データセンター完全ガイド:特集

2017年、データセンター/クラウド基盤はこう選ぶ!

「デジタルビジネスを駆動するITインフラ」の観点で自社ベストの選択を

[Part 1] Introduction
クラウドとデータセンター、戦略的ITインフラ選びの基本指針

今日、企業のIT施策でクラウドをまったく利用しない企業はもはや少数だろう。アプリケーションレイヤのSaaS から、OS・ミドルウェアレイヤのPaaS、インフラレイヤのIaaSまでの全レイヤでクラウドの活用が進んでいる。本パートでは、外部のデータセンターやパブリッククラウドサービス、プライベートクラウド、それらと自社運用(オンプレミス)とのハイブリッドといったさまざまな選択肢に対して、自社の環境・業務用途に応じて最適なITインフラを選ぶための基本的指針を考察する。 text:渡邉利和

オンプレミスとクラウドのバランスポイント

 クラウドサービスの利用は業種/業態を問わず確実に進展しており、国内市場規模の推移もそれを裏づけている(図1)。今では、セキュリティやコンプライアンスの観点からデータを自社データセンター以外の場所に置くことはないと考えられていた金融機関などでも活用が始まっている状況だ。かつてあった、クラウドを利用することに対する不安感や抵抗感は今ではかなり薄れていると思われ、クラウドの活用を選択肢からから除外してITインフラの選定を考えるのはむしろ非現実的と言えるだろう。

 とはいえ、あらゆる場合においてクラウドが最善とまで呼べるかというと、そうではないし、オンプレミスに適切な用途がなくなったわけでもない。用途や目的に応じて最適な選択を行うことの重要さは変わってはいない。

 ITインフラにおけるオンプレミスとクラウドの最適な組み合わせを考える際、組み合わせのバランスポイントは年々クラウド側に重心移動していることは意識しておく必要があるが、現時点において社内に一切のITインフラを用意しない形は今もこれからも考えにくい。

 オフィス(執務スペース)に目を向ければ、社員がWordやExcel、PowerPointといったオフィスアプリケーションを利用する際、スマートフォンやタブレットよりも、やはりフルキーボードと見やすい大型モニタと共にPCを使うほうが効率的だ。また、自席から会議室、セミナールームと社内でも移動しながらノートPCを使うのに、今や社内のネットワークは無線LAN(Wi-Fi)も含めて環境を構築することが必須だ。

 こうした今の一般的なオフィス環境もフルクラウド環境で実現することはもちろん不可能ではないが、オンプレミスで構築するほうが簡単で、社員の利便性も高かったりするものだ。ちなみに、「Network as a Service」としてクラウドサービス化されたネットワーク環境を提供する事業者も存在するが、こうしたサービスを利用する場合にも当然ながら社内にネットワークインフラが必要になる。セキュリティやルーティング、セグメンテーションなど、ネットワークの設定や運用管理をクラウド側から行うことができるようになるが、社内にネットワークインフラがまったくなくてはそもそもクラウドに接続することさえできないのだから当然だ。

 上述したように、クラウド側への重心移動は進んでいくにせよ、社内には一定規模のIT機器やネットワークインフラが存在し続けることは間違いない。同様に考えてみると、現在、外部のデータセンターのハウジング/コロケーションサービスを利用している場合、それらをクラウドに是が非でも移行すべきということにはならない。

 ハウジングやコロケーションあるいはオンプレミスを残すか、クラウドに移行するかは、その先の目的で考えるべきで、現在の利用形態と得られるパフォーマンスやセキュリティレベル、そしてコストが妥当であればハウジングの契約やオンプレミスを継続すればよいことになる。

図1:国内クラウドサービス市場規模実績・予測(出典:MM 総研、2016年12月)

現時点で考慮すべきクラウド利用のリスク

 クラウドサービスはインターネットに接続されていることが大前提であるため、特にセキュリティに関していまだに懸念されることが多いようだ。

 しかし、それはもう過去の話だろう。特にグローバルの大手クラウドベンダー/事業者に関しては、規模の経済を背景に、セキュリティを担当する組織・スタッフや導入するセキュリティの仕組みに関して、一般的な企業の比ではない多額の投資を行っている。したがって、一般的にはクラウドに情報資産を置いたほうが、自社よりもはるかにセキュリティレベルは高いと考えて問題ないだろう。もちろん、ユーザー企業はセキュリティに関して何も考えなくてよいということにはならないのは当然だが、少なくとも「オンプレミスのほうがクラウドよりもセキュリティレベルが高い」と無条件に言い切れる状況ではなくなっている。

 現在、クラウド利用に関して懸念すべきは、セキュリティよりもクラウドサービスの不慮の停止やベンダーロックインやにまつわるリスクだろう。超大手なら安心という考えは成り立つが、もちろん絶対ではないし、大手クラウドサービスにおけるクリティカルなサービスダウンやトラブルはこれまでにも発生している。また、小・中規模の事業者になると買収や統合は頻繁に起こっており、移行パスは保証される例が大半ではあるもののリスクは想定しておく必要はあろう。

 では、こうしたクラウド利用のリスクにどう備えるか。利用中のクラウドサービスの停止や提供終了を想定した対策として現実的なのは、予備系システム/バックアップとして、オンプレミスや別のクラウドサービスを用意しておくことだろう。処理を一切失うことなく即座に予備系に切り替えといった要件の場合、ハードルはぐっと高まるが、逆にある程度の時間のダウンは許容するものの、できるだけ早くシステム復旧したいといった条件ならさまざまな選択肢が考えられる。そして、こうした選択肢を事前に準備しておくことは、そのまま将来的なシステムの展開の際にも有用となる。

 また、ベンダーロックイン自体のリスクについては、クラウドサービスの場合、オンプレミスの製品・ソリューションで起こっていたような固定的な囲い込みの状況は起こりにくいと考えてよいだろう。

バランスポイントの移動を踏まえてこの先に備える

 現在のオンプレミスとクラウドのバランスポイントは、今後さらにクラウド側にシフトしてくだろう。そのときに、オンプレミスからクラウドへ、システムや処理を順次移行できるように今から備えておくことが肝要だ。

 現時点はまだ過渡期であり、実際の業務ワークロードの大半はまだオンプレミスのシステム上で処理されている。移行コストを考えれば、まだクラウドには移行しないというのも現実的な選択肢と考えられる。

 しかし、こうした状況はいつまでもそのままにはしておけない。時間が経つにつれて「クラウドに移行しないことのデメリット」が大きくなっていく。加えて、あまりに長期間塩漬けにしてしまったシステムの移行には大変な“痛み”を伴う。このことは、過去のメインフレームやミニコンのリプレースの歴史を振り返ってみれば明らかだろう。

 つまり、現時点で「最適なITインフラ選び」というのは、現実的な解としては「オンプレミスとクラウドの適切な組み合わせ」でほぼ確定している。ただし、「どういう組み合わせが適切なのか」という問いの答えは、ユーザー企業ごと、システムごと、さらには移行のタイミングごとに変わってくる。

 現時点で強く意識しておくべきは、最適なバランスポイントは刻々と変化していくことを踏まえながら、その変化にできるだけ少ない負担で追従出来るような柔軟性の高いシステムにしておくことが望ましい。3~5年の運用期間を見込み、最適化されたシステムを構築するという手法ではなく、それこそ場合によっては月単位でシステム構成が変わっていくかもしれないという想定を置く。このことが、結果として現時点での最適解をそれぞれが導くための鍵となると思われる。

データセンター完全ガイド2017年春号