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欧州AI主権は守れるか? オランダASMLが13億ユーロでMistralを支援

欧州の構造的問題

 今回のASMLによる出資は、欧州のAIエコシステムにとって重要な転換点となる。これまで欧州スタートアップは、創業初期の資金調達には成功しても、成長段階で資本不足に直面し、米国企業に買収されるケースが多かった。

 Financial Timesは、2024年にフィンランドのSilo AIがAMDに6億6500万ドルで買収された例を挙げ、「欧州のAI企業が、米国のライバル企業と同規模の資金を動員できないことは明らかだ」と記している。

 だが今回は、欧州の技術力を代表する企業が主導する戦略的投資によって、有力なAIスタートアップを域内にとどめた。

 実際、最近もAppleがMistralの買収を検討しているという報道があり、欧州の技術主権が揺らぐとの懸念が広がった。しかしASMLの出資によって一旦は不安は払拭された。フランスのClara Chappazデジタル担当副大臣は、「欧州の技術主権はあなた方によって構築される」とXに投稿して取引を祝福した。

 さらに注目すべきは、ベンチャーキャピタルへの依存から脱却した「欧州企業による欧州企業支援」という新たなモデルを提示したことだ。Mistralの共同創業者兼CEOのArthur Mensch氏は「欧州の野心は欧州委員会と各国政府がそれに応えてこそ価値を持つ」と述べ、規制緩和など行政からの支援の重要性を強調している。

 今回の「欧州の半導体装置メーカーとAI企業のパートナーシップ」は、欧州がAIの米中二極構造に風穴を開けられるかどうかの試金石となるだろう。