クラウド&データセンター完全ガイド:特集
「サービスの中身」で選ぶデータセンター/クラウド基盤
IT基盤から「ビジネス価値創出基盤」へ 「目的指向」クラウド/DCサービスの時代[Part 1]
2017年7月5日 06:00
弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2017年夏号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2017年6月30日
定価:本体2000円+税
[Part 1] 「サービスの中身」で選ぶデータセンター/クラウド基盤
企業のユーザーが社外のデータセンターやクラウド基盤に何を求めるのか、その考え方や選定時の観点が大きく変わってきている。“as a Service”やクラウドの進展、企業内でITに携わるユーザーの今のミッションから、「そこに自社のITシステムを置いて、実際に得られるビジネスメリット」をよりいっそう重視する傾向が明らかだ。「ITそのもの」に対する世の認識の遷移から考えてみたい。 text:渡邉利和
希薄化する「ITそのもの」の存在感
ITがビジネスにも日常生活にも不可欠なものとなって久しい。言い換えれば、かつてのITバブルの頃のようなIT自体に注目する機会は少なくなり、社会全体の進歩におけるITの役割を位置づけるといったとらえ方がメインとなりつつある。この状況から、「ITそのもの」の存在感は希薄化していくような印象も今ではある。
今後OSやCPUの新バージョン発売で深夜の秋葉原に行列ができたなどといった事象を見かけることはないだろう。このことを例えれば、社会インフラの1つである電力業界で発電効率を大きく高める技術革新があったとしても、そのこと自体が広く報道されるわけでもない状況ともよく似ている。つまり、世間の関心の高さと物事の重要性は必ずしもリンクしていないということだ。
そんな中で、今日のデータセンターやクラウド基盤には何が求められているのだろうか。今日ではデータセンターも社会インフラとして位置づけられ、重要な役割を果たすことが期待されていることは論を俟たない。ここでは、ビジネスコンピューティングの基盤としてユーザー企業の期待に直接的に応えていくにあたって、現在そしてこれからのデータセンターの要件と呼べるものを整理してみる。
関心は「ITそのもの」から「ITで実現できること」に
前節でITが当たり前のものとなり、以前より関心を集めなくなったと述べたが、それでも、頻繁に耳目にするキーワードはもちろんある。マシンラーニング(機械学習)やディープラーニング(深層学習)などAI(人工知能)関連や、ありとあらゆるモノがインターネットに接続されるIoT(Internet of Things)といったあたりだ。
これらのテクノロジーへの注目が示すのは、OSやCPUなど基礎的なテクノロジーの進化自体が関心を集めていた時代から、ITの活用によりビジネスで何が実現できるか、社会にどんな変革をもたらすかに焦点が移ってきたということである。
国内でも先駆的な企業や組織では、インターネットの利用経験がほぼ30年にもなろうかという時期を迎えており、ここにきて、ようやくITやインターネットが現実社会に本当の意味で浸透してきたと言える状況だ。
かつて、ビジネスにITを活用するといっても、それはごく限られた部分でしかなかった。初期のオンラインショッピングは、それこそ“ネット系企業”が取り組むビジネスであり、大半の企業にとっては特に気にする必要もない世界だった。それがスマートフォンの普及以降、ネット通販は特殊なチャネルどころか、モノを得る企業なら当たり前に用意する存在になっている。こうした変化は企業活動のさまざまな領域に波及し、ことさらITを意識するわけではないが、当たり前のものとして活用する機運が生まれてきた。
“as a Service”の時代にデータセンターはどう応えるか
振り返れば、ITが特殊な“先端技術”だった時代は確かにあった。それに習熟し使いこなすことに価値や喜びを見いだす先進的(そしてマニアック)なユーザーが存在し、企業内でもそうしたユーザーが企業のIT部門で主体的に行動し、業務のIT化が推し進められていった。
だが、企業でIT活用が常識になっていくにつれ、各種のITを技術レベルで習熟し一から構築するのより、既存のアプリケーションやクラウドサービスを利用するケースが増えていくことになる。今後、社内にITに精通した人材をそろえることに力を注ぐ企業は減っていき、ビジネス成果を得るための仕組みを“as a Service(サービスとして)”獲得し利用する傾向はいっそう強まっていくだろう。また、クラウドサービスを企業コンピューティングの主役級に押し上げた要因のうち、仮想化技術を活用したIaaS(Infrastructure as a Service)の急速な進展の影響はかなり大きい。
“Security as a Service”“Analytics as a Service”“Digital as a Service”……今日、as a Serviceの前には実にさまざまなワードが入る。as a Service化の対象の広がりはとどまるところを知らず、もはや不可避の流れになっている。かつて社内に運転手や整備士といった専門家を擁して運用していた社用車がタクシーやハイヤーに取って代わったのと同じ流れだ。ITに関してもITの専門家であるIT部門スタッフが、どんなシステム/アプリケーションでも自前で構築するケースが減っている。
本誌は2000年の創刊以来、「ITシステムを社内だけで抱え込むのはやめて、商用データセンターを活用しよう」というメッセージを発信し続けてきた。創刊当初はサーバーやネットワークの技術に精通した専任のIT担当者が、「自分の目の届く範囲」にITシステムを設置して運用することが常識とされ、「自社の重要なデータやシステムを外部のデータセンターに置いて大丈夫なのか」という認識が一般的だった。
こうした状況が変化するにはずいぶん時間がかかったが(今日でもまだ見受けられるが)、上述のような社会全体のITに対する認識の変化と歩調を合わせるように、社内のIT部門の役割も変化していった。今日、企業のIT部門は、自社の経営やビジネスに直接的に貢献しうるIT活用の実現が求められるようになっており、外部のデータセンターやクラウド基盤サービスに対してもそうした視点でのサービス提供を望んでいる。
DC事業者は「設備提供業者からビジネスパートナーへ」
データセンターはその黎明期より、地震や停電といった災害時にもシステムの安定運用を確保できる、安心/安全なファシリティ(設備)であることが重要な要件とされてきた。そうした安心/安全は今では当たり前の要素とみなされ、その先の「ビジネスに対してどのような恩恵をもたらすのか」という視点での選定が行われるようになってきている。ユーザー企業にとって、データセンター事業者やクラウドサービス企業者は、設備提供業者からビジネスパートナーへと関わり方が変わったという言い方もできよう。
上述したように、現在のユーザー企業のIT部門およびそのスタッフはITを熟知しているとはかぎらない。本来的な意味でのユーザーであり、ITを活用してビジネスに生かすことをミッションとする組織・人材だ(表1)。
したがって、事業者の側でも、「ITに精通している担当者には通じる」ような説明では、自社が提供するサービスを理解してはもらえなくなりつつある。技術力をそのままアピールするスタイルよりも、「そのテクノロジーが何の役に立つのか」をビジネス上のメリットとして分かりやすく伝える能力が求められるようになってきている。サービスの企画・開発担当者なら、ユーザーのビジネス部門の責任者や担当者にすぐに有用だと思ってもらえるサービスの開発・提供を心がけることが必須になっていると言える。
as a Serviceとクラウドの普及がもたらしたのは、データセンターを、ファシリティ面ばかりではなく、ビジネスに貢献しうるサービスかどうかを最重視して選ぶという考え方だ。これに対応できないデータセンターは、大手クラウドサービス/IaaS事業者の傘下でフロアやラックの提供に徹するほかなくなる可能性が高い。データセンターやクラウド基盤を利用するユーザー企業、提供する事業者の双方にとって、サーバーやストレージ、ネットワークといった物理的なITインフラの基本性能や信頼性はもとより、その先のサービスにより着目すべき時代になっていることは間違いない。
- [Part 1] 「サービスの中身」で選ぶデータセンター/クラウド基盤
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