クラウド&データセンター完全ガイド:特集

ITインフラを支えるサーバー仮想化技術の“今”と“これから”(Part 1)

仮想化技術を俯瞰する

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2019年夏号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2019年7月1日
定価:本体2000円+税

現在のIT インフラのトレンドはまさに“ クラウド全盛” であり、まずクラウドありきで検討が開始される例が珍しくなくなった。もちろん、クラウドは万能でもなければ唯一の選択肢というわけでもないので、慎重に検討した結果、あえてオンプレミスを選んだ、という事例も増えてきているのは確かだが、その場合でもベースとなるのは仮想化技術の活用だ。仮想化技術が成熟したことでクラウドが成立したと言っても過言ではないし、オンプレミスとクラウドを柔軟に行き来するためには仮想化技術が必須となる。今回は、サーバーの仮想化技術の現状を改めて確認しておこう。 text:渡邉利和

サーバー仮想化の発展経緯

 現在主流となっているサーバー仮想化技術は、主にIAサーバーを対象としたものだ。ITインフラの主役がメインフレームからUNIXサーバー+クライアントPCに移行し、さらにUNIXサーバーがIAサーバー(LinuxまたはWindows Server)に移行する過程で、IAサーバーの仮想化技術が登場し、急速に発展していった。仮想化技術の起源をたどれば当然ながらメインフレームにまでさかのぼることができる。長らく隆盛を誇ったハイパーバイザー型の仮想化はもちろん、現在急速に普及しつつあるコンテナ型の仮想化も、その基本的なアイデア自体はメインフレーム時代に誕生している。違いは、当然ながら前提としているハードウェアアーキテクチャが変わったことが一点。さらに、現在の仮想化技術の実装が基本的にはオープンソースソフトウェアとして行われており、その開発やメンテナンス、運用ノウハウの共有などが特定のベンダーに占有されない「コミュニティ」ベースで行われていることも大きな違いとなっている。

 メインフレームで仮想化技術が活用されるようになったのには、極めて高価で貴重なリソースだったメインフレームの処理能力を無駄なく使い切りたいという要望が背景にあった。同時に、メインフレームで処理するタスクは当然ながらいずれも重要な業務であり、その遂行に支障があってはならないため、複数のタスクを同時に実行しても相互に影響がないよう独立性を高め、可能な限り隔離しておきたいというニーズもあった。こうした発想は、ある程度以上に大型化し、処理能力が高まったコンピュータにはほぼ普遍的に生じるもので、実際にサーバーの主役がメインフレームから商用UNIXサーバーに移った際には、UNIXにも仮想化技術が実装されていた。さらに、PCが個人向けの安価で相対的に低スペックのコンピュータだった時代はともかく、IAサーバーの処理能力が向上し、単一のタスクに専従させるだけでは処理能力を使い切れないレベルにまで性能が上がると、その能力を無駄なく活用するために仮想化技術が求められ、実際に実装され、普及したという流れになる。

 メインフレームや商用UNIXサーバーの時代にはまだハードウェア自体が高額なものが多く、台数を揃えるのは大変だったが、IAサーバーの時代になるとハードウェアのコストは大幅に下がった。そのため、「処理能力を余らせないよう無駄なく使い切るために複数のタスクを相互作用が起こらない形で1台のサーバー上に併存させる」、という使い方に加え、仮想サーバーの可搬性を活用する、という使い方も普及した。VMwareが実現したvMotionによるライブマイグレーションもその例だが、単に仮想サーバーのイメージを任意の場所にコピーする、という形でもさまざまなメリットが得られた。たとえば、同一構成のサーバーを多数用意したい、といった場合だ。現在では、仮想環境の可搬性を活用した運用管理面の柔軟性確保のほうがより重要だと考えられるようになっている傾向もある。

 ユーザー企業がITインフラについて検討する場合、まずはワークロードをクラウドで処理するかオンプレミスで処理するか、という選択について検討することが重要となっているが、こうした選択が可能になったのは、そもそも物理サーバーから仮想サーバーへの移行によって、サーバーのイメージをファイルとして簡単にコピーし、移動できるようになった結果だと言えるだろう。

仮想化を前提としたITインフラ

 「オンプレミスかクラウドか」という問いは、ITインフラを考える上で現在では避けて通ることができない重要問題となっている。重要業務をクラウドに出すことは不可能、と思われていた時代から、システムをとにかくクラウドへ、という時代を経て、現在はある程度の揺り戻しとともに「適材適所で」という考え方に落ち着いている。そのため、ワークロードごとに適切なインフラを選定するという負担が生じたということも言えそうだが、それはともかくとして、大前提として、ワークロードをオンプレミスでもクラウドでもどちらでも処理できる形にしておく必要があり、そのためには仮想化技術の活用がほぼ必須と言える状況だ。つまり、当面はクラウドの活用は予定せず、自社データセンター内で運用する予定のワークロードであっても仮想化環境で実行することが必要だ。仮想化技術の普及初期段階では「データベースを仮想サーバーで運用するなんてあり得ない」といった声もあったが、現在では絶対に仮想化できないワークロードを見つけるのは相当困難になっている。もちろん、仮想化することで多少のパフォーマンス低下が生じることはあるものの、運用管理の負担や柔軟性/可用性の向上といった要素を加味すれば、仮想化しないデメリットのほうが遥かに大きくなる例が大半だ。そして、仮想化された多数のワークロードを運用するなら、その運用管理手法もクラウドと似たものになってくるため、ならばハイブリッドクラウドの実現まで想定して、まずはオンプレミス環境をプライベートクラウド化しておく、というところまで踏み込む例が増えている。

 当初は、特にエンタープライズ市場ではVMwareによる仮想化環境がほぼデファクトスタンダードと言える状況だったが、その後Windows Serverに組み込まれたHyper-Vによる仮想化環境や、オープンソースベースの環境ではLinuxに組み込まれたKVMなども一定の支持を集めている。さらに、現在ではHCIなどのように最初から仮想化環境を前提としたインフラが構築された形で提供される製品も普及し始めており、独自の仮想化環境を構成している例もある。仮想化が実用段階に入った2000年代くらいであれば、エンタープライズITのインフラをVMwareの仮想化環境で統一することはさほど難しいことではなかったが、現在では仮想化インフラ自体も“適材適所”の対象となってくる状況であり、逆にあえて統一する意味も薄れているとも言える。そうした状況も踏まえつつ、ワークロードの特性に応じて適切なITインフラを選択することの重要性が高まっている。

モダンなワークロードの増加

 クラウドとスマートフォンの相乗効果なのか、多くのビジネスが“DX”(デジタルトランスフォーメーション)に向けて動き出している。コンシューマー向けのビジネスであれば、今時はスマホアプリの操作だけで完結してしまう例が少なくない。そのため、アプリなどのデジタルの世界で存在感を示せない限り消費者から全く認知されないという状況に陥りかねない。こうした状況では、スマホアプリなどの出来がユーザー体験を左右し、その体験がビジネス自体の評価に直結することになる。まさに、アプリの開発力がビジネスの競争力に直結する時代になっているのである。

 従来の基幹業務システムなどは、経理/会計といった「正確な記録を残す」ことを主眼としたシステムであり、SoR(Systems of Record)と呼ばれる。一方で、新たな顧客体験などを作り出し、デジタルの世界で顧客との接点となる新世代のシステムをSoE(Systems of Engagement)と呼んで区別している。ごく大雑把に分類してしまえば、SoRは従来型のエンタープライズアプリケーションでオンプレミスでの運用が前提、SoEは新しいクラウドネイティブなアプリケーション、というイメージになる。そのため、ある程度のITシステムを運用している企業の場合、従来から使い続けている基幹業務システムなどはSoRという位置付けになり、これは当面オンプレミス環境で運用する一方、新たなSoE型のアプリのためのインフラはクラウド上に構築する、という形が基本的なすみ分けとなる。その上で、既存のSoR型アプリケーションをクラウドに移行するかどうかは、企業ごとのIT戦略やアプリケーションベンダー側の対応次第ということになるだろう。

 新しいSoEアプリケーションに関しては、コンテナ対応が急速に進んでいる。仮想サーバーよりも軽量なパッケージとしてアプリケーションを稼働環境ごとまとめて扱えるようにする技術であるコンテナには多くのメリットがあり、普及/展開のペースも速い。現在では、特にクラウド環境で実行されるアプリケーションに関してはコンテナ化されるのがほぼ当たり前になりつつある状況だ。この結果、実行環境はもちろん、開発/検証のためのオンプレミス側の環境もコンテナ対応することが求められるなど、新たな要件に対応する必要も生じている。