特別企画

無線LANの自律型最適化機能「AWC」は、中小企業の救世主になるか?

 アライドテレシス株式会社は3月に、無線LANアクセスポイント「AT-TQシリーズ」を、新しい自律型無線LANソリューション「AWC(Autonomous Wave Control)」機能に対応させた。

 AWCは、無線LANアクセスポイントが他のアクセスポイントや外部電波(外来波)の情報を収集することで、アクセスポイントの出力やチャンネルを自律的に最適化する技術。これによって、従来は入念に行う必要があったサイトサーベイを簡素化できるほか、運用開始後も、変化する電波状況に最適化された設定が自動的に行われるというのが特徴だ。

 無線LANの運用管理を簡素化できる機能として、発表時から注目を集めていたAWCだが、3月のリリースから約半年が経過した現在、企業などでの採用状況はどうなのか。また、本当に効果はあったのか。

 今回は、アライドテレシス株式会社の松口幸弘氏(マーケティング統括本部 Global Product Marketing部 部長代理)に話を聞いた。

アライドテレシスの松口幸弘氏

京都大学大学院との共同研究成果がユーザーの無線LANに対する不安を解消

 AWCとは、京都大学大学院情報学研究科 守倉研究室との共同研究により、アライドテレシスが開発したもの。複数の要素を考慮して最適化するアルゴリズム“ゲーム理論”を用いたアクセスポイントの自律制御技術により実現している。

 無線LANの運用では、環境の変化や、管理外のアクセスポイント(いわゆる野良アクセスポイント)、あるいはユーザーが持ち込んだモバイルルータなどの無線干渉源の影響を受け、通信に問題が発生してしまう、といったケースが起こりやすい。

 しかしAWCでは、管理エリア全体のアクセスポイントに最適なチャンネル、無線強度を設定することにより、端末を適切なアクセスポイントに導くことが可能で、無線干渉源が発生しても管理エリアが最適化できるため、安定した運用環境を提供できる。

AWCとは
無線LANの課題を克服する

 アライドテレシスでは、こうした特長を持つAWCに取り組む背景として、ユーザーの要望に真剣に応えてきたことの一環だと説明する。

 同社では、独自のネットワークOS「AlliedWare Plus」を2007年にリリースし、「AlliedWare Plusをきっかけに、新しい機能を開発してきました」と松口氏が話すように、このOSを中心として、これまでもさまざまな機能・ソリューションを作り上げてきた。

 例えば、スイッチの高可用性を実現するVCS(Virtual Chassis Stacking:複数台のスイッチを仮想的に1台のスイッチとして管理できるようにする機能)やESPR(Ethernet Protected Switched Ring:ループ防止・冗長化機能)もその1つだ。

 また2013年には、コスト意識の変化とビジネスのスピードアップを背景に、ネットワークを統合管理する「AMF(Allied Telesis Management Framework)」をリリース。2014年には、クラウド化やセキュリティ意識の高まりを背景に、SDNを利用したセキュリティソリューション「SES(Secure Enterprise SDN)」を提供開始した。

 同社がユーザーに対して行ったアンケートにおいて要望が多かった項目には、「ネットワークの運用管理を楽にしたい」「ネットワークの運用管理コストが高い」というものがあったというが、これに応えるのがAMFだという。また、「ネットワークのセキュリティが不安」といった声には、1つの回答としてSESを提案してきた。

 AWCも、ユーザーの要望に応えるという一連の流れの中で登場している。無線LANではやはり、「無線LANの運用が不安定」といった声が多く寄せられており、そのために安定性を向上させたのがAWC、ということになる。

アクセスポイント800台超えのネットワークでの実績

 では実際のところ、リリースされたAWCの評判はどうなのだろうか。

 AWCは、対応する無線LANアクセスポイントと、管理ソフトウェア「Vista Manager」との組み合わせで構成されるが、松口氏は、「いままでのネットワーク新製品と比べ、スピーディな立ち上がりとなりました」と、販売の好調ぶりを語る。3月にリリースされたAWCは、4月にはすでに十数件導入が決まり、4月に運用開始したところもあるという。

AWCは、対応アクセスポイントと管理ソフトウェア「Vista Manager」の組み合わせで構成される

 その1つに、岐阜県教育委員会の事例がある。ここでは、県内の高等学校および特別支援学校をあわせた80拠点以上のネットワーク更改にあたり、AWCとAMF、監視・保守サービス「Net.Monitor」を採用した。

 採用の理由は、ネットワークを集中管理することで運用管理を楽にしたいというものだ。学校では専任のシステム管理者がおらず、ループの発生をはじめとするトラブルや、セキュリティの対策などにも、県の担当者が各拠点に駆け付ける必要があった。

 そこで、クラウド型コントローラーのAMF Cloudを中央コントローラーとし、中央から各拠点の機器、合計約1000台を管理できるようにした。その一環として、無線LANアクセスポイントのAT-TQシリーズと管理ツールのVista Managerを導入し、800台以上のアクセスポイントをAWCで集中管理できるようにしている。

 なおアライドテレシスは、導入時の効果について、アクセスポイント100台での試算を公開している。この試算によると、導入ではアクセスポイント1台ずつ設定をした場合と比べて20万円(40%)の削減効果。運用ではチャンネルや出力を調整する自動化により49万5000円(99%)の削減効果。設定変更では1台ずつ設定するのに比べて40万円(80%)の削減効果があるとのこと。大きな効果が期待できるというわけだ。

日本の事情にあった小規模ネットワークにもAWCを展開

 また、アライドテレシスでは、日本の通信機器メーカーとして、日本独自の要望も意識したとのこと。

 「海外ですと企業の敷地が広いので、海外メーカーのソリューションではアクセスポイントが1000台を超えるような規模を想定しています。それに対して、AWCを含めた当社の無線LANソリューションは、より小さい規模で使えるところが日本の事情に合っています」と、松口氏は説明する。

 小規模ネットワークのひとつに、一橋大学で開催された「情報コミュニケーション学会 第14回全国大会」での事例もある。この例は、2日間のイベントにおいて、臨時に利用する会場ネットワークを設置したケースだ。大学という人の多い施設に短期間だけ無線ネットワークを設置するため、既設の学内無線LANなどとの干渉はも起こりがちだ。そこでAWCを採用し、無線LANネットワークを最適化した。「アクセスポイント2~3台規模ではAWCは不要という声もありますが、そのような規模でも、外来波の干渉があるところではAWCが有効だということが実証できました」(松口氏)。

 これと似たものとして、福井県で開催された「第21回日本医療情報学会春季学術大会」での事例もある。このケースでは、開催前は外来波はなかったが、持ち込まれたスマートフォンによるテザリングやモバイルルータなどとの干渉への対策としてAWCが非常に有効だったという。

 なお、AWC対応のアクセスポイントとしては、これまでは大規模環境向けの「AT-TQシリーズ」に限られていたが、8月にはついに中小規模向けの「AT-MWSシリーズ」も対応した。これにより、同社のアクセスポイントの現行機種がほぼすべてAWCに対応することになる。アクセスポイントが数台規模の小規模拠点でもコスト的にAWCが導入しやすくなることから大きなメリットといえそうだ。

 「今後リリースされるアクセスポイントはすべてAWCに対応します」と松口氏。

アライドテレシスの無線LAN製品のラインアップ

Vista Manager EXの新構造も“ユーザーの要望に応えるため”

 なお、管理ツールであるVista Managerについても、アーキテクチャを一新した「Vista Manager EX」を6月にリリースした。このVista Manager EXでは、プラグイン方式のアーキテクチャを採用しており、プラットフォームの上に拡張機能として各アプリケーションを載せる形になるため、機能の追加が容易に行える特長を持つ。

 Vista Manager EXではすでに、AWCなどに対応した無線LAN管理機能が拡張機能として載っているが、2017年12月にリリース予定のバージョン2.3では、SNMPマネージャーを拡張機能として実装し、汎用的なネットワークデバイスも管理できるようにする。以後、AMF Agent管理やSESコントローラーなどの拡張機能が予定されている。「拡張機能によって、要望に応えきれていなかった穴を埋められるので、長期的な観点でも安心して導入できるのが、お客さまにとってのメリットです」と松口氏は説明する。

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 無線LANの自律制御というと、大規模なネットワークでの利用をイメージしがちだ。もちろん、多くのアクセスポイントが配置されるような、大規模なネットワークでの効果も高い。

 しかし「サイトサーベイなしで構成を最適化する」点では、小規模のネットワークでも有効に機能するし、事例から判明したように、持ち込み機器との調整など、刻々と変化する状況への対応にも効果があることがわかる。

 むしろ、運用に手間が掛からない点は、専任の管理者が不在だったり、少人数で管理を行っていることが一般的な、中小企業にこそ適している、ともいえる。

 今回、AWCにAT-MWSシリーズが対応したことで、日本の事情に合った小規模な無線LANでも、AWCを有効に活用できそうだ。

(取材協力:アライドテレシス)