Adobe vs Microsoft、次の戦場はインターネットビデオ



 放送機器・マルチディア関連の最大の展示会「NAB 2007」で、米Microsoftと米Adobe Systemsが激突した。Microsoftは「Silverlight」、Adobeは「Adobe Media Player」という互いに相手の製品に対抗する新技術を発表、インターネットビデオ分野で火花を散らしている。

 「Silverlight」はAdobeの「Flash」に対抗し、「Adobe Media Player」はMicrosoftの「Windows Media Player」に挑戦する形となる。


 Microsoftが4月15日に発表したSilverlightは、同社としては初の動画再生のためのWebブラウザ用プラグイン技術だ。WindowsとMac OSに対応し、WebブラウザはInternet Explorerのほか、Safari、Firefoxで利用できる。自社技術Windows Media Videoフォーマットをサポートし、コンテンツ保護技術としては、最新の「PlayReady」を採用した。

 一方のAdobeは翌16日、同社初のメディアプレイヤーAdobe Media Playerを発表した。最大の特徴は、同社の最新技術「Apollo」をベースとしていることだ。通常、FlashはWebブラウザ上で再生されるのに対し、Adobe Media PlayerはランタイムをインストールしてWebブラウザ不要となり、オフラインでも再生できる。違法コピー防止技術などのコンテンツ保護機能も備え、RSSもサポートした。

 両社の動きは、動画サイトYouTubeの人気が火をつけたインターネットビデオ分野を狙うものだ。現在この分野で優勢なのは、元々アニメーションから発展していったFlashで、YouTubeやMySpaceなど、ほとんどの人気サイトがビデオ配信用に採用している。Flashのインストールベースは7億台、普及率は80%以上といわれている。

 Adobeはこのリードを維持するため、Adobe Media Playerの発表と同時に、今後の主力製品となる「Adobe Creative Suite 3(CS3)」の出荷を開始している。CS3は、Adobeが買収したMacromediaの技術を統合したもので、デザイナーに人気のPhotoshop、Dreamweaverなどのアプリケーションをパッケージにして、Web開発とコンテンツ作成の融合というトレンドに先手を打った。

 一方のMicrosoftは、この分野に切り込もうとしており、“Flashキラー”ともいわれるWebデザインソフト「Microsoft Expression Studio」をSilverlightとあわせて提供する。Windows Vistaで導入されたプレゼンテーション技術「Windows Presentation Foundation」と連携し、2006年に買収した英iView Mediaの製品をベースとしたマルチメディア資産管理ツールも組み合わせた。Microsoftとしては新しいユーザー層のデザイナーの取り込みを狙うものだ。


 両社にはそれぞれ強みと弱みがある。Adobeの強みは、Flashでのリードとデザイナーからの支持であり、弱みはメディアプレイヤー市場では後発となること。この市場ではMicrosoftだけではなく、米AppleのiTunesやQuickTime Playerとも競合することになる。一方、Microsoftの強みはWindowsのシェアと.NET開発技術との連携で、弱みはデザイナー市場では後発となることだ。

 両社の今後の展開について、メディアの見方もさまざまだが、Adobe優勢とみるものが多いようだ。たとえばThe Wall Street Journalは、WebとPCの境があいまいになっているという最近の傾向をあげながら、オフラインでもFlashアプリケーションを動かせるApollo技術を高く評価。そして、Flashがすでに築いている地位を考えると、「ソフトウェア開発者の関心・予算がAdobe陣営に移行するかもしれない」「Microsoftにとって苦しい戦いになるだろう」としている。

 またAP通信も「デザイナーとWeb開発者が新たにMicrosoftのツールを習得し、Windowsでしか動かない製品を製作する気になるだろうか」と疑問を投げかけ、Microsoft不利の見方を示している。

 それとは逆に、米ECT News NetworkのニュースサイトTechNewsWorldはAdobeの弱みを大きく取り上げている。独自フォーマットである「.WMV」でのMicrosoftのリード、高めに設定されているCS3の価格、Windows Media Playerの多機能性(Adobe Media PlayerはFlashのみをサポート)を指摘し、「Microsoft有利?」と締めくくっている。

 Adobe Media Playerは、ベータ版が今年後半に、正式版が年内に登場する予定だ。Silverlightはベータ版が今月末にリリースされ、Expression Studioは今年半ばに提供の予定だ。

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(岡田陽子=Infostand)
2007/4/23 09:05