ARMが「サイボウズLive」で取り組む、情報共有のあたらしいカタチ
コミュニケーションロスによる生産性低下を防げ!
ARM 取締役 執行役員 神谷学氏 |
“コミュニケーションロス”という言葉を聞いたことがあるだろうか。文字通り、コミュニケーションの損失、すなわち互いの意思疎通がうまくいかない、情報が正しく共有されないという状態をあらわしている。そして現在、多くの組織でコミュニケーションロスによる生産性の低下が危惧されている。
コミュニケーションロスの要因は、コミュニケーションにかかわる双方が「伝えたつもり」「伝わったつもり」になっている“思い込み”に依るところが大きい。読者の方も職場で「言った/言わない」「聞いた/聞いていない」のトラブルに巻き込まれたこと、または実際に目にしたことが何度もあるだろう。その場で解決できるレベルの問題ならともかく、もし、こんなやりとりが経営判断にかかわる意思決定の場で行われているとしたら……あまり想像したくない将来がその会社を待っている可能性は高い。思い込みは会社を潰す、と言っても過言ではないのだ。
「コミュニケーションロスの7、8割は情報が共有されていないことに起因する。特にメールを情報共有のベースにしている組織はこの傾向が強い」と語るのはアドバンテッジ リスク マネジメント(以下、ARM) 取締役 執行役員 神谷学氏だ。同社は現在、サイボウズの無料コラボレーションツール「サイボウズLive」を使い、社内外の情報共有のスタイルを大きく変革している最中にある。「もう社内でメールを書くことがほとんどなくなった。メールによる情報共有のスタイルは前世代的」と明言する神谷氏に、同社で推進中の情報共有のあり方を中心にお話を伺った。
■メールによるコミュニケーションの限界
「安心して働ける環境」と「活力ある個と組織」を共に創る――企業とそこで働く人を取り巻く課題に向き合い、真の意味で生産性を上げるため、「メンタルヘルスケア」「就業障がい者支援」の2つを柱としたソリューションをBtoBtoEで提供するアドバンテッジ リスク マネジメント。特に従業員の心の健康をサポートするメンタルヘルスケアサービスや復職支援サービスには定評があり、大手電機メーカーや飲料メーカー、国立大学など業界を問わず約500社/100万人の利用者を抱える。
冒頭に掲げた企業理念を実現すべく、同社自身もまた生産性と企業価値の向上をつねに図っている。特に職場におけるコミュニケーションをいかに望ましいかたちへと進化させていくか、これは同社にとっても顧客企業にとっても重要なテーマである。職場改善のソリューションを顧客に届けることをミッションにしている以上、自社のコミュニケーションロスを低減することは義務と言ってもいい。
同社では社内コミュニケーションを図るためのグループウェアとして2001年から「Cybouz Garoon」を利用している。「最初はスケジューラから使い始め、だんだんとグループウェアに求める機能が多くなってきた」(神谷氏)というが、中でもメールとグループウェアが“断絶”した状態になっていることに不満を覚えるユーザが増えてきたという。「たとえば相手と予定を調整するときも、スケジューラはGaroonで確認し、メールはOutlookで書いて送る。画面を切り替えるたびに思考が分断されてしまうことにストレスを感じるようになった」と神谷氏。
メール中心のコミュニケーションの弊害はそれだけではない。同社のソリューション開発には営業、コンサルタントなど1つのプロジェクトに数多くの部署の人間がかかわる。また、社外の医者や臨床心理の専門家、開発チームなどがプロジェクトメンバーとして参加する場合も少なくない。1つの案件をCcやBccを使いながら情報共有していくのは、時間が経つほど面倒なプロセスとなる。とにかく情報の共有先がわかりにくいのだ。メールのSubjectがずっと同じだったため「自分には関係ない話題」と見過ごしていたら、実は重要な伝達事項が含まれていた、などの見落としはしょっちゅう起こる。
「1対1のコミュニケーションが主体のメールは、いわば郵便ポストに手紙を出しっぱなしにするようなもの。相手に届いたかどうか、読まれたかどうかもわからず、また一覧性を確保することも、優先順位を付けることも難しい。複数のプロジェクトメンバーで情報を共有するN対Nのコミュニケーションには向かない。プロジェクトの全体像が見渡せないことによる生産性のロスは大きい」と神谷氏は強調する。さらに個々のメールのやり取りの内容には“ムダ”な部分が多く「余計な勘ぐりを必要とするメールが多すぎて、1通読むのに1時間かかったこともある」とも。
また、メンタルヘルスケアや休職/復職などセンシティブな情報を扱うケースが多い同社の場合、メールのように誰と誰が情報を共有し、どう拡散していくかがわからないツールは、セキュリティやコンプライアンス上、望ましくない部分も少なくなかった。
神谷氏はプロジェクトメンバー間で情報共有するための理想のコミュニケーションツールとして、以下の3つの条件を挙げている。
- 包括性 … 必要なメンバーが漏れなく取り込まれている、必要な情報がすべてデータベース化されて参照できる
- 即時性 … 必要な情報をすぐに取り出せる、必要なアップデートが時間差なく行われる
- 一貫性 … コミュニケーションのプロセスの時間的一貫性が確保されている
メールではこの条件を満たすことはほぼ無理だと言っていい。またグループウェアではある程度実現できても、社外のメンバーとの情報共有はできない。頭を悩ませていた同社にサイボウズ 代表取締役社長の青野慶久氏から紹介されたのが「サイボウズLive」だった。
■N対Nのコミュニケーション/情報共有を実現する「サイボウズLive」
サイボウズLiveのトップ画面 |
サイボウズLiveは、1グループあたり20名までなら基本的に無料で利用できるクラウド型のコラボレーションシステムである。プロジェクトごとに「共有スペース」というグループを作成し、そこに招待されたメンバー間で情報共有を行うことができる。メンバーの所属は社内外を問わないので、社外の関係者とも安全な情報共有が可能になる。また、クラウドベースなので、インターネット接続環境とWebブラウザさえあれば、どこからでも、またPCだけでなく携帯電話やスマートフォン、タブレットからもアクセス可能だ。サイボウズによればiPhone/Android向けの専用アプリも用意されているとのこと。
サイボウズLiveのメイン機能は、以下の4つになる。
- 共有フォルダ … どんな種類のファイルでも1グループにつき500Mバイト/1ファイルあたり25Mバイトまで無料で保存可能
- ToDoリスト … 期日を指定して担当者ごとにToDo作成
- 掲示板 … バーチャルな環境でのディスカッションが可能に
- イベント … プロジェクトのイベント/スケジュールをメンバー間で共有
掲示板の詳細画面 | ToDo画面 |
ARM社内で最も利用されている機能は「掲示板」だと神谷氏。「時系列にコメントが並ぶのでスピーディなコミュニケーションが成立しやすい。コメントにも文書や画像が挿入可能で、"いいね!"をクリックするだけで賛同の意思を表明できるわかりやすさも魅力」(神谷氏)
また、共有フォルダには見積書や発注書を入れておき、商談成立の確度が高いものはToDoとして作成するといった使い分けをしている。テスト仕様なども随時アップデート可能だ。「あのファイルはどこ?」というありがちな苦情を聞くことはほとんどなくなったという。
グループは無制限に作成できるので、削除する必要がない。このため、プロジェクトごとに蓄積されたノウハウが消去されないというメリットがある。「業務で得たノウハウは組織に蓄積していくもの。個人のプレゼンスを高めるよりも、きちんと業務フローとして公開することで組織に還元し、イノベーティブな活用を図っていくべき。業務フローにブラックボックスを作っては絶対にいけない」(神谷氏)
■社内で得た情報共有ノウハウを顧客へのソリューションに活かしたい
現在、ARMでは外部の関係者も含めたいくつかのプロジェクト開発でサイボウズLiveを活用しているが、神谷氏は外出の多い営業部門のスタッフにも利用を勧めたいとしている。データがクラウド上に置かれるサイボウズLiveは、iPhone/iPad、Androidといったモバイルデバイスでも利用できるので、出先でデータやファイルを確認したい営業スタッフや、在宅勤務や休職中の従業員が利用するには適したツールだといえる。
ただし、こうしたツールの利用シーンを拡げる場合、「その前にルールの徹底が必要」と神谷氏は強調する。同社ではモバイルでの活用はまだ実験段階で、状況を見ながらルールを決め、利用可能なシーンを順次拡大するとしている。コラボレーションツールに限らず、新しいITソリューションは、最初はトップダウンで導入したほうがスムースに運ぶ。その点、ARMは神谷氏のような上層部が積極的な導入をはかったことが奏功したようだ。「新しいツールを普及させるには、多少無理にでも現場を巻き込んでいくほうが効果的。ボトムアップによる伝播も重要だが、最初の一歩はトップダウンのほうが普及しやすいのではないか」(神谷氏)。
サイボウズLiveを使っていると、「あらためてメールというシステムが旧弊だということに気付かされる」と神谷氏は言う。
「サイボウズに対して何か要望は?」という質問には「Garoonとの連携がやや使いづらい。Garoon(グループウェア)とLive(コラボレーションツール)をタブで切り替えられるとより便利」と回答したが、使用感にはおおむね満足しているとのこと。
近い将来にはこのN対Nコミュニケーションによる情報共有のノウハウをシステム化し、顧客へのソリューション提供に活かしていきたいという。「たとえば心の病で休職した従業員の場合、完全に復職するまでのクッションとしてこうした情報共有ツールをうまく活用すれば、復職までの期間を短くすることも可能になる。今後も社内でさまざまな使い方を試し、新しい時代のワークスタイルに適したコミュニケーションと情報共有を提案していきたい」。
メンバー間の積極的なコミュニケーションがブラックボックスのない情報共有につながり、そこで蓄積したノウハウが組織の生産性を上げていく、理想的な業務フローのベースは、もはやメールで構築する時代ではなくなったようだ。