クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

デジタル化は企業の生き残りに不可欠 AI 、IoT、データビジネスが活路を拓く

データセンター・イノベーション・フォーラム2020 クロージング基調講演レポート

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2021年春号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2021年3月31日
定価:本体2000円+税

企業のデジタルトランスフォーメーションが叫ばれてきたが、Covid-19の感染拡大はそれにさらに拍車をかけている。クロージング基調講演では、3.5万部を超すヒットビジネス本『2025年、人は「買い物」をしなくなる』の著者で、小売り・メーカーに対するデジタルマーケティングの支援を行う株式会社いつも取締役副社長の望月智之氏が、企業が取り組むべきデジタル化について、海外の事例も含めて紹介した。 text:柏木恵子
写真1:株式会社いつも取締役副社長 望月智之氏

消費者の購買プロセスが変化 生き残りにデジタル化は必須

 望月氏は、最初に変化する買い物環境について触れた。スーパーマーケットや百貨店といった従来型の販売チャネルの流通金額が落ちているのに対して、コンビニやドラッグストアが伸びているという傾向は2000年頃から続いているが、最近のトピックは、Eコマース(以下、EC)の非常な伸びだ。経産省の推計では、2020年にはコンビニの市場規模を超えてスーパーマーケットに追いつくだろうとされていたが、コロナ禍の影響で既にこの推計を大幅に上回っている。

 また、ECの市場規模が拡大しているだけでなく、実店舗での買い物がECやデジタルの影響を大きく受けているのも重大なポイントだ。「日本の小売り流通額は約140兆円と言われている。その中でECは約10兆円なので、実は大した額ではない。ただし、ECやデジタルの影響を受けて買い物をしているデジタルインフルエンス売上げが、小売り流通全体の約50%程度あると推計されている」と望月氏は言う。これに関係したキーワードが、「ショールーミング」と「ウェブルーミング」である。

・ショールーミング:ECで買うが、店舗で商品を事前に確認してから買う
・ウェブルーミング:ECでどのような商品があるか見つけて、店舗で手に取ったり試着して買う

 オフラインとオンラインの境目がなくなっているこのような買い物環境は、小売りビジネスに大きなインパクトを与えている。コロナ禍で店舗の閉鎖が増えているが、実は欧米ではそれよりも前に、小売店の大量閉鎖が始まっていた。「デジタル化に乗り遅れると、企業存亡の危機になるという現象が起きてている」と、望月氏は言う。

 店舗での買い物プロセスにも変化が生じている。通常、店舗での買い物は図1のようなプロセスに分解できる。しかし、消費者の中にデジタルが浸透すると、いくつかのプロセスがカットされる。

 例えば、店員に商品の使い方や他の商品との違いを尋ねる人はこの1、2年で激減し、商品について熟知したうえで来店する人が増えているという。さらに、以前なら5分や10分は何もできない細切れの時間だったが、スマホを持っていればニュースを読むこともゲームをすることもできるし、買い物もできる。このため、「消費者の時間感覚が変化して、並ぶことや待つことが不満につながるようになっている」(望月氏)という。

図1:買い物行動プロセスが変化(出典:株式会社いつも)

店は買い物する場所ではなくなった 店舗価値の変化と再構築

 続いて望月氏は、実店舗で起きている変化について、消費者に対して行ったアンケート調査の結果を紹介した。調査では、3~4割の人が「店舗に行く回数が減った」と答えている。ただし、流通額自体は大きく減っていないので、店舗以外での買い物が増えているということになる。さらに、店舗の利用頻度が減った人にその理由を聞いた結果が図2だ。

図2:実店舗の利用頻度が減った理由(出典:株式会社いつも)

 商品知識のある店員にいろいろ教えてもらえるなど、これまで店舗の長所とされていた部分が、むしろデメリットになってしまっていることが見てとれる。

 そのような状況の中、「消費者が店舗に求めるのは、買う場所だけではない。店舗の倉庫化と体験型店舗という流れが進んでいる」と望月氏は言う。セッションでは、特に体験型店舗について紹介した。

 体験型店舗の火付け役が、Appleだ。各地のApple Storeは、購入もできるが、新製品を体験するショールームという位置づけになっている。日本企業では、資生堂がデジタルシミュレーターを配備して接客をデジタルで補う旗艦店を、銀座にオープンしている。また、ナイキは以前からアプリとの連動に力を入れており、スマートウォッチでセンシングした日頃の運動を元に、商品やカスタムオーダーをレコメンドするという機能を提供している。

 もうひとつ、特徴的なサービスとしてb8ta(ベータ)がある。米サンフランシスコで創業したRaaS(Retail as a Service)だが、2020年8月に有楽町と新宿に店舗をオープンした。RaaSは、企業に対して販売ブース、在庫管理や物流、POSなどのリテール機能を提供するビジネスモデルで、来店者の行動分析から得られるマーケティングデータを提供する点が新しい。メーカーは、b8taに出展することによって手にする顧客データをマーケティングや新たな製品開発に活かすことができる(図3)。

図3:実店舗がデータを売る?(出典:株式会社いつも)

データの価値が高まりイノベーションが進む

 データが小売業にとって高い価値を持つようになっているという事例は、他にもある。米国での例だが、「小売り大手のWalmart やTargetは、自社のECプラットフォームをメーカーに広告場所として貸し始めた」(望月氏)という。この2社は、EC専業の事業者の10倍以上の顧客数を保有しており、流通額でも大きく上回っている。

 さらに、このような大手流通企業ではスマホアプリへの取り組みも進んでいる。チェックイン機能や位置情報などを使って、より詳細なレコメンドも可能になる。そう考えると、ECでは必ずしもAmazonなどのような専業大手が強いわけではないと言えそうだ。

 データという観点では、メーカーでも重要な取り組みがある。嚆矢となったのはiPhoneだ。現在、スマートフォンを携帯電話だと思っている人はほとんどいないと思うが、携帯電話とソフトウェアを組み合わせたことにより大きな市場が生まれている。同様に、自動車やスピーカー、掃除機なども、元の機能だけでなくセンサー機能を備えたソフトウェアが組み合わされている。

 例えば「ルンバは、実は掃除機ではない。住空間のサイズや汚れ方、温湿度などの住環境のデータを集めるプラットフォームだと、彼らは位置づけている」と望月氏は言う。洋服でも同じようなことが起きていて、「リーバイスは、個人が毎日どのような服を着ているかというデータを集めるアプリにトライしている。データを元に、ゆくゆくは洋服業界全体のプラットフォーマーになる可能性がある」(望月氏)という。

 最後に望月氏は、「メーカーは、製品を作るという競争から、データのプラットフォーマーになることに軸足を移している。その前提となるのがビックデータとAIで、米国や中国ではまさにその動きが進んでいる。今からでも遅くないので、データビジネス企業に転換することが、企業を伸ばすことに繋がる」とまとめた。