クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

ワークスタイル変化とセキュリティ データセンターの新たな使命

データセンター・イノベーション・フォーラム2020 特別講演レポート

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2021年春号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2021年3月31日
定価:本体2000円+税

企業のデータセンター活用はハイブリッド化が進行しており、データセンター事業者はメガクラウド事業者との差別化が必要になっている。特別講演では、フォーティネットジャパン副社長 兼 マーケティング本部長の西澤伸樹氏が、ネットワークセキュリティの観点から変化の要因を分析し、最近の脅威の動向や新しい顧客要件に対応するためのソリューションを解説した。 text:柏木恵子
写真1:フォーティネットジャパン副社長兼 マーケティング本部長の西澤伸樹氏

「クラウドファースト」の次へ IoT時代の中心はエッジコンピューティング

 米国カリフォルニアに本社を置くフォーティネットは、2000年に設立された。ネットワークにはスピードが求められるが、セキュリティ機能を追加するとオーバーヘッドにより遅くなる。このトレードオフを解決するために、ひとつのアプライアンスで高速かつセキュアなネットワークを構築するというのが、同社のビジョンだ。このため、ネットワーク処理に特化した専用のプロセッサを開発し、ハードウェアを製造、関連するソフトウェアとサービスも自社開発している。

 また、フォーティネットの特長のひとつが、多様な機能を提供するポートフォリオの広さだ。ガートナーのマジック・クアドラント(個々のマーケットで競合しているプレーヤー各社を相対的に位置付けて提示するリサーチ)では、「ネットワークファイアウォール」と「WANエッジインフラストラクチャ」の両方で、リーダーの位置にある。両方の評価の対象が同じ製品・ソリューションであることが他社との決定的な違いだ。国内でも、「2020年は非常に出荷台数が伸びた」と西澤氏は言う。コロナ禍により、リモートワークや遠隔授業が増えたことが背景にある。

 ネットワークセキュリティの動向を見るには、その前提となるコンピューティングアーキテクチャの変遷を理解しておく必要がある。データセンター関係者には言わずもがなだが、コンピューティングアーキテクチャは集中と分散を繰り返している。

1980年代:メインフレーム
 コンピューティングは集中処理し、インテリジェンスのないダム端末が接続される。
2000年代半ば:クライアント-サーバ
 ダウンサイジングにより、分散したサーバで処理し、インテリジェンスのあるクライアントPCが接続される。
2010年代初頭:クラウド
 巨大なデータセンターで集中処理するという意味では、メインフレームの考え方と同じ。大きく違うのはサブスクリプションという課金方法で、モバイルのスマート端末が接続される。

 西澤氏によれば、「データセンターは不動産でもあり、IT業界のみならず不動産業界も注目している業態。GAFAのようなメガクラウドの事業者が地盤が固く非常に整備されたデータセンターを買収し、ハイパースケール化している」。ただし、「日本では、今でもクラウドファーストやクラウドバイデフォルトと言う方がたくさんいるが、米国では既に変わっている」(西澤氏)という。

 そもそも「クラウドファースト」は、オバマ政権だった2010年に、米連邦政府で使っているデータセンターが数千もあり、効率が悪いので外部のパブリッククラウドも使って効率化すべしというイニシアチブだ。しかしトランプ政権の2019年に「From Cloud First to Cloud Smart」に戦略変更されている(https://cloud.cio.gov/strategy/)。

 「クラウドファースト」と言うことで、何でもかんでもとにかくクラウドに、「所有から利用へ」に関心が移った結果、データセキュリティの責任分担やクラウドを使う御作法についての議論ばかりが進んでしまった。しかし、行政機関には本来のミッションがある。それを実現するのが大事だと我に返ったのが2019年。この新しいストラテジーでは、業務上のゴールを達成するために「クラウドまたはクラウド以外(cloud otherwise)」を使うと書かれており、クラウドでなければだめだという話ではなくなっている。

 そもそも、コンピューティングアーキテクチャ自体は、クラウド中心からシフトしており、それがエッジコンピューティングだ。ここで接続される端末としては、ガートナーはVRゴーグルのようなものを想定した「イマーシブ(没入型)」を挙げているが、西澤氏によれば本命はIoTだという。

 「IoTをうまく使っていくためには、エッジコンピューティングがないとできない。例えばコネクテッドカーで自動運転するためには、エッジコンピューティングがないと動かない。実際に、トヨタやNTTなどが中心となってAutomotive Edge Computing Consortium(AECC)が設立されている」(西澤氏)

 もちろん、エッジクラウドもたくさん必要になるし、クラウドがなくなるわけでは全くない。ただ、事業戦略を立てるには、こういったコンピューティングアーキテクチャの推移を見ておく必要がある。

 西澤氏によれば、エッジコンピューティングに向いているアプリケーションは、AIとセキュリティだ。特に、IoTデバイス自体にセキュリティ機能を搭載するとデバイスの単価が上がってしまうため、「外側にいる何かに守ってもらうという形態で提供されることが多い。すると、そこもエッジコンピューティングが必要になる」と西澤氏は言う。

エッジセキュリティに必要なSD-WANと新しいアーキテクチャ

 エッジコンピューティングにおけるセキュリティについて、重要なキーワードが以下の2つだ(図1)。

図1:ネットワークとセキュリティの統合とエッジの重要性

①SD-WAN

 専用線が極端に高コストな国もあるため、グローバルで見ればSD-WANは回線コスト最適化のためのソリューションと考えられている。しかし、日本では、SaaS等の利用が増えたため、拠点からインターネットへ出るアクセスが増えてWANの帯域やネットワーク機器を圧迫していることに対する解決策として利用されるケースが多い。

 従来のネットワークトポロジーでは、各拠点からインターネットの先にあるサービスに接続するには、集約したWANの出口がある自社データセンターへ専用線でつなぎ、そこを経由してインターネットに出て行く必要があった。日常的に使うアプリケーションがSaaSになると、この集約した構造がボトルネックになってしまう。このため、バックアップで使っているブロードバンドやLTEなどの回線にセキュリティを付与して、データセンターを経由せずに直接SaaSに繋いだらいいだろうという発想だ。

 SD-WANでは、アプリケーションによってどの回線を使うかといった制御をソフトウェアで行う。各拠点のWANエッジに置くのが、フォーティネットなどが提供するWANエッジインフラストラクチャだ。リモートユーザーが増えても、SD-WANの機能が入っていれば、適切な回線を選択してストレス無く仕事ができる。

②SASE(Secure Access Service Edge)

 ガートナーは、SASEという考え方を提言している。ネットワークもセキュリティもサービス化して、クラウドで提供するというビジョンだ。ただし、列挙された機能のすべてを実現したものはまだ出てきていない。

 西澤氏によれば、「こうした新しいアーキテクチャを選択する目的は、可視性、ポリシー、自動化の3つ」だ。まず、見えないものは守れない。そして、リモートで働く人が増えても、一貫した社内と同様のポリシーでネットワークを利用させる必要がある。これは、ネットワークセキュリティの運用者にとってはカバー範囲が広がることを意味する。仕事が増えてもセキュリティ担当者がどんどん追加される環境ではないので、自動化が重要になるというわけだ。

 コンポーネントとしては、以下のようなものが考えられる。

繋げたい人/物:拠点アクセス、販売店、工場、IoT
繋ぐ先:データセンター、クラウド、SaaS、サードパーティデータ、インターネット
ネットワーク:セキュアSD-WAN

 具体的には、オフィス内の人だけでなく、リモートオフィスや工場のオートメーション機器、ドローン、販売店のPOSなどが接続元となり、自社データセンターやパブリッククラウドが接続先となる。この時、ユーザーでは認証が、デバイスではきちんとオーソライズされているか(野良APやド不正IoTではないか)の確認が重要だ。そして、LANエッジ、WANエッジ、クラウドエッジなどをセキュアに保つ必要がある(図2)。

図2:数多くの「エッジ」をセキュアに保護する必要がある

 クラウド・データセンターの話では、コンピューティングリソースをどこに置くか、どのように使うかという話ばかりで、それらがどのように接続されるかというネットワークの話が抜けてしまうことが多い。しかし、「いくらクラウド化やサービス化されても、物理的なネットワークがなくなるわけではないので、ここはきちんと考えてほしい」と西澤氏は言う。

 ちなみに、フォーティネット製品では、WANエッジを保護するSD-WANの機能と、LANエッジのスイッチや無線LANアクセスポイントの管理機能が統合されている。「さらにデバイスエッジの保護機能がFortiOSで拡張されるので、WANエッジのSD-WANのノードであるFortiGateの画面から、拠点の中にあるものはすべて補足し、アクセス制御できるようになる」(西澤氏)という。

データセンター市場の動向とFortiGateのユースケース

 データセンター市場の動向を俯瞰しておくと、トレンドとしては以下のようなことが挙げられる。

ハイブリッド

 企業では事業者のデータセンターへのホスティングという従来型から、パブリッククラウドと組み合わせたハイブリッドへ移行が進んでいる。マルチクラウドと言われたこともあるが、「たくさんのクラウドをやたら使うお客さんはほとんどいない。戦略的に1社か2社のパブリッククラウドと自社データセンターを組み合わせることが多い」(西澤氏)のが実情だという。

 一方で、コンプライアンス対応やセグメント化の困難さが課題になっている。アプリケーションへのアクセス制御のために、攻撃対象領域の特定、IT資産の見える化、セグメント化する困難さが増大しているためだ。

統合

 ファイアウォール単体では、データセンターのビジネスとしてあまり成り立たなくなっており、IPSと統合された形で提供される方向だ。ファイアウォールとIPSは保守チームが別でコミュニケーションに課題がある場合もあるが、ひとつの筐体で両方の機能が提供されるのであれば、その方がコストや運用から見て良いという流れになっている。

ハイパースケール

 あらゆる業界でデジタルトランスフォーメーションが進んでいるが、特にECの規模は拡大している。ECでは日々大量のビッグデータが蓄積され、それをAIで分析してビジネスに繋げているため、ハイパースケールは非常に重要なテーマになる。

自動化

 ハイブリッドやハイパースケールを、すべてマニュアルで運用するのは大変なので、オートメーション化やオーケストレーションがテーマになる。

 これらに対応するため、フォーティネットではファブリックとして製品が連携するさまざまなソリューションを提供している(図3)。また、データセンター内にあるのはフォーティネット製品だけではないので、KubernetesやAnsibleなど、標準的な運用管理ツールと連携させることもできる。それを示しているのが、右端の緑色のコンセントのアイコンだ。

図3:フォーティネットサイバーセキュリティプラットフォーム

 FortiGateネットワーク・ファイアウォールは、ファイアウォールとIPSを統合したアプライアンスで、以上の4つのトレンドをカバーする。データセンターでの主なユースケースは、以下の4つだ。

①脅威保護

 アプリケーション、ドメイン、フローを完全に可視化し、死角を排除できる。

 ハイブリッド環境では、インターネットに口が開いている状態になる。現在の通信は暗号化されているが、保護するためには中身を知る必要がある。このため、SSLインスペクションが重要なテーマになっている。ロードバランサーは元々中身を見てバランシングしているため、そちらでセキュリティ機能を追加するというアプローチもあるが、手順が面倒で高価になりがち。FortiGateであれば最適の機能とコストで実現できる。

②柔軟なセグメンテーション

 攻撃対象領域の縮小とラテラル・ムーブメント防止が可能。

 セグメンテーションは、「来るなという壁を立てるだけで、負荷のかかる作業は何もしないので、非常に安価なセキュリティ」(西澤氏)。FortiGateとLANスイッチが協調して動くと非常に運用効率がよく、コストも下げられる。

③統合型IPS

 ファイアウォールとIPSの統合で、既知とゼロデイの脅威から保護。

 かつては誤検知を過度に気にする人もいたが、「現在では攻撃が多すぎるためIPSを活用しなければ間に合わない」(西澤氏)。

 また、古いネットワーク機器のリプレイスで導入されるケースも多いという。古い機器では、SSL性能が低かったり、IPSの処理が遅いためだ。また、ロードバランサーやWebプロキシーの置き換えでコストダウンというケースもあるという。

④ハイパースケールセキュリティ

 大規模で高性能を求める環境で、サービスとエンタープライズエッジを保護する。

 最新のセキュリティチップが搭載されたFortiGateは、100Gbpsの大規模通信やL4セキュリティ、高速IPsec暗号化といった機能を提供する。証券取引所やEコマースなどのビッグデータをバックアップするなど、セッション数は少ないが流れるデータが巨大というケース(エレファント・フロー)でも、高速暗号化通信が可能になる。

サイバー攻撃のニューノーマル対策 ランサムウェアには次世代EDRがお勧め

 フォーティネットの顧客企業が最も気にしているセキュリティ要件は、ランサムウェアだという。いわば、これがサイバー攻撃におけるニューノーマルだ。例えば、グローバルの物流企業大手は、上位4位までの企業が順にランサムウェアの被害に遭った。「物流は船や飛行機で移動し、移動先の通信システムにその都度繋いで仕事をする。外部との連携が多いのでランサムウェアを入れられやすい」(西澤氏)ためだ。

 ランサムウェア対策としては、ゲートウェイ、メールセキュリティサーバ、ふるまい検知のサンドボックス、エンドポイントのクライアントセキュリティなどさまざまなソリューションがあるが、西澤氏が一番ホットだと言うのは、EDR(Endpoint Detection and Response)である。

 EDRは、エンドポイントの端末の動作をリアルタイムで監視し、ログデータの収集と解析、攻撃の検知、攻撃の中断などを行う。ただ、古いタイプのEDRでは動作が遅かったり、検知はするが攻撃のブロックなどのアクションまではリアルタイムでできないものもある。そこで西澤氏は、「次世代のEDRがお勧め」だと言う(図4)

 フォーティネットにはランサムウェア対策のポートフォリオはたくさんあるが、これらはきちんとNISTのセキュリティフレームワークにマッピングできる(図5)。すべてのデータセンター側で必要なものとは限らないが、拠点側のシステムも含めて網羅しているので、企業システム全体をインテグレーションする際には検討する価値があるだろう。

図4:次世代エンドポイントセキュリティ
図5:NISTのフレームワークへのマッピング