EC vs Microsoftの独禁問題新ラウンド-次のターゲットはOfficeとIE



 足掛け9年にわたった米Microsoftの欧州独禁法違反問題が決着して半年もたたないうちに、新たな戦いが始まった。欧州委員会(EC)は1月14日、Microsoftに別の独禁法違反の疑いがあるとして調査開始を発表した。次に問題とされているのは、OSと並ぶ同社のドル箱「Microsoft Office」とWebブラウザ「Internet Explorer(IE)」だ。


 ECによると、今回の調査は過去2年の間に寄せられた苦情を受けたものだという。2006年2月、業界団体European Committee for Interoperable Systems(ECIS)がMicrosoft Officeの互換性について、2007年12月には、ノルウェイのOpera SoftwareがIEのOSバンドルについてECに苦情を申し立てていた。ECとMicrosoftの係争は2004年のEC裁定から3年半も続いたが、その間にも次の種がまかれていたことになる。

 焦点は、1)Officeなどソフトウェアスイートの相互運用性 2)IEのOSへのバンドル―の2点で、対象は異なるが、問題の内容は前回と同じ種類のものと言える。前回は、サーバーOSの相互運用性、メディアプレーヤー「Windows Media Player」のOSへのバンドルが問題となり、違反を認定された。

 Officeが問題とされることはMicrosoftにとって大きな意味がある。OfficeはOSと並ぶドル箱ビジネスで、Windows OSとOfficeで同社の売り上げの8割を占めると言われている。ECはインターネット戦略の要となる「.NET Framework」にも言及しており、さらには、Microsoftが最新のOfficeで採用しているフォーマット「Office Open XML(OOXML)」についても、相互運用性を実現するのに十分な情報を公開しているかを調査する考えだ。

 これについて、ECISの担当弁護士Thomas Vinje氏は「ソフトウェア業界全体を変える可能性を秘めている」とコメントしている。

 2点目のIEもインターネットの入り口となる重要なソフトウェアで、現在、Webブラウザ市場で約7割のシェアを持っている。つまり今回のECの調査は、Microsoftの商慣習について、さらに“肝”の部分にメスを入れようとしていることになる。


 EC側は、発表で2つの調査項目についての調査ポイントと判例を示すなど、自信満々だ。ECによると、欧州第一審裁判所(Court of First Instance:CFI)が、相互運用性について独占的立場にある企業は相互運用性のための情報を開示しなければならないこと、また、バンドルについては独占的立場にある企業は原則を守らねばならないことを確認したという。

 ECは独禁政策に自信を深めている。前回の問題でMicrosoftが2007年10月に完全順守の意思を表明した後、ECは、Intel、Qualcomm、Googleなどの他の大企業に対しても、容赦ない姿勢で臨んでいる。欧州連合(EU)域内の「iTunes Store」の価格差についてECの調査を受けていたAppleは、年明け早々、英国の価格引き下げを発表した。ECのプレッシャーに折れたかっこうだ。

 ECの“公正さ”は、実は欧州企業だけでなく域外の企業にも力になっている。ECISには、フィンランドのNokiaなどの欧州企業のほか、IBM、Sun Microsystems、Oracleといった米国企業が名を連ねている。2006年2月にECISが苦情を申し立てた際、Microsoftは「ECISの実態はIBM」とZDNet UKに対して述べ、ライバルがECを利用して自社にストップをかけようとしていると主張した。それが妥当な見方であるかはともかく、EUが米企業間の問題を解決する場になりつつあることは間違いない。


 ただ、これについては、危惧する見方もある。The Wall Street Journalは、米国と欧州は企業の吸収・買収などでは法律の互換性が確保されてきたが、独占については見解が異なると指摘。両者は共に中国など新興市場との戦いに直面しており、「長期的には、欧州が米国と相互に認め合うことにメリットがある」ものの、協力関係の確立に手間取るようなら、米政府が「欧州の過剰な干渉に反撃」することになるかもしれないとしている。

 新たにはじまったMicrosoft対EUの戦いは、また長期化するのだろうか?

 BusinessWeek誌は、ニューヨーク大学スターン・ビジネス・スクールのNicholas Economides教授の見解を紹介している。それによると、相互運用性については、各製品について証拠を示す必要から長期化すると考えられるが、Webブラウザのバンドルについては、WMPと同様の事例として取り扱われる可能性があり、その場合はECが簡単に勝訴する見込みという。

関連情報
(岡田陽子=Infostand)
2008/1/21 09:10