事例紹介
「kintone」を導入した藤波タオルサービスが「これならいける!」と感じた瞬間
おしぼり販売・レンタル業者のIT活用術
(2013/10/11 06:00)
東京近郊にある株式会社藤波タオルサービスの本社に着くと、黒塗りに赤でアクセントを加えた建物が迎えてくれた。藤波タオルサービスは、おしぼりのレンタルや販売、開発などを行っている会社で、失礼ながら地味な印象があっただけに、オシャレな感じの建物にちょっと驚いた。Webサイトでの情報発信も充実し、サイトで漫画「おしぼり人間ドビー君」を連載するなど、新しいアプローチを試みている。
その藤波タオルサービスでは、サイボウズの業務アプリ向けPaaSサービス「kintone」を採用として社内の業務アプリを作成し、営業など現場の人間がアプリケーションを作るという試みも始めている。特にSalesforceからkintoneへ乗り換えたちょっと珍しい事例である。こうした取り組みについて、情報システム室 室長の瀬尾竹蔵氏に話を聞いた。
現社長の号令で社内をIT化
瀬尾氏によると、kintoneの採用から建物のデザインまで、一連の新しい取り組みは現社長の藤波克之氏の号令によるものだという。「弊社はオーナー企業で、現在の社長が9年前に入社してから、かなり社風も変わりました」。藤波克之氏はそれまでIT系の仕事も経験していたとのことで、「センスを大事にする人。即決でリーダーシップをとってくれるので、情報システム部門としてはやりやすい」と瀬尾氏は言う。
それまで、社内には売上入力用のPCが1台あるだけで、メールアドレスも「info@」が1つあるだけ。伝票などの書類もぜんぶ手書きだったという。これを藤波克之氏が変え、1人1台のPCをもたせ、営業や事務のデータを電子化した。
瀬尾氏も同じく3年前ごろに、SEの仕事から藤波タオルサービスに転職した。当時、事務所が工場の三階にあり、営業部・事務部あわせて約20名。情報システム室といいつつ、メンバーは瀬尾氏一人だった。
こうしてPCを入れて、Excelで日報を入力するなどを始めたが、そのデータを活用できていないところだった。そこで、検討のうえ、Salesforceのクラウド型の業務アプリを導入した。「専務(現社長)に相談したところ、即決でした」と瀬尾氏。14ユーザーの契約でスタートした。
簡単さからkintoneを導入、営業部も自分でアプリを作成
ただし、Salesforceを使っていて、社内で使いこなせていない感を瀬尾氏も現社長も持っていた。ちょうどその契約更新のタイミングで、サイボウズから紹介を受けてkintoneを知り、2013年5月に乗りかえた。
乗りかえた決定的な要因として、“試してみて簡単だった”ことを瀬尾氏は挙げる。「Salesforceのときも、項目の追加やレイアウト変更ぐらいのカスタマイズはしていましたが、それ以上のことは難しくてわれわれには手が出ませんでした。kintoneはシンプルで、これならいけると感じました」。現在、kintoneによる業務アプリが7個動いている。
これならいける、ということで、営業部の若手にも業務アプリを作らせてみた。瀬尾氏は少し手伝っただけであとは任せたところ、Salesforceでやっていた物件管理アプリが3日で出来上がったという。「遊び感覚で作れるので、本人も『いいですね』と気にいっていました。彼が成功したことから、ほかの部署の人にも自分たちのアプリを作ってもらおうと考えています。私が作ると、どうしてもシステム屋っぽい作りになってしまうので」(瀬尾氏)。
また、Salesforceでよく使われていたものに、コラボレーションツールの「Chatter」があった。これも現社長の号令で全社で利用し、定着していたという。これを、kintoneの「スペース」に移行した。「Chatterに比べてビジネスライクでなくライトな感じで、コメントのやりとりなども活発になっています。私も趣味のマラソンのことを書いたりして、仕事っぽくない使い方に誘導しています」(瀬尾氏)。
こうして、最初kintoneを20ユーザーで契約し、現在40ユーザーに拡張。瀬尾氏は「もともとChatterの利用を推進していたように、情報共有がずっとテーマになっています。弊社は駅から遠く、みんな自動車で通勤しているので、実は飲み会ができないんです(笑)。そうしたコミュニケーションをどこかで補わなくてはいけないというのもあり、kintoneでの情報共有の活性化を考えています」と語る。
現在使っているグループウェアも、シングルサインオンなどkintoneと一本化できる利点から、サイボウズOfficeへの移行を考えているという。そのため、利用している機能を比較するなどの検討中だ。
営業や配送のスタッフが社外からデータを扱う道を模索
kintone活用の今後の課題として、瀬尾氏は「どんどんインプットしてくれる環境作りが大切だと、ずっと思っています」と語る。スペースでも、活況ではあるが1日1回など時間を決めてアクセスする人も多いという。「昼間は電話注文を受けたりなど忙しいので難しいのですが、もっとリアルタイムに参加してもらうためのツールを作るのが課題です」。
中でも強化したいのは、営業や配送のスタッフが外からスマートフォンなどでアクセスするための仕組みだという。「取引先の情報がkintoneに入っているのですが、それを外から電話して聞いてくるようになっている。これを、外から自分で見られるような仕組みを開発したい」と瀬尾氏。
特に、配送のスタッフは、社内の情報共有から外れがちだという。事務系の人が出社するより前に会社を出発し、夕方になって会社に戻るという毎日のスケジュールで、事務部門と入れかわりの形となる。「現場と事務とで、それぞれの空気がある。それを1つにしていきたい」と瀬尾氏も語る。
配送の仕事は、契約した店を回って、店の前に置かれた使用済みおしぼりの数をざっと見て、同じぐらいの数を置いていく。その数を伝票に記入して、一日の終わりに会社に出す。“何本注文”という形ではなくて、職人技の世界だという。「多い人は、1日に130店ぐらい回る。その伝票を外で、重い箱を運ぶ力仕事の合間にスマートフォンで入力してもらうのは難しく、永遠のテーマですね」と瀬尾氏は言いつつ、「とはいえ、まずはアカウントを出して、入力したらメリットがあるようにするとか、そういったところから始めていこうと思います」。
なお、Webサイトで連載している漫画「おしぼり人間ドビー君」の著者も、配送をしながら漫画家を目指していた人だという。漫画には、配送の仕事の実際や、そこで起きたことなどもエピソードとして織り込まれている。配送のスタッフにシステムを活用してもらうためにも、システムとだけでなく、社内の雰囲気作りや人間関係の面でもさらなる取り組みが求められるのだろう。