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欧州AI主権は守れるか? オランダASMLが13億ユーロでMistralを支援
2025年9月16日 11:11
「Le Chat」無料化で米国サービスに対抗
ASML出資発表の1週間前、Mistralは法人向けAIチャットボット「Le Chat」のエンタープライズ機能を完全無料化すると発表していた。会話コンテキストを保持する「メモリ」システムについて、「有料ユーザーでは競合の10倍、無料ユーザーでも5倍の容量」にするなど、OpenAIのChatGPT、GoogleのGeminiといった米国のAIサービスに対抗する内容だ。内部テストでは86%の情報取得精度を達成したという。
ユーザーは保存した情報の編集や削除も自由にできる。またChatGPTからのメモリ情報インポート機能など、競合からの乗り換えを支援する仕組みも用意した。
さらにDatabricks、Snowflake、Box、GitHub、Stripeなど20以上の外部サービスとの連携機能も無料で提供。Le Chatで直接複数のシステムを操作できるようにした。「Le Chatはデータ、ドキュメント、アクションのための単一の層となる」と説明している。
Financial Timesによると、6月時点でMistralの収益は1年前の資金調達以降、数倍に増加し、年売上高1億ドル超えに向けた軌道に乗っているという。顧客にはフランス国防省などがあり、米国のAIサービスを回避したい欧州のニーズも追い風となっているようだ。
それでも、Mistralは米国のライバルとの市場争いで苦労している。AI Now InstituteのEUポリシーフェローLeevi Saari氏らはブログポストで、Mistralの市場シェアを「約2%で、昨年のピーク時の10%から低下」と指摘している。
無償化はユーザーを呼び込むには良い策だが、継続するには資金が必要だ。一方で対抗するOpenAI、Anthropicといった米国AIサービスはシリコンバレーの潤沢な資金が背景にある。例えば、OpenAIは2029年までに1150億ドルのキャッシュを消費すると見込んでおり、企業価値5000億ドルでセカンダリ株式の売却も検討しているとFinancial Timesは伝えている。Anthropicは9月に入り、評価額1830億ドルで、シリーズF投資ラウンドで130億ドルを調達している。
これに比べ、Mistralは、8月の報道で「100億ドルの評価額を目指す」と伝えられており、その差は大きい。ASMLの大型投資は、こうした状況下で決まったものだ。