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AIブームの影の部分で ホワイトカラー非正規労働者

「ゴーストワーク」

 テクノロジーの魔法を支える下請労働者は、Googleだけの話ではないとする専門家もいる。人類学者のMary Gray氏とコンピューター科学者のSiddharth Suri氏は先ごろ、「Ghost Work: How to Stop Silicon Valley from Building a New Global Underclass」(ゴーストワーク:シリコンバレーが世界に新しい下層階級を生み出すのをどう止めるか)という本を著した。

 「ゴーストワーク」は、WebやAIのシステムでインテリジェントなサービスを実現するために働く“目に見えないゴーストのような労働力”を言う。テクノロジー業界には、コンテンツのフラグ付けや、校正など裏方で手間のかかる仕事がある。両氏は、既に米国人の推定8%が1度以上、こうした仕事をした経験があるとみている。

 MIT Technology Reviewは、GuardianのPygmalionプロジェクトのレポート後、Gray氏にインタビューを行い、ゴーストワークの問題を取り上げた。「人間のようにふるまうAIの背後には、時として、真似の指示をする人間がいる」と指摘。Pygmalionの要員のほか、Facebookで問題コンテンツがないか監視する「コンテンツモデレーター」や、Amazonで、Alexaの聞いた音声を書き起こし、注釈を付けて性能を改善する担当者たちを例に挙げる。

 Gray氏はMIT Technology Reviewのインタビューに対し、こうした仕事は「労働条件が悪くなりやすく」「かなりの創造性と洞察力と判断を要する」にもかかわらず、「企業は、彼らの仕事の重要性に見合った労働条件を提供していない」とする。そして、ゴーストワークに飲み込まれないため、「労働者と企業の双方が、こうした調達しやすい労働力の価値に基づいた雇用契約の再構築をすべき」と主張する。

 Bloombergは約1年前、Googleの非正規雇用を取り上げた記事で、急速な成長と人材の争奪戦で非正規の採用が増えたと指摘していた。「(支出の引き締めの一方で)最初から100万ドルを取れるような高額なエンジニアを獲得したいことに変わりはない。これを補うため、マネージャーは現場スタッフを、非正規で埋めようとする」というものだ。

 テクノロジー業界のし烈な競争の中では、ゴーストワークを増やす要因の方が勝っているように見える。