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“廉価版”ではない「iPhone 5c」 最大市場中国の戦略は (廉価でない「iPhone 5c」)

廉価でない「iPhone 5c」

 Appleの最新のiPhoneで注目を集めていたのが、中国市場での展開だ。中国の販売開始はこれまで米国と時差があったが、iPhone 5s/5cでは同時発売となった。Appleは翌11日に北京でイベントを開催。あらためてiPhone 5sとiPhone 5cを披露するという力の入れようだ。

 中国市場と中国でのiPhoneはどうだったのだろう――。中国は米国を上回る世界最大のスマートフォン市場だ。たとえばFlurryのデータでは、中国におけるiPhoneとAndroidの合計販売台数は2013年はじめに米国を抜いている。巨大な中国スマートフォン市場を席巻しているのは、安価なAndroid端末だ。Samsungはもちろん、Lenovo、ZTE、Huawei、新興のXiaomiなどの地元勢がAndroidスマートフォンを提供している。

 こうした事情から、成長市場の中国にあってAppleの売上げは減少している。第2四半期の中国市場での売上げは前年同期比14%減少、前四半期(第1四半期)と比較してもマイナス成長となった。シェアは5%。これも前年同期の9%から4ポイントの減となる。

 Appleへの批判の1つが価格だった。スマートフォンへの需要が高まる一方で、多くの中国の消費者にとってiPhoneの価格は高すぎて手が届かないためだ。2000元(約320ドル)を切る価格でスマートフォンを提供するXiaomiなどが台数を伸ばしており、Appleが対応を迫られているとの見方が強かった。それが廉価版への期待となった。

 ところが、ふたを開けてみると、iPhone 5cの中国での価格は4488元(約733ドル)から。これは、中国の平均的な消費者の月給1カ月分を上回り、廉価版iPhoneを期待していた中国の消費者の反感を買ったようだ。The Next Webは中国のソーシャルメディアSina Weiboで行き交う怒りの声として、「最も高い“安い”スマートフォンだ」などの書き込みがあったと紹介している。iPhone 5sの5288元(約864ドル)との価格差が小さい、とThe Next Webは指摘している。

 このAppleの価格戦略について、アナリストの見解は分かれている。Bloombergは「(iPhone 5cは)安いとは言えない。われわれはこの価格帯に落胆している。中国ではハイエンドだ」(HSBC Holdingsのアナリスト)、IT Wireは「途上国向けに安価な製品を投入しないというAppleの姿勢を懸念する」(Stanford C. Bernsteinのアナリスト)などアナリストのコメントを紹介している。

 一方、Counterpoint Researchは「Appleはスマートフォンの中で最も成長率の高いセグメントを無視している」と指摘しながら、やや異なる評価を与えている。同社は、300ドル以下のスマートフォンが2013年に出荷されるスマートフォンの3分の2の台数を占めると予想しており、「Appleは勇敢にもこのセグメントを無視しており、当面ここで存在感はないだろう」と述べている。

 そして、最新のiPhoneからAppleの戦略は「高バリュー」「高収益」なプレミアムスマートフォン分野での地位を強めること、と読む。そして、複数のフラッグシップを持つこと、複数のLTEバンドのサポート(多数の市場への展開が可能になる)などを評価した。

 The Next Webはシェア(台数)と成功は「必ずしもイコールではない」とした上で、Appleは価格を下げないことで、品質と、「他にはないものを持ちたい」という富裕ユーザーにアピールできると戦略を分析している。なお、iSuppliの調査によると、iPhone 5cの原価は165ドル。iPhone 5sは236ドルという。

(岡田陽子=Infostand)