クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

データセンターに必要な要素をワンストップで提供する、三菱重工の次世代データセンターソリューション

データセンター事業者向け改正省エネ法・省エネルギー対策 特別セミナー 第2弾 省エネソリューションセッション

 クラウド&データセンター完全ガイドでは、「データセンター事業者向け改正省エネ法・省エネルギー対策 特別セミナー 第2弾」として、データセンター事業者に向けた改正省エネ法への対策や、省エネを実現するソリューションを紹介する特別セミナーを3月15日に開催した。省エネソリューションセッションでは、三菱重工業株式会社(以下、三菱重工)のデータセンターソリューションについて、同社の杉原大志郎氏が解説した。三菱重工とデータセンターは、イメージが結びつかないという人もいるかもしれない。しかし、発電プラントや冷熱装置など、データセンターに必要な個別の要素については技術を持っており、実績がある。
三菱重工業株式会社の杉原大志郎氏

三菱重工のカーボンニュートラル宣言

 三菱重工グループは、エネルギー、物流・インフラ、産業機械、航空宇宙、防衛にまたがる産業グループで、一般的なイメージはまさに「重い工業」だろう。一方で、エネルギー消費量がどんどん増大し、中でもIT電力は指数関数的に伸びているという社会情勢がある。三菱重工は社会インフラを最も得意としているので、社会貢献のため、この問題にも取り組んでいる。

 政府は、「2050年カーボンニュートラル宣言」を発信しているが、三菱重工では「MISSION NET ZERO 2040年カーボンニュートラル」を宣言している。これは、10年前倒しでカーボンニュートラルの技術を開発・実現し、確立した技術を残り10年でカーボンニュートラルに取り組もうとしている企業に提供していくためだという。

 その取り組みのひとつが、兵庫県高砂市にある高砂製作所内に構築した「高砂水素パーク」だ。

高砂水素パーク

 この施設では、水素を作り、水素でタービンを回し、電力を作って、供給するという一連の水素のエコシステムを、実証棟の中で実現している。発電用のガスタービンを100%水素で回すのに、あと数年のところまできているという。

三菱重工のデータセンター

 三菱重工では、データセンターに必要な要素をまるごと、顧客企業向けに最適化して提案する、ワンストップソリューションを目指している。これは、電気を供給するオンサイトの発電プラントから、データセンターで利用するエアコンやUPS、非常用発電機など、データセンターに必要となる機器や要素をすべて提供しようという考えだ。また、発電プラントはカーボンニュートラルに向けて、水素による発電を行うことを想定している。

 「海外では、GPUサーバーを収容したデータセンターでは、1棟で1ギガワット必要だという声が聞こえ始めている。このようなオンサイト発電が現実味を帯びると確信している」(杉原氏)

 データセンターで利用するエアコンなども、三菱重工が持っている冷熱製品をデータセンター向けに最適化して提供する。また、生成AIで使われるGPUの発熱はこれまでの空冷では冷やしきれないレベルになっているため、これに対応する液体冷却技術にも取り組んでいる。

 「後発なので、既存製品だけでは振り向いてもらえないと思う。半歩先を行く液冷却サーバーのソリューションも開発している。液体冷却への関心は、いま非常に高い」(杉原氏)

液冷・空冷ハイブリッドコンテナ型データセンター

 続いて、個別のデータセンターソリューションが紹介された。まずは、さまざまな環境に設置でき、高出力サーバーを収容できるコンテナ型データセンターだ。

 コンテナ型というと、物流コンテナにデータセンターに必要な機器を搭載したものをイメージするかもしれないが、三菱重工がすべてスクラッチで作っている、コンテナ「サイズの」データセンターだ。

液冷・空冷ハイブリッドコンテナ型データセンター

 主な特徴は、以下の3点となる。

・液浸サーバー用の液浸タブを備えている
・通常の空冷サーバーラックも用意している
・12フィートのコンテナサイズなので可搬性が高い

 ネットワーク機器などは通常の空冷で稼働させるため、液冷と空冷がひとつのコンテナ内で混在できる点が、大きな特長だ。また、コンテナサイズなので、工場や研究施設など、必要な場所に持って行って稼働させることができる。

 「液浸ラックと空冷ラックの両方を入れて、12フィートのコンテナサイズのデータセンターの中で、40kW冷やせる設備を持っている」(杉原氏)

 液浸タイプはPUEを劇的に下げることができる技術であり、コンテナ型データセンター内にフリークーリングのシステムも構築しているため、液冷環境のみであればPUE 1.05と、冷却のための電気はほとんど使わない。空冷を併用しても、PUE 1.14を実現できることが実証されているという。

ラック型液浸冷却システム

 次に紹介されたのが、ラック型液浸冷却システムだ。液浸冷却はバスタブ型のタンクに複数台のサーバーを浸けるのが一般的だが、この場合、建物の床荷重がネックとなることが多い。そこで、サーバーラック内に1台ごとの液浸用ボックスを設置するシステムを開発中だ。これなら、床荷重が許容する台数の液浸サーバーのみをラックに搭載することができる。

 さらに、同一ラック内に液浸機器と空冷機器の同居が可能なため、システム構築の柔軟性も上がる。1ラック当たり20~30KWまで対応できる見込みという。

 また、フリークリーリングシステムを使うことで、PUEは最大で1.05まで低減可能という検証実績もある。NTTデータと共同で検証したプレスリリース(https://www.mhi.com/jp/news/23061601.html)が、2023年6月に発表されている。

二相式ダイレクトチップ冷却

 また、液冷に関して最も顧客からの反応がいいのが、「二相式ダイレクトチップ冷却」だという。いわゆるDLC(ダイレクトリキッドクーリング)の技術だが、チップを直接冷やすコールドプレートに、水ではなく沸点の低い冷媒を使い、サーバーラック内の閉鎖系で循環させる。

二相式ダイレクトチップ冷却

 この方式は、以下の3つの要素で構成される。

①コールドプレート
 直にプロセッサーに取り付け、そのプロセッサーの熱によって冷媒が気化する。その相変化(気化熱)で冷却する。

②ヒートリジェクションユニット
 気化した冷媒は管を通ってラックの最下部にあるヒートリジェクションユニットのファンで冷やされ、液体に戻る。このユニットでは、コールドアイルの冷気で冷やす空冷タイプと、水を引き込んで冷やす水冷タイプを選択できる。水で冷やす方が効率はいいが、コールドアイルとファンで冷やす方法なら、マシン室に水を引き込めないデータセンターでも導入可能。

③マニホールド
 コールドプレートとヒートリジェクションユニットを繋ぐたて管。液体に戻った冷媒をコールドプレートに送る管と、熱で気化した冷媒をヒートリジェクションユニットに送る管を納める。

 3つのパーツはサーバーラックの中にマウントできるので、液浸冷却に比べてファシリティの改造が少なくてすむのが大きな特長。ZutaCore社の製品で、海外では既に導入実績がある。

 三菱重工は、データセンター構築についてはまだ経験が浅いが、構成機器が類似している発電プラントの経験が豊富だ。そこで現在、顧客の要望に応じて最適化したデータセンターの設計に向けて、経験を積んでいるところだという。