クラウド&データセンター完全ガイド:DCC2P

地方データセンターの明日はどっちだ?! 全国6エリアの担当者による座談会の模様をレポート

 インフラとしてのインターネットを縁の下から支える存在、それがデータセンターだ。コロナ禍を受けて、テレワークやオンライン授業、そしてデジタルトランスフォーメーション(DX)が大きな潮流となる中、データセンターに求められる役割もまた変わっていくものと予想される。

 そこで今回、主に地方でデータセンター事業を展開する企業にオンラインでお集まりいただき、現状について語り合ってもらった。モデレーターは、データセンター事業者コミュニティ「DCC2P(DC Co-Creation Place)」(インプレス主催)アドバイザーの田沢一郎氏。

【参加者の皆さん】

  • 湊雄一氏:北海道総合通信網株式会社(HOTnet) 技術営業部長
  • 中川憲保氏:株式会社パワー・アンド・IT 取締役 技術部長
  • 山口龍太郎氏:株式会社ミライコミュニケーションネットワーク 営業部 マネージャー
  • 藤井雄志氏:株式会社エネルギア・コミュニケーションズ(エネコム) ソリューション技術本部 システム設備部 ISP・データセンターチーム 主任
  • 木藤修氏:株式会社 QTnet 法人営業部 法人営業1グループ 第3法人営業チーム チームマネージャー
  • 安村廣樹氏:ファーストライディングテクノロジー株式会社(FRT) 東京営業所長
  • 石原隆行氏:JADOG(Japan Datacenter Operators' Group)、日本電気株式会社(NEC) サービスプラットフォーム事業部 クラウド共通基盤G エキスパート
  • 田沢一郎氏(モデレーター):DCC2P(DC Co-Creation Place) アドバイザー

(以下敬称略)

北海道・富山・岐阜・広島・福岡・沖縄のデータセンター事業者が集結

──では、まずは自己紹介を兼ねて、各社の現状と課題についてご説明をいただきたいと思います。特に2020年、2021年のトピックについて、順番に伺っていきましょう。

北海道総合通信網株式会社(HOTnet)の湊雄一氏

湊:HOTnetの湊です。コロナ禍を受けては、その光と影が明確にありました。まず影の部分。データセンターのハウジングサービスについては苦戦しています。お客様がもともと予定していた計画が中断したり、検討そのものがストップしてしまいました。

 一方の光の部分ですが、クラウドが比較的順調でした。クラウド環境上に弊社がDaaS(Desktop as a Service)を構築して運用までを請け負っているのですが、お客様の在宅勤務やリモートワークのニーズが高まって、もともと予定していた導入計画が前倒しになる傾向が、自治体、金融関係を中心に特に顕著でした。

株式会社パワー・アンド・ITの中川憲保氏

中川:パワー・アンド・ITの中川です。弊社は北陸・富山を拠点に活動している会社で、(クラウド関連の開発受託などを行わない)箱売り専業でやっています。今年秋には、ハウジングサービス用に200平方メートル弱、約80ラックの新規提供を開始する予定です。

 というのも、テナント様の需要の傾向として、1~2ラック程度ではなく、10ラック一気に契約されるお客様が稀にいらっしゃるんです。利用実態はなかなか掴めていないのですが、災害が比較的少ない富山のロケーションが求められている側面はあるようです。

株式会社ミライコミュニケーションネットワークの山口龍太郎氏

山口:ミライコミュニケーションネットワークの山口です。本社は岐阜県大垣市にあります。私どものデータセンター関連のトピックと言いますと、既存のお客様がラックを追加する“おかわり”的な利用が増えています。ただ、実は弊社の(サーバー設置用)フロアの残りがかなり少なくなっていて、新規顧客向けの販売は積極的に行っていないから、という実態はあるのですが。

 一方で、弊社側が機器を用意するレンタルサーバーやホスティングは、従来どおり堅調に推移しています。Nutanix関連の売上も順調です。ハウジングが買い叩かれるという状況にはなっていなくて、弊社が管理するサーバーを置いて、ラック単価を上げるという方向が今後も続いていきそうです。地方は技術者も少ないので、お客様の中には「手っ取り早く、やれる人に頼んでしまおう」という認識があるようです(笑)。

 あと「AWSって安いかも知れないけど、なにかあった時にAWSの人は謝りに来てくれないよね」という声も多いです。ならば地元のデータセンターにしっかり頼もうと。我々としての強みも、まさにそこ(地域密着)でやっています。

 あと岐阜には、「岐阜情報スーパーハイウェイ」という県管轄ネットワークがあるのですが、このネットワークを活用して弊社DCをハブとして直接クラウドへ閉域接続できるサービスの準備を進めています。

株式会社エネルギア・コミュニケーションズ(エネコム)の藤井雄志氏

藤井:エネルギア・コミュニケーションズ(エネコム)の藤井です。中国電力のグループ企業で、本社は広島にあります。コロナ禍の振り返りとしては、施設見学でお客様を招く機会が減ってしまったのが特に大きな影響でした。結果、ハウジングの売上で苦戦しています。

 弊社のお客様層は、地元のお客様、別都市圏からのバックアップという2つが中心です。今年度は、オンラインでフェアを実施するですとか、お客様とのコミュニケーションの場を作っていきたいと考えています。またラック貸しは当然やっていきますが、それこそ“部屋貸し”といいますか、100ラック単位でご利用になるお客様の獲得にも力をいれていきたいですね。

株式会社QTnetの木藤修氏

木藤:福岡市を拠点とするQTnetの木藤です。直近のトピックとしては、弊社データセンターでIXが運用開始となりました。2020年12月にBBIX、2021年1月にJPNAPが運用開始していて、日本国内の商用IX(あとはJPIX)が福岡に集結する日はもう近いです。

 また弊社はキューデンインフォコム(Qic)と合併したことで、箱物(データセンター)と回線の両方を取り扱えるように、つまりラックと回線のセット売りができるようになりました。今まではそれぞれ“点”でしかなかった武器(商材)がDCや回線、IXが合わさることにより、“点”を“線”に変えていこうと、頑張っているところです。

ファーストライディングテクノロジー株式会社(FRT)の安村廣樹氏

安村氏:ファーストライディングテクノロジー(FRT)の安村です。弊社は沖縄を拠点としていますが、お客様の多くは首都圏にいらっしゃいます。そうしたお客様のニーズに応えるため、AWSを始めとする大手クラウドサービスの東京リージョンの配下に当社のアクセスポイントを設け、遠隔パックアップやデジタルトランスフォーメーション(DX)、クラウドシフトにおけるITインフラの相互接続を実現するための閉域接続サービスを開設しました。

 このサービスは、市場競争優位性を有した価格と品質を保持している他、東京~沖縄以外の地域や海外拠点にも延伸できる可用性を持たせているため、問い合わせ数は堅調に伸びており、新たな商機につながっていると体感しています。ただハウジング単体の販売については、我々も苦労しているところです。

JADOG、日本電気株式会社(NEC)の石原隆行氏

石原:NECの石原です。本日はJADOG(Japan Datacenter Operators' Group)のメンバーとして参加させていただきます。皆さんのお話を総合しますと、やはり「箱だけでは売れない時代」の到来を実感します。現状では閉域網接続へのニーズが高いようですが、そのメガクラウドとどう付き合っていくかはデータセンターの課題だと言えそうです。

「地方データセンターの配置最適化」は本当に可能なのか?

DCC2P(DC Co-Creation Place)アドバイザーの田沢一郎氏

──経済産業省が4月27日に開催した「第2回 半導体・デジタル産業戦略検討会議」の中で、「デジタルインフラを巡る現状と課題」という資料が示されました。データセンターについても論じられており、国内データセンターの8割が関東・関西に集中している点であったり、データセンターそのものが老朽化していることと結びつけ、「国内データセンターの配置最適化を模索すべき」との提言がなされているんです。

データセンターの最適配置に向けた提言(経済産業省「第2回 半導体・デジタル産業戦略検討会議」配布資料より)

石原:構想としては興味深いですが、実現性については正直、疑念があります。各地のデータセンターが苦しんでいるだけでなく、果たしてメガクラウドが地方にまで接続拠点を伸ばしてくれるのか、そもそもネットワークをどうするのか、課題はとても多い。

湊:こうした議論が出てきた背景には、国内で現に(夏季・冬期などに)電力需給が逼迫している中で、関東・関西によりデータセンターが集中していくのであれば、両地域の電力供給がさらに厳しくなる。だから地方へ分散させたいのかな、と想像します。

 かといって北海道の電力供給も余力があるわけではないので、そもそもの電力需給議論から考えていかないといけないとも思います。

──電力供給は確かに大きな問題ですね。一方で「RE100」のように、企業活動に使う電気を100%自然エネルギー由来にするという動きもあるので、将来的にはデータセンターもその意向を汲んでいく必要があるかもしれません。

中川:北陸電力の電力料金は、国内10電力会社の中でも比較的安い部類なんですよ。その意味で、北陸電力管内でデータセンターを稼働させるのは、国内全体のバランスを考える上では効果的かもしれません。

 ただデータセンターを運用するには回線が当然必要です。しかし、我々としても相当調べたのですが、北陸エリアには“使えそうな高速回線”がないんです。通信会社に相談しても「大阪から引っぱってくるしかない」という答えでした。そうした状況で、立地の全体最適が図れるのかどうか。

──北陸新幹線が開通した際に、回線を通したという話を聞いたこともあるのですが……?

中川:聞いたところでは、確かに新幹線開通に合わせて回線は引かれたそうです。しかし基地局・交換局がない。基地局設置はかなりお金がかかりますから。

木藤:九州のデータセンターの実感としては、「地方分散」の議論はこれまでもずっと言われ続けてきました。しかし、もしこれを実践するとして、九州が弱いのは、海外と海底ケーブルの陸揚げが関東・関西に比べて少ない点です。QTnetも韓国と接続するケーブルはあるものの、その先に続いていません。中国につなげるにしても別ルートです。

──三重県の伊勢から陸揚げしたケーブルがけいはんな(京阪奈)で使われているとか、千葉の印西にデータセンターが多いのはやはり近くに海底ケーブルの陸揚げ所があるからとも言われます。国外とつなぐポイントの配置は、データセンターの配置最適化論にも影響しそうですね。

安村:私は資料を最初に見たとき、既存データセンターの再配置というよりも新設の立地策に重きが置かれているのかな、という印象でした。あとは経産省以外の省庁、例えばデジタル庁や総務省等が横串となった連携がとれているのかも、不明瞭なため、既存データセンターの活用策も含め、今後の動向が気になります。

山口:データセンターのサイズ感を政府がどう認識しているかもちょっと分からないですよね。ハイパースケーラーとも戦える規模とか、電力会社のグループ会社のような大きなデータセンター事業者がある一方で、弊社のように小規模なところもある。政府がこれらを同じデータセンターとして扱ってくれているのか疑問です。

 「将来的に地方分散」とは言っても、すでにもう小規模なデータセンターは各地にあるわけです。これらを利活用せず、単に新設すると国が言うのは果たしてどうなのか……。それに「地方」と一口に言っても、岐阜と東北では課題が違うでしょう。規模や用途にかかわらず「データセンター」と一緒くたに捉えられるのは、違和感あります。

データセンターとメガクラウドの理想的関係とは?

──地方データセンターとメガクラウドの関係性は、この後どうなっていくでしょう? やはり地方データセンターが、メガクラウドを“迎えにいく”のが主流になるでしょうか。

石原:海外からの回線陸揚げ局の関係上、メガクラウドのデータセンターは関東・関西中心という構図は変わらないと思います。メガクラウドのPOP(Points Of Presence)と呼ばれる部分も、東京と大阪中心で動かないでしょう。

 となると、コストの問題はありますが、地方へ太い光ファイバー回線を伸ばして、レイテンシを都市部と変わらないクラスへ持ち上げるか、または村井純先生が仰るように宇宙経由での通信を速くすることができれば、地域差が減るかも知れません。メガクラウドのPOPが地方へ来る可能性は、レイテンシ確保とセキュリティ確保、Peeringの接続性の観点から、かなり低いと思います。つまり、これまでと同様、東京・大阪とどうつないでいくかが重要でしょう。

──データセンターは、キャリア(通信回線会社)との関係性を深めていく必要性は高そうです。

木藤:弊社はデータセンターとキャリア、両方の側面を持っています。まずデータセンターのお客様には東京経由で、キャリアのお客様には大阪経由でメガクラウド接続を提供しています。

──メガクラウドへの閉域接続は、ユーザー企業からみるとマストなものになりつつあるのですか?

木藤:最近需要が多いと感じているのは、Microsoft 365への閉域接続ですね。テレワークが広がる中で、その接続スピードに不満を覚え、解消するために閉域接続したい、と。実際、弊社もそれに応えるかたちでサービスを始めました。

藤井:仮にメガクラウドに対して、地方データセンターの利用をお願いしたとしても、提携などに結びつけるのはかなり難しそうです。都市圏から20~30km程度のデータセンターならともかく、それ以上の距離にある施設はやはり遅延・レイテンシが課題です。

山口:世界的な視点でみれば、東京と大阪ってかなり近くて、なぜそれぞれに接続点を用意する必要があるの?と、メガクラウド側は思っているかもしれません。

湊:HOTnetでも4月からメガクラウドへの閉域接続サービスを開始しました。政府情報システムの調達基準となる「ISMAP」にAWSが対応したという背景なのか、自治体の利活用が広まった印象です。この先どう拡大していくのかは、冷静に見ていく必要があると思います。

データセンターからデータセンターに質問してみた

──ここからは1on1で参加者の皆さんそれぞれ質問しあってみましょうか。安村さんいかがですか?

安村:ではQTnetの木藤さんに伺いたいのですが、2019年にQTnetとQicが合併されました。データセンター事業者と通信回線事業者の合併には色々ご苦労があったと思うのですが。

木藤:先に大変だったところからお話ししますが(笑)、通信事業とデータセンター事業、それぞれの会社で運用していたサービスフローを統合するのは大変でした。

 その一方で、回線とデータセンターの両方を持っていることは本当に良かった。合併後の2年間、明らかに案件は増えていますので。(IT企業の集積地となりつつある)福岡市の勢いも追い風になっているかもしれません。

 今度は石原さんに伺いたいのですが「地方のデータセンターだからこそできること」って、ズバリどんなものでしょうか?

石原:難しい質問ですが……やはり接続性(ネットワーク周り)ではないでしょうか。私は以前CATV関連のお客様と接することがありましたが、全国の大半のCATV事業者は接続性確保のため、東京か大阪、または両地点と専用線で接続しているんですよ。通信費が相当かかると伺っています。

 データセンターも同じで、通信費はかかりますが、やはりネットワークの拡充はすべきだと思います。また、営業面ではIT業界もコロナ禍でリモート対応が当たり前の時代となりました。地方のデータセンターも地元だけでなく、全国の顧客にリモート営業が可能となりました。箱(データセンター)と線(通信回線)の基盤を生かして、メガクラウドやSaaSにもつながる、付加価値のあるサービスを提供していくことがやはり重要だと思います。商材と売り方、そのどちらをも考え直してみる、良いタイミングでしょう。

藤井:湊さんに聞きたいのは、近頃始めたというメガクラウドへの閉域接続サービスの件です。ガバクラ(ガバメントクラウド)の存在感は大きいようですが、一般企業への展開も含めて、実態はどうなっているのでしょう?

湊:現状、クラウドサービスの営業対象は自治体が中心になっておりまして、メガクラウドニーズも自治体からのものとなっています。加えて本年1月内閣官房が公開した「地方自治体によるガバメントクラウドの活用について(案)」を読んでみると、「2025年までにガバクラ利用を地方公共団体に拡大」という方針が示されているので、そこへの対応を具体化させる狙いがあります。⼀般企業への展開は、正直まだ読み切れていないですね。

政府CIOポータル「ガバメントクラウド先行事業(市町村の基幹業務システム)の公募及びガバメントクラウド先行事業(地方自治体のセキュリティシステム)の公募について【地方自治体職員対象】」公募資料より

山口:我々は岐阜、中川さんのパワー・アンド・ITは富山で、どちらも地理的には“日本の真ん中”あたりに存在します。ですので回線もそれぞれ東京・大阪に出すことになるんですが、その接続先の選択肢って、どんな実情ですか?

中川:NTTとHTnet(北陸通信ネットワーク)、この2社に限定されます。それ以上の選択肢はないです。

山口:となると、価格交渉力は弱い?

中川:はい、そうですね(笑)

山口:自治体との関わりはどうですか? パワー・アンド・ITとしての直接のパイプといいますか。

中川:テナントであるインテックや北電情報システムサービスは、自治体システムの開発を手がけてらっしゃいますが、弊社としては直接のつながりはほとんどないです。

 弊社の悩みは、まもなく機器の更新・更改の時期がやってくることです。そこで社長からは「PUEを向上させよ」との命令が出ていて、空調もさまざまな方法を試してみようと思っています。湊さんのHOTnetをはじめ、北海道の事業者さんはPUEや空調方式についてはどうお考えですか?

湊:美唄(びばい)市でこのほど立ち上げられた「ホワイトデータセンター」では、雪を使って冷風を流す仕組みを取っているそうです。

 さくらインターネットの石狩データセンターは、1号棟では外気冷房に積極的に取り組んだようです。

中川:なるほど。雪を使った空調は「雪を貯める」のが大変で、それこそトラックで集めて回らねばならず、意外なほどコストがかかるとも聞いていたので、ちょっと質問させていただきました。

地方データセンターの強みとは?

──各社の展望についても、ぜひお聞かせください。

木藤:QTnetではこれまでに3つのデータセンターを作っていて、今後もさらに増やしていければと思います。先ほどから出ている地方分散議論はもちろん、ハイパースケールデータセンターの需要など、考慮すべきことは多いです。「九州・福岡のデータセンターと言えばQTnet」となるよう、まだまだ拡大路線を続けたいです。

山口:岐阜という地場に根ざしてサービスをしている企業なので「ハブ」になるのが最大の目標です。中継用のちょっとした設備を置いてもらうとか、あるいは弊社が用意したサービスを使ってもらうとか、上手く組み合わせていければ。

 またメガクラウドへの閉域接続については、地元のお客様の声を聞くかぎり月70~100万円というコスト感のようです。ただダークファイバーなどを使って弊社センターまでつないでもらえば、そのコストが半額近くになる。そういう意味では、地方データセンターの必要性は十分感じてもらえると思います。

中川:エッジコンピューティングに期待しています。といっても局所的なものではなく、例えば自動運転であれば全国各地にエッジサーバーを置くことで、運転レベルが上がるといった可能性もあるはずです。

安村:ハウジングの販売が厳しくなる中で、「ゲートウェイデータセンター」への変革を成し遂げるべく、チャレンジを続けています。メガクラウドとの接続、各地方データセンターとの相互接続、そして東アジアの玄関口としたサービスモデルを策定し、実行していくことでより沖縄の特色を活かしたデータセンターの価値を見出せると考えています。

藤井:弊社も、データセンターと通信回線の両方を取り扱う事業者です。メガクラウド隆盛といっても、やはりハウジングがゼロになるとは思えません。地域に根ざしつつ、しっかりと「選んで頂ける」だけのサービスを提供できるよう、頑張っていきます。

湊:弊社のデータセンターは、建物自体は賃貸なんです。自社保有と比べて良いところ・悪いところがそれぞれありますが、将来的に使いやすい形態を模索していきたいと思います。

2025年、2030年のデータセンター像

──データセンターを巡る環境は目まぐるしく変化していますが、1つの目安としての2025年、さらにその先の2030年にはどうなっているのか、ぜひ皆さんのお考えを聞かせてください。

湊:まずデータセンター業界の淘汰が進まないか、“業界”と言えるほど事業者が残っているのか、そこがまず不安です。北海道の事業者は、自治体向け商売のウェイトがとても大きいので、ISMAPの確立でクラウド利用が進むと、事業環境はガラッと変わってしまうかも知れません。

 その上でデータセンターは、もっとインフラ化が進むような気がします。例えば電気は、どこに発電所があるか意識せずに使っているように、データセンターも“必要だけど、どこにあるかは関係ない”といった捉えられ方になるのではないか、と。

中川:お客様が抱えているサーバーが、もっと出てくる───オンプレミスだったものがデータセンターやクラウドに転換する例が増えるとは思います。富山の状況を見ていますと、AWSでシステムを構築できるSierも増えています。そうして選択肢が増えていく中で、お客様が最適なものを自ら選べるようになる。私は地方データセンターの将来性について、それほど悲観はしていません。

山口:2025年までは目立った変化が少なく、安心できると思います。問題はその先の2030年ですが、湊さんの指摘のように、データセンターは「見えない・意識されない」存在になっていく気がします。

 エンドユーザーが課題解決をしたいとき、まず向き合うのはソリューション会社であり、そこで「どうしても地元データセンターでいきたい」とはならないでしょう。そうした時代の営業スタイルを模索していかなければ。

藤井:あくまで個人の意見ですが、しばらくはまだハウジング需要が堅調に伸びつつも、2030年には流石に状況が変わっているのではないでしょうか。その時には海外のメガクラウドが主流なのか、あるいは国産クラウドが台頭しているのか。

 ただ我々の強みは地場に根ざした、顔の見える事業者であることですので、そこは変わらず力をいれていきたいです。

木藤:この4月にはアルテリア・ネットワークスがデジタルエッジ・ジャパンとの間で業務提携なども行われています。業界再編とまでは言いませんが、海外のデータセンター事業者による買収ですとか、合従連衡は少しずつ増えていきそうな予感はします。

 ただ、2030年どころか、半年後の予想も全くつきませんので(笑)、流れに身を任せながら柔軟に対応していきたいですね。

安村:当社データセンターでいえば、維持・拡大の方向で計画策定段階にあります。ローカル5Gのインフラ拡大に向け、エッジ機能としてのDCに対する需要は伸び上がると見つつも、DC事業者すべてにその恩恵があるとは思いにくいです。全国的に地場のDCが淘汰・吸収合併といった集約化はさらに増していくと考えています。

 当社としては、その様な外的環境の変化や行政の動向を鑑みながら、他社との協業を見据えた上、ファシリティとコネクティビティの投資路線を選択し、地域の特性を活かしたデータセンターサービスの創出に努めていきたいです。

──業界動向としては、データドックが新潟・長岡のデータセンターを楽天に事業譲渡するという例もありましたね。

石原:日本企業にはもっともっと頑張っていただきたいですね。ハイパースケーラーの動きは活発ですし、中国のESRも日本国内にデータセンターを建設する方向で動いています。

 そうした中で国内データセンターが生き残る道としては、ラック単体で売るのではなく、SaaSであったり、クラウドとのインテグレーションであったり、「気付いたらデータセンターを使っていた」という状況を作ることが大事ではないでしょうか。

──皆さんのお話をまとめると、ラックの販売は苦戦する一方でDaaSなどのサービスはしっかり伸びている。これが象徴するように、お客様はラックを買うのではなく、サービスを求めている。そしてお客様自身は、どこのデータセンターで動いているかは、それほど気にしていない。そうした認識を皆でしっかり共有しながら、データセンター業界をますます盛り上げていきたいと思います。本日はありがとうございました。