特別企画

ゲーム理論で無線LAN APの電波状況を最適化できるか?
アライドテレシスと京都大学が実証実験

実製品には春にも導入へ

 アライドテレシス株式会社は、京都大学大学院情報学研究科守倉研究室と共同開発研究した高密度無線LAN最適制御機能「AWC(Autonomous Wave Control)」を3~4月ごろに製品に導入する予定だ。それに向けた実証実験が、1月下旬に京都大学で行われた。

有線・無線を問わずIoT時代に最適なネットワークインフラを目指して

 アライドテレシスは独自開発のネットワークOS「AlliedWare Plus」を搭載した製品を2007年10月にリリースして以降、2013年4月にネットワーク機器の自律的な運用と管理の効率化、コスト削減が可能な「AMF(Allied Telesis Management Framework)」をリリース。2014年12月にはIoT時代に登場する膨大なエッジデバイスを柔軟に制御するセキュリティソリューション「SES(Secure Enterprise SDN)」を発表した。

 そして、昨年8月に自律型無線LANシステム「AWC」を京都大学と研究開発。これにより同社は有線・無線を問わずに、ネットワークの一元管理や柔軟なセキュリティ対策を備えた、新たなソリューションの提供を実現した。

複数の無線APの電波出力とチャンネルを全体最適化

 現在、企業から公共施設まで、無線LANのアクセスポイント(AP)を設置することが増えている。施設内をくまなくカバーするには複数台のAPを設置することになるが、やみくもに台数を増やしたりAPの出力を強くしたりすると、互いの電波干渉により速度低下や接続不良を招く。

 高密度にAPが設置された場所で、カバー率を上げつつ干渉を最小限にするためには、電波状況を調査するサイトサーベイがしばしばなされる。しかし、それには専門知識や工数が必要となり、さらに導入後にも状況が変わるため再度調査が必要となる。最近では、モバイルルーターやスマートフォンのテザリングなど、管理外のAPが出入りして電波状況が動的に変わることも多い。

 そこで各ベンダーでは、APが周囲の電波状況を見て、無線LANコントローラから自動的に設定を最適化する仕組みを試みている。

 アライドテレシスのAWCも、このような自動最適化の仕組みだ。その特徴は、各APが自律的にチャンネルや出力を調整することで、全体として最適化すること。それによって、無線LANの電波環境を最適化し、導入と運用のサイトサーベイにかかわるコストを削減する。

 自律的に制御する場合、APが自分の設定を変更するとほかのAPへの影響が変わるため、影響を受けたAPが設定を変更して……と、ループして収束しないことも起こりうる。AWCではこれを解決するアルゴリズムとして、京都大学 大学院 情報学研究科 准教授の山本高至氏との共同開発研究により、ゲーム理論を取り入れた。

 アライドテレシスでは、ネットワークOS「AlliedWare Plus」と、ネットワーク統合管理・自動構築フレームワーク「AMF」、SDNによるセキュリティソリューションの「SES」と、AWCを合わせて「Network AI」というコンセプトにまとめている。

 AWCには、無線LANのAPの「TQシリーズ」と、ネットワーク統合管理ソフトウェアの「Vista Manager」で対応する。Vista ManagerはもともとAMF管理下の有線ネットワークをGUIから管理・運用する製品だったが、無線LANコントローラの機能を追加し、有線と無線を統合的に管理・運用できる製品となっている。APにIPアドレスを設定して、そのIPアドレスをVista Managerに登録するだけでAPがVista Managerの管理下に入り、設定や管理がなされる。

無線LANのAPの最適化の課題とゲーム理論
Network AIを構成する4つの技術
Vista ManagerのAWC対応予定
APはTQシリーズが対応

ホールに5つのAPを設置して実証実験

 実験は京都大学の国際交流ホールで行われた。ホールにAP「AT-TQ4400」を設置し、PoEスイッチ「AT-x510-52GPX」と、中小規模向けVPNルーター「AT-AR2050V」を経て、モバイル回線でAmazon Web Services(AWS)上のVista Managerにつながっている。これで、どのように自動調整されるかを観測する。

 前日のリハーサル時点ではホール内の3箇所にAPが設置された。当日はさらに山本氏の提案により、より密度が高く不規則な配置とするため、ホール入口と、隣接する倉庫の2箇所のAPが追加された。

 リハーサルの最初に、ホールのサイトサーベイも実施された。すでに設置されている学内Wi-FiやキャリアWi-Fi、無線マイクなどの電波が飛んでおり、2.4Ghz帯も5GHz帯(W52)も、ほとんどのチャンネルがいっぱいとなっていた。

実証実験が行われた京都大学の国際交流ホール
デモの構成。3箇所(最終的には5箇所)にAPを設置する
実証実験に使った機材。AP「AT-TQ4400」、PoEスイッチ「AT-x510-52GPX」、中小規模向けVPNルーター「AT-AR2050V」

 こうした中で実証実験が行われ、チャンネルと出力が最適化されていく様子が観測された。

 さらに、同様に自動最適化の機能を持った他ベンダー2社のAPも設置して、挙動を比較した。A社の製品では、管理外APが入ってきたときといなくなったときにチャンネルを変更するという。また、B社の製品では、管理外APが入ってきたときにだけチャンネルを変更し、いなくなったときには変更しないという。アライドテレシスは、A社の挙動を「不安定になりがち」と、B社の挙動を「最適な状態ではない」と指摘する。

 それに対してアライドテレシスのAWCでは、直近のデータではなく、一定時間(24時間)ごとに、それまでの電波状況の情報をもとにチャンネルと出力を設定する。これにより「電波干渉源のリスクを回避して安定した無線LAN環境を提供する」というのがアライドテレシスの見解だ。

事前のサイトサーベイの結果
実証実験の結果
最適化後の各APのチャンネルと出力。Vista Managerで表示
サイトサーベイで確認した1つのAPのカバー範囲

自律分散による全体最適化にゲーム理論を採用

 前述のとおり、ゲーム理論による自律的な無線最適化は、京都大学の山本氏との共同研究により開発された。山本氏の専門は無線通信の最適化である。

京都大学 大学院 情報学研究科 准教授 山本高至氏

 山本氏が想定したのは、無線APがほかのAPと直接連携せず自律分散型で自分のチャンネルや出力を変更するモデルだ。この場合、たとえば1つのAPが干渉を避けてチャンネルを変更すると、それが変更先のチャンネルに影響し、というように互いに影響を続けて、収束しないことも起こりうる。

 「各通信の品質は他APのチャンネルに依存するが、変更可能なのは自分自身だけという状況です。これは経済学でのゲーム理論と同じ状況で、ゲーム理論で収束する枠組みを作れます」と山本氏は説明した。

 ゲーム理論を使わない最適化の理論はすでにあり、そういうアプローチをしている研究者のほうが多いと山本氏はいう。しかし、分散的に対応するのにはゲーム理論が必要となる。

 「ゲーム理論の無線LANへの応用は、日本では研究されていないが、海外では研究している人もいる。ただし、あるエリアに適用するというのは新規の研究です」(山本氏)。そのため、論文を発表し、IEEE主催の国際会議でも発表している。

 AWCは山本氏の理論をベースに、アライドテレシスが開発したものだ。AWCでは完全に自律分散というわけではなく、ゲーム理論にもとづくアルゴリズムによりVista Managerのコントロールで設定する。

 今回の実証実験の結果は、山本氏としても「想定したとおりの結果が得られた」という。また、他社製品で採用している方式とも差別化がなされていることがわかったという。APを3台から5台に増やした件についても、電波密度が高い状況を作り出せて、想定した結果が得られたという。

 今後について、山本氏は「出力とチャンネルを調整してエリアをカバーすることは実現できた。次は、何か起こった時にうまく調整できる方法に取り組みたい」と語った。また、アライドテレシスは「たとえば、昼と夜とでパターンが違うとき、昼にあわせて最適化するような作り込みも考えられる」とコメントしている。

(取材協力:アライドテレシス)