クラウド&データセンター完全ガイド:DCC2P

「DCC2P Vol.6 コンテナ技術勉強会&情報交流会」レポート

コンテナ技術の解説や「IDCFクラウド コンテナ」サービスの事例を紹介

 インプレスは、データセンター業界における協創と新たな価値を創出するコミュニティ「DC Co-Creation Place(DCC2P)」の第6回目のイベントとして、コンテナ技術についての解説や商用サービス事例の紹介などを行う「DCC2P Vol.6 コンテナ技術勉強会&情報交流会」を開催した。

サイバーエージェント AI事業本部の青山真也氏

 イベントではまず、「コンテナ・Kubernetesの基礎」と題して、サイバーエージェント AI事業本部の青山真也氏が解説した。

 ビジネスやプロダクトの成功には、より良いものを提供することが重要だが、Webサービスにおける良いものとは何なのか。青山氏は、「安定的に動作することができている状態を維持しつつも、頻繁にアプリケーションを更新することでユーザーに対してより良い価値を届けられている状態」であると指摘する。これによって、ビジネスやプロダクト展開のスピードを上げ、競争力を維持することができるという。

 「こうした状態を実現するために必要となるのがクラウドネイティブ技術であり、このアプローチの代表的なものにコンテナやサービスメッシュ、マイクロサービスなどがある。そして、これらの技術を組み合わせるプラットフォームの1つとしてKubernetesがある。Kubernetesは、アプリケーションの実行を第一に考えたときに、どういうインフラを作るかを主軸に設計されたコンテナオーケストレーターとなっている」と説明した。

クラウドネイティブを実現するためのプラットフォーム

 ただ、Kubernetesを単純に導入しただけでは得られるメリットは少ないとし、Kubernetesに適しているアプリケーションとして、「一定の更新が行われるなどクラウドネイティブが目指す方向と一致しているアプリケーション」「状態を保持しないステートレスなアプリケーション」を挙げた。

 Kubernetes運用時のポイントについては、「Metrics(定量的な値によるサービス状況)、Logging(サービスで発見したイベント情報)、Tracing(リクエストの詳細な分析情報)を正しく把握し、Observability(可観測性)を確保すること。また、Reconciliation loop(調整ループ)と拡張性により運用管理を自動化すること」が重要になるとアドバイスした。

Observability(可観測性)を支える3本の柱

Kubernetesクラスターの構築・展開・管理を実現する「IDCFクラウド コンテナ」

IDCフロンティア エンジニアリング本部 開発部 部長の浅沼敬氏

 次に、IDCフロンティア エンジニアリング本部 開発部 部長の浅沼敬氏が、「IDCFクラウド コンテナ」の商用サービス事例について紹介した。

 ソフトバンクグループで法人向けITインフラサービスを展開しているIDCフロンティアは、マルチインフラ環境でKubernetesクラスターの構築・展開・管理を実現するマネージドコンテナサービス「IDCFクラウド コンテナ」を5月13日にリリースした。同社では、いつでもどこでもさまざまなデジタルインフラを容易に利用できる「Anyインフラ」というコンセプトを掲げており、同サービスはその第一弾となる。

いつでもどこでもさまざまなデジタルインフラを容易に利用できる「Anyインフラ」コンセプト

 浅沼氏は、クラウド利用の現状と課題について、「当社が提供しているパブリッククラウド『IDCFクラウド』の利用状況は、73%がハイブリッド利用となっている。また、市場を見てもクラウド利用者の81%が2社以上の事業者と契約しているという調査結果が出ており、クラウド利用はハイブリッドやマルチクラウドが主流になりつつある。その中で、現在の開発・実行環境は、『プロダクション単位でコンテナ環境がバラバラ』、『オンプレミスのインフラ維持管理にエンジニア稼働が奪われる』といった課題を抱えているのが実状だ」と指摘する。

 こうした課題に対して、「今後は、『マイクロサービスによる自社コンテナイメージの標準化』『マルチクラウド利用で実行環境が選択可能』『インフラの維持管理が不要』な開発・実行環境が求められる。そこで、これらのニーズに対応し、ハイブリッドでもマルチクラウドでもどんな環境でもKubernetesクラスターを展開・運用できるマネージドコンテナサービスとして『IDCFクラウド コンテナ』をリリースする」と述べた。

IDCFクラウドユーザーの73%がハイブリッド利用、81%がマルチクラウド利用

 「IDCFクラウド コンテナ」の主なサービス特徴としては、構築環境を選ばず、ハイブリッド環境の社内仮想化プラットフォームにKubernetesを展開できるほか、「IDCFクラウド」のコンピュートに加え複数のパブリッククラウドをシームレスに利用することができる。また、マルチクラウド/インフラのすべてのクラスターを1つのインターフェイスで管理可能。ワークロードもシンプルなWEB UIから簡単に管理することができる。モニタリング機能では、コンテナからクラスターまで、どのプラットフォームでも同じようにリソースをモニタリング可能。カスタマーサポートについては、「IDCFクラウド」同様の日本語によるサポート体制を提供している。

「IDCFクラウド コンテナ」の特徴

IDCFクラウド コンテナが管理基盤にSUSE Rancherを採用した理由

 そして、「IDCFクラウド コンテナ」の大きな特長として見逃せないのが、管理基盤にSUSE Rancherを採用している点だ。浅沼氏は、SUSE Rancherを選定した理由について、“事業者目線”と“ユーザー目線”の2つの視点から説明した。

 まず、“事業者目線”では、「クラスターからワークロードまで一通りの管理ができること」、「複数のクラスターを構築、運用、管理できること」、「IDCFクラウドだけでなく、マルチクラウドやベアメタルサーバーに対応できること」の3点を重点ポイントとして、5つのベンダー製品と完全自社開発製品を含めて検討し、最終的にSUSE Rancherに絞り込んだという。

 SUSE Rancherの選定理由については、「マルチクラウドやベアメタルサーバーに対応している点」「クラウドとしてサービス提供するうえで、ユーザーの権限管理の概念がある点」「カタログ機能、クラスターロギング、監視など機能が豊富である点」を挙げた。

SUSE Rancherの選定理由

 一方で、「SUSE Rancherを『IDCFクラウド』に組み込んで商用サービスとして提供するには課題もあった」と浅沼氏は明かす。1つめは、SUSE Rancherのインフラに依存している部分をどう実装するのか。例えば、高可用のためのサーバー冗長化や障害からのサーバー自動復旧、負荷に応じたサーバー自動拡張、ロードバランサーなど。2つめは、頻繁に起こるSUSE Rancherのバージョンアップにどう対処するのかである。

 1つめの課題に対して同社では、クラウドサービスの基盤設計や「IDCクラウド」との連携において不足している機能は自社開発で追加した。また、バージョンアップ対応の課題については、 もともとKubernetes自体がバージョンアップが頻繁であることを踏まえて、ナレッジ面で足りない部分や強化が必要な部分をSUSE社のトレーニングを活用してカバーしたという。

SUSE Rancherでの課題

 “ユーザー目線”からの選定ポイントとしては、「Kubernetes導入の悩み」「モニタリングの悩み」「CI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)の悩み」という、ユーザーが抱える3つの悩みを挙げ、SUSE Rancherは、これらの悩みを解決できる機能を備えていると説明した。

 「Kubernetes導入の悩みに対しては、SUSE Rancherは高度な知識を必要とせず、クラスター作成からワークロードのデプロイまでWEB UIのみで完結することが可能で、どのインフラ上でも同じようにワークロードをデプロイし管理することができる。モニタリングの悩みについては、インフラを問わず、どのKubernetesでも同じように利用できるモニタリング、アラート、通知機能を提供。また、コンテナ、PODからクラスターまでの監視設定がプリセットされており、運用にかかる労力を軽減する。CI/CDの悩みに対してもUSE Rancherは、どこのインフラ上でも同じように利用できるCI/CDパイプライン機能を提供している」。

Kubernetes導入の悩み

 また、浅沼氏は、「IDCFクラウド コンテナ」の商用サービス実現に当たっての技術的な取り組みについても紹介。「コンテナサービスのプラットフォーム開発では、IDCF Cloud Consoleでの認証を通じて、SUSE Rancherの機能をマルチテナント的に使えるようにするために、IDCF Cloud ConsoleとSUSE Rancher UI、SUSE Rancher Serverとの認証連携を行った。また、SUSE Rancherをより使いやすくするために日本語UIに対応した。さらに、コンテナサービスがダウンしないよう、SUSE Rancherの多拠点DR構成にもチャレンジした。この他、『IDCFクラウド』とSUSE Rancherの連携対応に関わる拡張開発にも取り組んだ」という。

 今後の展開については、「『IDCFクラウド コンテナ』のプラットフォーム設計・開発を通じて得た知見は大きいものがあった。今後は、技術コミュニティへも積極的に知見共有などを行い、SUSE RancherやKubernetesの開発にさらに貢献していきたい」との考えを語った。

コンテナサービス プラットフォーム概要
IDCFクラウド対応の拡張開発