事例紹介

さまざまな健康関連サービスと柔軟な連携を提供したい――、オムロンヘルスケアが「Talend Data Fabric」を選んだ理由

 健康医療機器メーカーのオムロンヘルスケア株式会社は、同社の血圧計や体重体組成計などの機器で収集したバイタルデータを管理するスマートフォン用健康管理アプリ「OMRON connect」を展開している。

 OMRON connectのバイタルデータは、ユーザーが希望すればクラウド経由でさまざまな健康関連サービスと連携できるような仕組みも作られている。このデータ基盤では、ETL(Extract, Transform, Load)やESB(Enterprise Service Bus)のために、Talendのデータ統合プラットフォーム「Talend Data Fabric」を採用した。

 オムロンヘルスケアによるバイタルデータ活用や、そのためのデータ基盤について、オムロンヘルスケア株式会社の芦田尚人氏(新規事業開発統括本部 データシステム本部 システム開発部 部長)に話を聞いた。

オムロンヘルスケア株式会社の芦田尚人氏(新規事業開発統括本部 データシステム本部 システム開発部 部長)

健康医療機器のデータをスマホアプリや社外アプリで活用

 日本高血圧学会の「高血圧治療ガイドライン」では、2014年の改訂において、医療機関などで計る診療所血圧だけでなく、家庭血圧が重視されるようになった。そのため、定期健診などで高血圧と診断された人は、自宅に血圧計を用意して毎日計測し、記録することが求められる。

 血圧計も最近では、スマートフォンと接続して毎日のデータを自動的に記録する機能を持った機種も増えてきた。血圧計の数値を自分で記録することなしに、血圧の変化を記録して管理し、グラフ化などもできるわけだ。

 オムロンヘルスケアでは、同社の健康医療機器とつながるiOS/Android向けの健康管理アプリとしてOMRON connectを2016年11月から提供している。OMRON connectにより、健康医療機器で測定したデータを統合管理できる。

オムロンヘルスケアの健康医療機器
スマートフォンのOMRON connectアプリ

 OMRON connectのホーム画面は、さまざまな最新データを1画面で見られるダッシュボード形式になっている。そこから各項目をタップすると、血圧や体重など各指標がグラフで表示される仕組みで、血圧であれば、毎日の血圧データを集計して傾向などを把握するとともに、血圧手帳も作成できる「かんたん血圧日記」も入っている。

 「オムロンヘルスケアでは『ゼロイベント(ZERO EVENTS)』という言葉で高血圧対策に取り組んでいます。この場合のイベントとは、脳・心血管疾患が発症することを指します。脳・心血管疾患が発症すると生命をおびやかすうえに、周囲のQOL(生活の質)も下げます。それを減らすよう、医療に貢献したいと考えています」と芦田氏は語る。

 そのためには、血圧について平均値がしっかりととれるだけのまとまったデータ量が必要になる。また、生活習慣に関するデータもあったほうがよいため、体重や活動量などのデータもあわせて管理したい。そこに、OMRON connectで各種機器のデータを統合して管理できる意味があるわけだ。

OMRON connectの概要
OMRON connectのダッシュボード画面

 OMRON connectではさらに、アプリやクラウドサービスなど、連携アプリにデータを渡して活用する機能もある。もちろんユーザーの許諾のうえだ。「集めたデータをゼロイベントにつなげるためには、オムロンヘルスケアだけでは実現できません」と芦田氏。

 連携アプリは国内でも60社以上。またOMRON connectはApp Healthとも連携しているため、Apple Healthを介して連携しているものもある。「連携先には、医療系とウェルネス(健康)系があります。自治体では、スポーツやダイエットなどの健康促進が多いですね。海外では遠隔診療のためのデータに使うものもあります」(芦田氏)。

 例えば神奈川県は、「マイME-BYO(みびょう)カルテ」というスマートフォンアプリおよびWebで、健康情報や薬の情報などを見える化できるようにし、健康促進につなげている。マイME-BYOカルテでは、健康や子育てなどの各種アプリケーションとの連携でデータを集めており、その中にOMRON connectも含まれる。

グラフ表示のほかアプリ連携も
60以上の連携アプリ

データ連携の柔軟性のためにTalend Data Fabricを採用

 OMRON connectと外部アプリとの連携には、まずOMRON connectからデータをクラウドサーバーにアップロードする。同時に、オープンデータもレイヤーを分けて保存する。そして、集まったデータを専用のデータ基盤から抽出し、連携先サーバーにAPIなどで提供する。

 このデータ基盤については、2016年度にデータサービスのビジネスモデルを1年かけて検討し、2016年に開発を開始した。

データ基盤を介して社外アプリと連携

 データ基盤の要件は、柔軟性だ。OMRON connectから入ってくる側の柔軟性と、連携先サーバーに応じて形式を変更できる柔軟性の、入る側と出る側、両方の柔軟性が求められた。提携先によっては、リアルタイムでデータが必要なところと、研究機関のようにデータをまとめてほしいところなど、提供形態にも柔軟性が必要とされている。

 さらに、OMRON connectを国際展開するにあたり、地域ごとの法令やサービスレベルなどに合わせるため、同じシステム構成で地域ごとに設置して独立して運用できる柔軟性も必要だった。

 こうした理由から、ETLやESBのプラットフォームとして、Talendのデータ統合プラットフォーム「Talend Data Fabric」を採用したという。

 データ基盤はAmazon Web Services(AWS)のクラウド基盤上に構築した。内部ではAmazon Auroraなど、AWSのほかのサービスも使っている。OMRON connectのクラウドサーバーとデータ基盤の間のデータ受け渡しにはApache Kafkaを採用。運用担当者が見る画面や、提携先が一括ダウンロードする画面など、管理系の機能は独自で開発している。

 「Talend Data Fabricは、さまざまなデータに対応するアダプターの多さが決め手でした」と芦田氏は採用ポイントを語る。「提携先が新しく決まったら、すぐにつなげる必要があります。そのための変更がTalend Data Fabricでは容易で、定義を追加するだけでできます」。

 実は、オムロンヘルスケアがRFPを出したところ、複数のSIerがTalend Data Fabricを提案してきたのだという。「成り立つかわからない事業なので、いきなり大きな金額をかけられないという事情もありました。そうしたスロースタートの要件にもTalend Data Fabricが向いていました」と芦田氏は付け加えた。

 構築にあたっても、柔軟性を担保することを重視し、Talend Data Fabricの仕組みを生かした。またデータの特性上、データの匿名化などにも気を配る必要があった。「それほど難しくはありませんでした。ただし、Talend自身の監視などは考える必要がありました」と芦田氏。

 データ基盤は2017年度に構築を完了し、まず日本向けにサービス開始した。同年にはさらに米国向けも始まっている。2018年度にはシンガポールと中国で、2019年度にはヨーロッパで開始する予定だ。

 「Talend Data Fabricはオープンソースを基礎にしているので、ベンダーロックインされないのも特徴です。グローバル展開したときに、拠点で独自に変更する可能性もないわけではありません。そうなったときには、ベンダーロックインされない柔軟性が生かされるでしょう」(芦田氏)。

 一方で、Talendへの要望としては「今後、世の中の変化に対応していくときに、グローバルでのサポートを増やしてもらえればありがたい」と芦田氏は語った。

 今後の展開としては、「医療に貢献したい」と芦田氏は語った。「その人の生体情報や行動、医療行為、気候など、さまざまなデータをもとにしたパーソナライズ医療で、治療効率が上がりますし、医療経済性もよくなります。そのためには、よりデータが重要になってきます」。

 提携サービスを増やしていくことも芦田氏は挙げた。グローバル展開の拠点ごとに、エリアごとの特性を考えてビジネスプランを立て、ベンダーと協力しながら具体化していく方向で、2018年度の初頭ごろから話をしているという。グローバル拠点も、ロシアや南米などにも展開していきたいという。

 「技術の面では、今後さらに技術は変わり、ビジネスにも影響していきます。それを常に考えていければと思います」(芦田氏)。