプリケーションもデータもオンラインで利用する流れが強まっている。コンピューティング環境がインターネットの“あちら側”に移行する動きは、2008年もますます加速すると考えられる。

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(行宮翔太=Infostand)
2007/12/26 00:00