再浮上するディスプレイ広告-検索サービス企業の新たな戦場



 検索サービスで争う米Googleと米Yahoo!の両社が、相次いでオンライン広告会社の大型買収を発表した。いずれも「ディスプレイ広告」を扱う広告会社である。検索キーワード広告の分野でしのぎを削ってきた両社だが、古くて新しいディスプレイ広告が、新しい舞台として浮上している。さらに米Microsoftもこれにからんできそうだ。


 Googleは4月13日、オンライン広告の米DoubleClickを約31億ドルで買収する計画を発表した。DoubleClickといえばこの分野では老舗で、同社を巡っては、GoogleのほかにもYahoo!、Microsoftなども買収に動いていたとされている。

 そして4月30日、今度はYahoo!が同じくオンライン広告会社の米Right Mediaの買収を発表した。Yahoo!はすでに昨年10月、4500万ドルを払ってRight Media株の20%を取得しており、今回は残りの株式を自社株と現金で取得する。買収総額は約7億2500万ドルとなる。

 インターネットの覇権を争う両社は、こうして今回、共にオンラインディスプレイ広告企業を買収することになった。バナーなどを含むディスプレイ広告は、インターネットの黎明期から続く広告形態だが、市場規模は、その後優勢になったテキストベースの検索キーワード広告より小さい。

 米Gartnerによると、テキスト検索広告がオンライン広告市場全体の約40%を占めるのに対し、ディスプレイ広告は20%程度という。Gartnerは、再びディスプレイ広告にスポットが当たった理由について、YouTubeなどの動画サイトで利用されているフォーマットであること、ロゴなどの視覚効果を重視する大手ブランド企業によるニーズ増などを挙げている。


 インターネット企業にとっては、新しいオンラインディスプレイ広告には別の魅力もある。テキスト検索広告と同様にオークション形式と組み合わせる流れがあるのだ。Yahoo!が買収するRight Mediaは最初から、この手法をビジネスとしている。

 Right Mediaは2005年から、広告主とWebサイトが広告スペースを取引できるディスプレイ広告のマーケットプレイス「Right Media Exchange」を運営している。Right Mediaはトランザクションに対し7%の手数料を徴収するというビジネスモデルだ。これによって、これまで広告価値が低いとされてきたWebメールなどのノンプレミアムページから広告収入を得ることが可能になった。

 ディスプレイ広告オークションは新しい収益源となる可能性を秘めている。Right Mediaによると、同社がオークションサービスを開始した年(2005年)の8カ月間の売上高は3000万ドル、これが翌2006年には1億5000万ドルまで急増。さらに2007年の売上高は5億ドルを見込んでいるという。

 また、Googleが買収するDoubleClickも、買収の数週間前に同様のオークションサービス「Advertising Exchange Network」を発表している。ディスプレイ広告は、オークションという手段を得て注目の広告メディアに変貌した。


 ただし、インターネット企業の広告企業買収に関しては、懸念の声も上がっている。“中立性”という問題である。

 Googleについては、DoubleClickのデータと自社検索サービスの中立性の問題が指摘された。これに対し、DoubleClickは自社の顧客データをGoogleと共有しないと発表した。また、Yahoo!については、Right Mediaのオークションのオープン性、中立性の問題が浮上した。Business Weekなどのメディアはこれに関連して、オークションの中立性を維持するというYahoo!のCFOのコメントを伝えている。

 一方、こうした状況のなかで、Microsoftも黙っているはずがない。5月1日付のNew York Post紙によると、同社はオンライン広告企業の米24/7 Real Mediaの買収を検討しているという。同紙はさらに4日、MicrosoftとYahoo!が経営統合も含む提携を探っていると報じている。ただし、これは不調に終わったようだ。

 今回のGoogleとYahoo!の買収は、インターネット企業のビジネスモデルが広告に依存するものであることを改めて実感させるものとなった。Gartnerが、オンライン広告市場は今後再編の時期を迎えると警告していることなどからも、今後もこの市場を巡る動きが注目される。

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(岡田陽子=Infostand)
2007/5/7 08:30