クラウド&データセンター完全ガイド:特集

関西が担う「日本のレジリエンス」、オプテージ・福智道一氏が語るデータセンター事業の現在地と未来戦略

国内データセンター進化論:経営×IT×ファシリティのシナジーとは?

「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内のデータセンター開設が相次いだ2000 年に創刊し、データセンター業界をウォッチし続けてきた。本企画は創刊25周年を機に、国内の地域データセンター事業者の経営層、IT運用責任者、ファシリティ担当者に、データセンター事業の現状や課題、さらに「25年後(未来)のデータセンター」を想像して語っていただいた。今回は、関西地方で通信事業やデータセンター事業を展開する株式会社オプテージ 執行役員の福智道一氏に話を伺った。
オプテージ「OC1」完成イメージ

関西圏の課題を解決する「コネクティビティデータセンター」

――データセンター事業の現状はいかがでしょうか。

福智氏:オプテージのデータセンター事業としては、新しいデータセンター「OC1」を2026年1月にサービス開始する予定です。OC1は、完全にコネクティビティデータセンターとしての展開を想定しています。

 インターネットの現状を踏まえると、大阪はコネクティビティにおいて非常に重要な場所です。これまで堂島地区のデータセンターがその役割を担ってきましたが、コネクティビティの需要はこれからさらに旺盛になるという認識のもと、OC1をオープンすることにしました。特にオプテージはネットワークを多く保有している強みを生かし、ネットワーク接続(インターコネクト)に特化したコネクティビティデータセンターは価値が高いと考えています。

 また、単なるネットワーク接続だけでなく、クラウドへの接続、クラウドコネクティビティが非常に重要になっています。クラウドへの接続需要をどれだけデータセンター内で解決していくかが大きなテーマであり、弊社のサービスである「ネットワークエクスチェンジ」のようなバーチャル化されたクラウド接続も大阪で成長していくでしょう。さらに、AIによる推論用サーバー設備・学習用サーバー設備の要件、AIエージェントの登場など、エレメント同士が通信する需要は自明であり、この流れを大阪で支えるOC1は極めて重要な位置付けとなります。

株式会社オプテージ 執行役員の福智道一氏

日本の危機管理とレジリエンス:大阪に課せられた役割

――OC1の構想中には生成AIの波も来ましたが、クラウドへのコネクティビティ需要は引き続き旺盛ですか?

福智氏:その通りですが、一方で私は日本のインフラとしてのインターネットについて、危機意識を強く訴えたいです。

 内閣府が公開した富士山噴火のシミュレーションでは、大規模停電の可能性が示唆されています。火山灰を吸い込むと、データセンターの非常用発電機や空調機器に被害が及ぶことが懸念されており機能停止に陥る可能性があります。これは、東京のみならず日本全体のITCインフラに重大なリスクがあるということです。

 もし首都圏が機能不全に陥った際、バックアップをどこに置くかといえば、まず関西しかありません。まずは大阪を強くすることが、日本の競争力あるレジリエンスに寄与することにつながります。

福智氏:現状、関西にあるハイパースケーラーの西日本リージョンでは、東京とほぼ変わらないキャパシティが用意されているケースもあります。しかし、日本のユーザーの危機意識が低いこともあってか、東京に比べて利用が進んでいません。クラウドを使っているエンタープライズの多くが、リージョン内のAZ(アベイラビリティゾーン)での冗長化で十分だと考えていますが、AZ全体が機能不全になるリスクを想定すれば、東西リージョンでの冗長化、つまり関西にデータを置くことは必須になるのではないでしょうか。

 これはデータトラフィックの現状にも表れています。私が以前IX事業者に勤めていた経験から言うと、トラフィックの分散比率は、実際には東京に70%以上が集中しており、大阪のデータも東京で交換されているのが現状です。これは、インターネットが東京発で発展してきたという歴史的経緯と、そのためにネットワークトポロジーが東京に集中していることが原因です。

 この集中を是正し、東西の冗長性を「アクティブ-アクティブ」で実現できているのは、現時点ではYahoo! JAPANなどごく一部のコンテンツ事業者だけです。オプテージとしても、OC1の設立を通じて、ISPやコンテンツ事業者が大阪でのトラフィックコントロール量を増やすための環境を提供し、日本のレジリエンス向上に貢献していかなければならないと思います。

AI時代の地方分散:学習用と推論用の分離

――生成AIや大電力を消費するGPUサーバーに対応するため、関西電力グループのオプテージが、福井県美浜でデータセンターを建設する件について、これはAI専用へのシフトと捉えるべきでしょうか。

福智氏:もちろん生成AIの流れは、我々も構えとして作るべきだと思っていました。福井県美浜のデータセンターは、複数の候補地をスコアリングした結果であり、特定の場所にこだわったわけではありません。

 デマンドレスポンスや、電力の需要と供給のバランスを最終ゴールとするならば、データセンターはもっと分散していくべきです。美浜の施設は、その第一歩としてのコンテナ型データセンターという位置づけです。

 政府の「総合資源エネルギー調査会」では、脱炭素エネルギーの使用率が高い地域として、北海道、九州、関西が挙げられています。特に関西は原子力の比率が大きいですが、脱炭素化された電力が得られる地域としての強みがあります。

 AIの要件は、「学習用」と「推論用(インファレンス)」で分かれています。学習用の大規模なデータセンターは、地方での建設が多く発表されていますが、アンカー的に東京や大阪にも引き続き必要になるでしょう。ただし電力を大量に消費するため、立地よりも電力供給量が重要になると思います。

 推論用のデータセンターは、サービスへの応答としてレイテンシーが重要で、ウェブサーバーやCDN(コンテンツデリバリネットワーク)のノードに近い位置付けになるとも考えられます。そのため、分散が広がると予想しています。極端な話、推論はラズベリーパイのような端末で動くモデルもありますので。

 推論用のサービスエッジは、さまざまな地域で生まれるでしょう。ただし、東京と大阪に資する機能が分散するわけではなく、あくまでサービスエッジが生まれるという形です。この分散を支えるためには、ネットワークのキャパシティ問題を埋める必要もありますが、分散は必須になるのではないかと思います。

美浜町に建設するデータセンターのイメージ

ネットワーク事業者としてのオプテージの「これから」

――オプテージの事業として、今後最も強みを発揮するのはネットワーク分野でしょうか。

福智氏:はい、やはり我々の最大の強みはネットワークだと思います。それにコアとなるOC1のようなコネクティビティデータセンターがあるという位置付けです。

 日本のレジリエンス強化という点で、大阪のプレゼンスを高めていくことが重要です。その一環として、来年、大きな国際的なピアリングイベントである「Peering Asia 8.0」が大阪で開催されることが決定しました。これは、大阪のコネクティビティを盛り上げる起爆剤となるでしょう。

 また、9月には、OC1を起点とした海底ケーブル事業への参入も発表しました。インド・アジア圏のデータセンター活況に対応し、日本にデータセンターを誘致できない海外の事業者に対して、ネットワークでサポートしていくためです。

 データセンター事業者は、ハイパースケーラー向けの巨大なクラスターも必要ですが、それと同時に推論用の分散も必要です。その両方の土台を支える通信インフラのあり方、特に日本のレジリエンスをどう強めていくかという視点が、今後最も大事になると思います。

――ありがとうございました。