2020年4月1日 06:00
弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2020年春号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2020年3月30日
定価:本体2000円+税
爆発的に増大するデータは、この数年で社会を一変させた。同時に、近代になって以降、人口は爆発的に増加しており、持続可能な社会や持続可能な発展は、全人類が共同で取り組むべき課題だ。インプレス主催で2019年12月4日に開催した「データセンター・イノベーション・フォーラム2019」のオープニング基調講演では、データ駆動型社会のインフラであるデータセンターが、そのために果たすべき役割について、東京大学未来ビジョン研究センターの佐々木一准教授(写真1)が問題提起した。 text:柏木恵子 photo:柳川 勤
化石燃料に依存するビジネスからの大規模投資撤退が起きている
佐々木氏は、「SDGsという言葉が、この1年で急激に広まっている」と言う。ただし、「SDGsはCSRやISOの延長、うちの会社には関係ない」と考える企業もまだ少なくない。そこでまず、SDGsとは何かについて、ここであらためて説明しておこう。
外務省のサイト(https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/about/index.html)には、SDGsとは“2015年9月の国連サミットで全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標”のことと記されている。誰一人取り残さない、持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現のため、2030年を年限とする17の国際目標(図1)が定められ、その下に169のターゲット、232の指標が決められている。特徴は、以下の5つだ。
普遍: 先進国を含めた全ての国が行動する
包摂: 誰一人取り残さない
参画: 全てのステークホルダーが役割を担う
統合: 社会・経済・環境に統合的に取り組む
透明: 定期的にフォローアップする
「持続可能な開発(Sustainable Development)」というキーワードは、確かにCSR(企業の社会的責任)やISO14001(環境マネジメントシステム/EMS)と近いイメージはある。しかし、「SDGsはそもそもビジネスの話で、科学技術の話」だというのが、セッションの趣旨だ。
ビジネスの話にほかならないことを認識するのにいい事例が、米国にある。実は、SDGsがビジネスの話だと認識されるきっかけとなる出来事が、いくつか2017年に集中している。ひとつは、2017年1月に開催された世界経済フォーラム、通称ダボス会議だ。また国内でも、2017年11月に経団連が7年ぶりに企業行動憲章を改定した(図2)。翌2018年の年始の挨拶では、「我が社もSDGsをやるぞ!」と言い始めた社長が続出したという。
米国では、トランプ大統領が2017年1月にダコタ・アクセス・パイプラインの建設再開を決定した。これはノースダコタとイリノイ州を結ぶ、総工費38億ドル、1886kmにわたる地下石油パイプラインのプロジェクトだが、環境アセスメントの結果多くの問題があるとして、オバマ政権が中止したものだ。トランプ氏は、政権を取るとすぐというタイミングで、このプロジェクトの再開を決めたことになる。
しかし翌2月、プロジェクトに投資している銀行17行に対して、100以上の主要機関投資家が「環境破壊の懸念があるプロジェクトには適切に対応すべき」という共同声明を出した。この結果、ヨーロッパの銀行が融資の引き上げを決定し、その額は6億7000万ドルに及ぶ。もちろん、さらに融資撤退が続く可能性もある。
これは、「持続可能な開発目標(SDGs)に反するようなプロジェクトに対して、投資家は融資しない世界になっている」ということを意味する。投資家は、「儲からないプロジェクトには投資しない」。世界中にある化石燃料は、全部使えるなら有望なビジネスだろう。しかし、パリ協定によって排出できるCO2の量が制限された世界では、「持っていても使えない」化石燃料がかなりの部分を占める。この使えない化石燃料は減損対象であり、化石燃料に頼るビジネスは投資対象たり得ないというわけだ(図3)。「このような投資撤退は、この数年あらゆるところで起きている」と佐々木氏は言う。
バリューチェーン全体に視野を広げ影響の大きさを自己評価すべし
さらに、SDGsは「全てのステークホルダーが役割を」持つ参画型であると位置付けられている。このため、企業単体ではなく、サプライチェーン全体で取り組むものというのもポイントだ。これは、「SDGsに反するような企業は、サプライヤーとしての地位が危うくなる」ことを意味する。
例えば、アップルはデータセンターの電力の100%を再生可能エネルギーで賄っているが、「サプライヤーの手本となるべく努力を重ねてきた」と述べている。そしてアップルに部品を納入している岐阜県大垣市のイビデンでは、「アップル向けの生産を100%再生可能エネルギーで行うことを約束する日本初の企業になる」と発表し、国内最大級の水上太陽光発電システムを建設している。
このような流れがある中で企業がまず取り組むべきことは、自社の製品やサービスが及ぼす影響について、自社自身だけでなくサプライチェーンの上流・下流も含めて自己評価することだ。これをバリューチェーンマッピングと呼ぶ。ただし、この時に「ブームに乗っかって、既存の事業にSDGsの17のアイコンを貼り付けるだけでなんとなくやった気になる」SDGsウォッシングに注意が必要だと佐々木氏は言う。同様のことが、かつてのエコブームでもあったからだ。
データセンターについて考えると、金融や通信など特定領域のみに関連する事業だった時代とは違い、現在はあらゆる業種・業態のビジネスインフラとなっている。どのような企業でも、「取引先の取引先」をたどっていけば、必ずデータセンターにたどり着く。つまり、データセンターが「持続可能な発展」を体現しているかどうかが、各企業のバリューチェーンマッピングに必ず影響することになる。
データセンターは計算能力を集中させた施設であり、基本的に大量の電気を消費する。つまり、SDGsの17のターゲットのうち⑦エネルギーや、⑬気候変動について、負のインパクトを与える可能性から逃れられない。それをできるだけ抑える努力をしている「環境配慮型データセンター」が国内でもいくつか登場しているが、SDGsの観点ではこれがひとつの解だと、佐々木氏は言う。
最後に佐々木氏は、国連SDGsアジェンダの原文を紹介した。原題は「Transforming our world: the 2030 Agenda for Sustainable Development」となっている。佐々木氏は「チェンジという生易しい話ではなく、トランスメーション。幼虫がさなぎになり、さなぎが蝶になるとう、完全に変態を起こすくらいのドラスティックな動きを、人類はしなければいけない」と強調して、セッションを締めくくった。