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チームを強くする「cybozu.com」に大企業や海外からも関心集まる

「日本のクラウドは負けてない」青野社長は手応え

青野慶久社長

 サイボウズは8日、「cybozu.com カンファレンス 2013」を開催した。基調講演で青野慶久社長はサイボウズが提供するクラウドサービスのインフラ、アライアンスパートナー、NPOから大企業まで幅広い事例などを紹介した。

 基調講演終了後に行った記者会見では、一度撤退している米国市場への再参入と、大企業向けビジネスに取り組む姿勢をアピール。業務アプリ構築クラウド「kintone」が大企業、海外の企業にも好評なことから、「パソコン時代のエコシステムの中心はWindowsだったが、クラウド時代のエコシステムの中心に我々がなることができる可能性は十分にある」と自信を見せた。

 基調講演の冒頭、青野社長は日本のクラウドの普及状況について言及。総務省が発表した「クラウドサービスの利用動向」では、平成23年末と平成24年末の比較で着実に「利用している」と答えている企業が増加。利用している企業を資本金別で見ると、企業規模の大きな企業の利用割合が圧倒的に高いというデータを示した。

クラウドサービスの利用動向
資本金規模別の利用状況

 その一方で「日米で比較すると、日本の利用状況は米国に遅れをとっている。米国のクラウド利用率は日本の1.5倍でやはり先行している」と日本が米国に遅れをとっている現状について言及。「ただし、米国ではNSAが企業のクラウドを盗聴していたといった実態も明らかになっている。それを考えると日本で生まれた、日本で提供されているクラウドサービスならではの良さもあるのではないか」と日本のクラウドサービス事業者としてのメリットをアピール。

 その上でcybozu.comの契約社数が5000社を超えたことに触れ、「これが多いか少ないかは分からないが、少なくともsalesforce.comは6000社にするのに10年以上かかった」と述べ、「クラウドなら日本も負けない。サイボウズを始めたころから世界で勝てるソフトを、と思ってやってきたが、ようやく手応えのようなものを感じ始めている」と自信をのぞかせた。

日米のクラウド利用実績の比較
クラウド Made in Japan

 とはいえ、日本のユーザーがセキュリティへの不安からクラウド導入を躊躇することが多いことから、cybozu.comの運用責任者である山本泰宇氏がcybozu.omのインフラについて説明。「パスワードへの攻撃が増えていることから、サイト側の対策としてIPアドレス制限により正規ユーザー以外はアクセスできないようにする対策を実施するほか、cybozu.com Storeでは二段階認証を採用するなどセキュリティ対策を強化する」とした。

 情報漏洩対策としては、脆弱性情報の早期収集、侵入検知・防止システムの導入、システム管理権限の厳格な管理の実施を徹底することや、バックアップ・リストア、情報公開といったクラウドを利用する際の弱点となる部分も強化し、「クラウドだからあきらめるということがないインフラ運営を目指していく」(山本氏)と説明した。

cybozu.comのインフラ技術
ストアの二段階認証

 このほか、主要サービスのディスク容量を来週から現在の1GBから2GBに増量することを発表。「これからクラウドを利用しようというときに容量で悩ませたくない。今後もチームを強くするクラウドとして機能を強化していく」(青野社長)と話した。

有料契約社数が5000社を突破
主要サービスの基本ストレージ容量を2GB/ユーザーに引き上げ

 さらにチームの定義が多様化していることから、補完的な役割を果たすアライアンスパートナーとしてシスコシステムズを紹介。「サイボウズが苦手なリアルタイムコミュニケーションを実現することができるパートナー」として、シスコシステムズの代表執行役員社長の平井康文氏が登場し、「ITのコンシューマライゼーション、クラウドに続く潮流として“インターネット・オブ・エブリシング”がある。現状ではネットワークに接続された“モノ”は1%だが、今後、繋がっていない99%の“モノ”が人、システムとつながり、新たな価値を生む。こうした3つの潮流の中で、IT部門よりも事業部門がITを活用する時代になる」と話した。

パートナーとのアライアンスを推進

cybozu.comの導入事例を多数紹介

 青野社長はこうした時代の変化を示す例としてcybozu.comの導入事例を紹介した。

 脱毛サロン「ミュゼプラチナム」を運営するジンコーポレーションは急増する会員や店舗を管理するためにcybozu.comを活用。新規出店の際に必要な情報を共有し、提供された情報を社内に戻って稟議・決裁するのではなく、情報があがってから最短12分という短時間で意思決定を行っていくためのツールとして活用している例が紹介された。

 佐賀県の嬉野温泉にある旅館「和多屋別荘」では、新社長への代替わりを機に、社員がトップの指示を待つ体制から脱却することを目的に導入。経営層、社員が情報を共有することで、自発的に作業ができる体制を実現するためにcybozu.comを利用している。

 DIYのネットショップを展開する大都では、情報共有のために導入。従来は紙、メールで行っていた情報共有は、情報の漏れなどを理由にビジネストラブルに発展することが多かったが、そういったトラブルを防ぐことに繋がっているという事例が紹介された。

 情報共有などを目的に導入した例としては悪の組織、ショッカーの事例も紹介された。ショッカーでは世界征服実現のためのツールを検討していたところcybozu.comを知り、導入を決定。「我々も16年間のサイボウズのノウハウを全て注いで、構築を支援した」(青野社長)という事実も紹介された。

 kintoneを使った営業支援の導入事例では、西武ライオンズへの導入事例が紹介された。プロ野球は優勝チームでも勝率は6割が最高で、球場に足を運んでもらったファンへの満足度を高めるために、負けた試合を見ても楽しんでもらえる仕組みを追求。従来はExcelで行っていた情報管理をkintoneに移行し、さまざまなファンサービス構築に取り組んでいる。

 大企業の事例としてはほけんの窓口の毎月100人の新規利用者が登録、急激にユーザーが増加する中でのGaroonを運営する仕組みも紹介された。

 グローバル化を進める企業としてはDeNAが紹介され、相互連携できるAPIをもったサイボウズ製品を利用することで、グローバル化に対応している。

 新しいタイプの導入事例としては、敷島製パンの向上でタブレットを導入し、電子帳票として利用する案件も紹介された。現在、テストを実施している最中だが、現時点では順調に進んでいるという。

 マシン・トゥ・マシンへの導入事例も紹介された。千葉県八街市の太陽光発電所、八街発電所ではそれぞれのパネルにセンサーを取り付け、発電状況を自動的に収集する仕組みを作り、その際にkintoneを利用している。低コストでスタートが可能で、同じ仕組みを農業、介護などの現場に応用できる可能性ももっているという。

 顧客サービス用への活用としては、障がいをもった子供たちの介護サービスを提供する株式会社関西が、社員だけでなく子供の親にIDを付与。子供の日常を報告する仕組みに利用し、よりスムーズな情報共有を実現している。

 情報を共有することで、従来持っていた事務所を持たない仕組みを実現したのはNPO法人のファーザーリング・ジャパン。父親の子育て参加を支援するNPO法人で、事務所をなくしたものの、むしろ情報共有の度合いは従来よりも増しているという。

 日本以外の国でのサイボウズ製品の利用例としては、米国の建設津事務所であるGray建設の導入事例が紹介された。Gray建設では日本企業の米国での工場建設などを担当しているが、企業との関係を強化する仕組みとしてkintoneを活用し、米国での工場建設がどのように進行しているのかなどを報告する手段としても活用しているという。

 また、11月7日付けで戦略的協業を進めることが発表された米Zendeskのミッケル・スヴェーン氏も登場。kintoneを高く評価していることが明らかにされた。

 最後にコクヨファニチャーが社内・社外の人的交流の手段としてサイボウズを利用していることが紹介され、これまでサイボウズ製品の導入が進んでいなかった大企業での導入事例が着実に増えていることがアピールされた。

“リベンジ”の海外展開「来年から本格的に取り組む」

 会見後に行われた記者会見では、基調講演の内容を補完する説明が行われた。

 今後の課題のひとつである、大企業への導入については、有料契約者数5000社のうち、東証一部上場企業への導入が84社、日経225のうち18社となり、着実に大企業での利用が増えていることが紹介された。

 「これまで当社にも知見がなく、実績を作ることも難しい、見えない壁のようなものがあったが、それが少しずつ変わってきている」と青野社長が大企業での導入増加に意欲を見せた。

 「来年から真剣に取り組む」と基調講演でも言及された米国市場への再参入、中国市場での本格的展開については、「米国の企業にも、こういう製品が他にはないということでkintoneが評価されている」とし、kintoneを切り口に米・中国市場に取り組むことが説明された。米国市場へは一度参入したものの撤退した過去があるが、「前回は文化的要因を無視ししてアピールを行って失敗した。インテルのように、文化に関係ないレイヤーで勝負したい」と従来とは異なる切り口で取り組む。そのためにZendeskのようなパートナー企業との連携も強化していく。

 また、パートナーとの連携については、「工場への導入、マシン・トゥ・マシンといった分野への導入は我々の理解の範疇を超えている。専門分野への知識があるパートナーと協業し、多彩なニーズに応えられるように努めたい」と新規分野へ切り込む武器とすることも明らかにされた。

三浦 優子