クラウド&データセンター完全ガイド:特集

沖縄からアジアのハブへ。分散・自律・脱炭素で描く「次世代データセンター」の地平

「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内のデータセンター開設が相次いだ2000年に創刊し、データセンター業界をウォッチし続けてきた。本企画は創刊25周年を機に、国内の地域データセンター事業者の経営層、IT運用責任者、ファシリティ担当者に、データセンター事業の現状や課題、さらに「25年後(未来)のデータセンター」を想像して語っていただいた。今回は、沖縄県でデータセンター事業を展開する株式会社FRTに話を伺った。

25年後、沖縄は日本の「フロンティア」になる

 FRTは、沖縄電力グループのデータセンター事業者として2001年に設立され、データセンターやコンタクトセンター事業を展開している。FRTデータセンターは、地震の少ない沖縄県に立地しながら、震度6クラスの地震が起きても滞りなく利用できるように、揺れを減衰させる免震設計を採用している。また、沖縄電力グループの電力供給事業で培った保安技術を生かし、異なる火力発電所・変電所からなる複数系統受電、無停電電源装置、非常用発電設備などの電源対策を施し、自然災害や有事から顧客のデータを守り、事業継続(BCP)を支援する態勢を整えている。

 沖縄でデータセンター事業を展開するFRTにとって、現在の課題や今後の展望、またAI需要への対応などをどのように考えているのか。FRT代表取締役社長の石川義行氏に話を伺った。

FRT代表取締役社長の石川義行氏

――本日はありがとうございます。FRTは2026年で創立25周年を迎えられるとのことで、まずは25年後という長期的な視点で、沖縄のデータセンターがどのような役割を果たすとお考えかお聞かせください。

石川氏(代表):25年後、世界はAIによる自動化が極限まで進み、脱炭素社会が当たり前になっているでしょう。その中で沖縄は、単なる「地方」ではなく、日本とアジアを結ぶ国際的なハブ「ゲートウェイ」としての役割がより明確になると確信しています。

 現在、沖縄県では米軍基地跡地の返還に伴う「GW2050 PROJECTS」が進んでいます。那覇空港や那覇軍港を含むエリアを国際的なハブとして再定義するこの動きは、物理的な物流だけでなく「データの物流」においても大きなチャンスになると思います。

 ただ、現在発表されているグランドデザインの中にデータセンターに関する具体的な記述はまだないものの、親会社である沖縄電力もプロジェクトに参加しており、25年後にはカーボンニュートラルを実現し、AIや量子技術に対応した「次世代データセンター」が、このアジアのゲートウェイを支える不可欠なインフラになっているはずです。

――25年後の技術的なキーワードとして、どのような点に注目されていますか。

石川氏:キーワードは「分散」です。現在は巨大なデータセンターに集約するクラウドが主流ですが、今後はよりデータ発生源に近い「エッジ」との二極化が進むでしょう。

 特に沖縄のような地域では、将来的に人口減少に伴う交通の自動化が不可欠になります。自動運転車から吐き出される膨大なデータを瞬時に処理するためには、マイクログリッド(小規模電力網)とセットになった分散型の小規模データセンターが各地に配置される必要があります。クラウドとエッジのハイブリッド、そしてAIによる自律運用。これが25年後の標準的な姿だと考えています。

 これまでのデータセンターは、お預かりしたデータを守るのが仕事でした。しかしこれからは、AIを活用してそのデータに付加価値を付け、お客様や地域社会に戻していく。そして沖縄が持つ「アジアへの近さ」という地政学的メリットを活かし、国内だけでなく東南アジアや台湾のデータ主権を守るレジリエンス拠点へと進化させていきたい。25年後の答え合わせが楽しみです。

――そうなると、ネットワークの整備も重要になるのではないでしょうか。

石川氏:そうですね。現状、沖縄から外に出て行くネットワークの帯域が十分太いとは言えない状況だと思いますが、さまざまな回線事業者とも話を進めています。また、台湾や東南アジアといった地域とのネットワークを増強することで、より沖縄のデータセンター事業が活況を呈していくのではないかという考えはあります。沖縄は東南アジアのハブになると昔から言ってきましたが、実際のハブになれるよう進めていければと思っています。

――現状のお客様はBCP/DR用途が多いのでしょうか。

石川氏:東京や大阪といった大都市と、同時被災しない距離であるという点は、これまでもお客様から評価をいただいています。こちらについては今後も変わらないメリットであるかと思います。

 一方で、他にも地方のデータセンターはあり、BCP/DRサイトとして重要なのは、お客様のネットワークの選択肢の幅や、安価で遅延の少ない回線をいかに提供できるかということだと思います。遅延には距離という限界はありますが、我々は立ち上げ当初からキャリアフリーのデータセンターという形で回線を整備しています。また、アット東京がネットワークサービス「ATBeX」の沖縄アクセスポイントをFRTのデータセンターに開設しており、こうしたネットワークの整備を今後も進めていきます。

 今後は、IOWN APNのようなネットワークも広がっていくと思いますので、そうした動きに乗り遅れないように、地方分散、地方データセンターとしての強みを模索しながら進めていきたいと思います。国際通信もそうですし、あとは物流関係ともう少し連携しながら、データの動きとモノの動きを連携させる取り組みを進めていければいいなと思っています。

AI対応と「空冷の限界」への挑戦

 続いてデータセンターの現場で感じている現状や課題について、FRTソリューション事業本部のインターネットデータセンター部長 ソリューションセンター長の砂辺剛志氏と、インターネットデータセンター部 ファシリティーグループリーダーの屋宜真也氏に話を伺った。

FRTソリューション事業本部 インターネットデータセンター部長 ソリューションセンター長の砂辺剛志氏(右)と、ファシリティーグループリーダーの屋宜真也氏(左)

――現場では「AIサーバーへの対応」という具体的な課題に直面されているとお聞きしました。

砂辺氏:はい。今、最もホットなのはAIサーバーの受け入れです。ここ半年で「1ラックあたり10kVA以上を使いたい」という問い合わせが急増しています。しかし、20年前に設計されたデータセンターにとって、この高熱・高負荷への対応は容易ではありません。

屋宜氏:まさに「空冷の限界」をどう見極めるかという段階にいます。現状は、ラックの間隔を空けるなど運用上の工夫でしのいでいますが、将来的にはリアドア型冷却や、サーバーに直接冷気を送り込む方式、さらには液冷(DLC)の導入も視野に入れなければなりません。ただし、沖縄特有の「塩害」対策や、多額の設備投資コストとのバランスをどう取るかが、直近5年の大きな議論の的になっています。

――コンテナ型のデータセンターによる対応はどうでしょうか。

屋宜氏:まだ明確な答えは持ってはいないのですが、現状は今のセンターにおいて、残りの設備容量でどのぐらい対応できるかということを、まずは先に考えています。たとえば高負荷専用のエリアを設けるとか、そうした取り組みを続けていった先に、求められる新しい施設や設備の姿が見えていくのかなと思っています。

 高負荷のサーバーのスペックにもよりますが、今のセンターでは対応が難しいものも出てくると思いますし、そういう需要を見極めながら対応していこうと思います。

――人材不足も業界全体の課題ですが、運用現場のモチベーション維持についてはどのようにお考えですか。

砂辺氏:運用はどうしても「動いていて当たり前」の減点方式で見られがちです。しかし、AIや新しい冷却技術が次々と入ってくる今の環境は、エンジニアにとって非常に面白い時期でもあります。

――確かに、定型業務から「新しい技術をどう実装するか」というクリエイティブな仕事にシフトしていますね。

砂辺氏:その通りです。若い世代には、実物のサーバーやネットワークを触る楽しさを知ってほしい。セキュリティを基盤に据えつつ、ファシリティーとITの境界線をなくして、お互いにアイデアを出し合える環境を作っています。エンジニアが「楽しい」と思える現場こそが、25年後を支える人材を育むと信じています。

――ありがとうございます。