事例紹介
業務アプリのXP依存という“呪縛”をkintoneで振り払った川島不動産
(2014/2/17 06:00)
Windows XPサポート終了が間近に迫っている。以後、セキュリティアップデートは提供されず、移行しなければ思わぬリスクを招きかねない。しかし、特定の業務アプリがXP上でしか動かない――いわゆる“XP環境依存”問題により、移行したくてもできないケースもある。そんな呪縛のような問題を、サイボウズの業務アプリ構築クラウド「kintone」で解決したのが、株式会社川島不動産だ。
kintoneを導入するきっかけや、現在どのように活用しているのかについて、同社の伊地知理氏に話を聞いた。
紙による情報管理が限界に
川島不動産は、京成電鉄本線・勝田台駅から徒歩5分ほどにある地域密着型の不動産会社。昭和45年創業で、勝田台に団地ができはじめたころから地域の不動産を管理している。現在社員は9名。物件の賃貸・売買双方を手がけ、創業以来「家主への送金期限を厳守する」など基本的な信頼感を大切にしてきたという。
訪問すると、ピンク色の建物が来店者を出迎え、木目調インテリアのぬくもりで包み込む。キッズスペースもあり、都内駅前の不動産屋とは異なる落ち着いた雰囲気がまさに地域密着型といった趣きだ。
そんな川島不動産が、kintoneを導入したのは2011年末。業務効率化のための情報共有の仕組みが必要となったのが背景だった。
「膨大な物件情報、写真、入居中などのステータス、各種契約用紙など、不動産会社には管理する情報がたくさんあります。これらを以前は紙で管理していました。最終的に賃貸管理システムや不動産ポータルに手入力するわけですが、紙をどこに保管したか、迷子になることも。かゆいところに手が届いていませんでした」(伊地知氏)。
2011年9月に川島不動産に入社した伊地知氏には、以前の職場でITシステム担当者の経験があった。その経験を生かし、入社後すぐに情報共有の仕組みづくりに踏み切った。
「Excelはファイルの誤削除や版管理の煩雑さが問題。CRM・SFAなどは高機能すぎて、覚えられず結局使わなくなる恐れがありました」(同氏)。
そこで検討したのが、Webデータベース「サイボウズ デヂエ」のようなシステムだった。「とはいえ、デヂエも一見すると難しそうで正直足が竦んでいました」と同氏。ところが2011年秋の展示会に行ってみると、そこにあったのは「kintone」。デモンストレーターに「今はこれなんですよ!」とデモを見せてもらうと、「3分間クッキング」のようにまたたく間にアプリが完成。「分かりやすくて臨場感あふれるデモでした。デモンストレーターの方も若い女性でシステムに詳しい様子ではないのにさくさくと作っていたため、これなら自分たちでも使えると思った」(同氏)という。これが運命の出会いとなった。
XP依存の“呪縛”をkintoneで振り払う
展示会後、1カ月間のトライアルを実施。迷うことなく使えたことから、12月には導入を決めた。導入後、最初に取りかかったのは、日報管理システムの刷新だ。このシステムはWindows AccessでSIerに構築してもらったもので、XP上でしか動作しないものだった。そのため、社内のPCリプレースの波に乗れず、XPマシンが1台だけ、このシステムのために取り残されていた。
「日報なので朝一番に書く、というわけにはいきません。夕方から夜に利用が集中して、そのあと飲み会だったとしても前の人が終わるのをじっと待ってなければならず、ストレスというか、あまり気分のいいものではありませんでした」(同氏)。
同システムでは、その日に担当した顧客のうち、新規が何人、リピーターが何人、申込に進んだケースは、自社物件が何件、他社物件が何件といった数値の報告を各人が行う。「このあたりを作るのに試行錯誤しながら、デザインも含めて1時間ほどで作成しました」(同氏)という。
結果、取り残されていたXPマシンはお役御免となった。伊地知氏は「その当時、XPサポートが終了するということを強く意識していたわけではなく、1台のみとなった日報管理システムを効率化するためでした」と語るが、この事例から、kintoneがXP移行問題にも有用だということが分かる。
クラウドサービスなので導入に時間がかからず、アプリの作成もユーザー自身で「1時間」ほどでできてしまう。もちろん、システムの特性によってはkintoneへの移行が難しいケースもあるだろうが、極端な話、4月を過ぎて本当の意味でサポート終了が目前に迫ってからも対応が間に合ってしまう。音速以上で飛ぶ「kintone(筋斗雲)」らしいメリットだ。
すでに合計25個ものアプリを開発
次に取りかかったのは、来店した顧客情報の管理だった。同社では来店者に、氏名や現住所、探している物件の条件などを紙に記入してもらう。この情報を繁忙期が過ぎたあとで分析するためにデータ化するのだが、都度何百枚ものカードを業者にお願いしてデータ化し、分析も都度要望を出してレポートを提供してもらっていたという。手間がかかるため、当然、繁忙期の最中に分析することは不可能だった。
「これを解決するためにも、kintoneを使ってみようと思いました。kintoneに情報を入力してしまえば、レポート機能を使って、例えば(川島不動産の所在地である)八千代市からのお客さまはどれくらいか、千葉県内からはどれくらいかなど、さまざまな分析をリアルタイムに行えるようになりました」(伊地知氏)。
これ以降も「思い立ったものをその場で作るというイメージ」でアプリを量産。2014年1月までに実に25個ものアプリを作成した。
賃貸日報 | 賃貸来店カード | 賃貸物件管理 |
賃貸募集準備 | 賃貸オススメ物件 | 入退去工事管理 |
売買媒介物件情報 | 売買取引管理 | 売買お客さまカード |
売買ホームページ(2013) | HPリニューアル課題管理 | 新規管理物件 |
セミナー集客 | セミナー来場者管理 | キャンペーン応募管理 |
支払管理 | 仕入用物件データベース | 駐車場 |
更新管理 | オーナーファイル | 社員ファイル |
住所ファイル | 元付会社管理 | 連絡先 |
タスク管理 |
伊地知氏は「売買取引管理を記録していくものは、過去のデータもすべて投入しました。当社が売買にかかわった際には、あとから調査が入り確認の必要が出てくるので、過去のものも含めてクラウドで誰でも閲覧できる効果は大きいですね。Facebookキャンペーンを実施したときには、いいね!分析にも活用。とても便利なアプリができました」と、愛着たっぷりという感じで語る。
最も効果を実感したことはと聞くと、「kintoneでは古い情報について問い合わせがあってもパッと分かる。以前は紙でしたから、担当者の記憶をたどって、保管されている場所を探す羽目にもなりました。事態をすぐに把握できるようになったのは大きいです」と回答。「今はもうあまり使っていないものもある」というが、それだけ手軽にその時々に応じたアプリを作ってこれたということでもある。従来型のシステム開発ではそうはいかない。
また、最初は伊地知氏1人で使っていたkintoneだが、特に何を教えたわけでもないのに、途中から社員の1人がおもむろにアプリを作り始めたという。「売買取引管理はわたしも知らないうちにできていました。ユーザーの要望を詳しく反映させるためには、やりたい人が作るのが一番。そういう意味でも効果が出ています。社員全員が作るのは、業務の割り振り的にも現実的ではありませんが、やってみようと思った人なら、誰でも納得のいくものが作れる」(同氏)。
――ドラゴンボールの「筋斗雲」は心が清らかでないと乗れないが、サイボウズの「kintone」はやろうと思えば誰でもアプリを作れる。そんな、筋斗雲とくらべたkintoneの優位点も実感できる話だ。
今後もスマホ連携など色々模索
今後は、アプリケーション間でデータ連携する「ルックアップ」の活用も進めたいという。「不動産業界ではオススメの賃貸物件などで他社のデータベースと連携することも多い。当社の物件ではないときに管理会社はどこだろうとすぐに把握できるといいですね。現状、kintoneのルックアップ機能で多少できてはいますが、使い勝手の部分でもう少し手を加える必要があります」(同氏)。
また、スマホアプリの活用も模索する。「例えば、物件情報を新規に登録する際に、物件の写真をたくさん撮るわけですが、今はコンパクトデジカメを使っていて、複数の物件もたまってきたときに、室内のみしか撮っていなかったりして、あとでどれがどこかを把握するのが大変な時も」(同氏)。
kintoneにはスマホアプリが用意され、撮った写真を随時アプリに登録していける。この機能をいかに活用していくか、これはまた今後のチャレンジとなる。
ほかにも、将来的に新店舗を構えたときの情報共有について、「現在、取り扱い物件の空き室状況を壁のホワイトボードにすべて書き出しています。この情報に関しては、PCの画面で見るよりも、全員がパッと見で把握できるこの方法が最適なので、新しい情報を常に手で書き換えています。ただ、これだと別の店舗ができたときに共有できない。これはkintoneを使ってということだけではないかもしれませんが、例えばホワイトボードを証券取引所にあるようなディスプレイに置き換えるなど、対策を考えておくことは必要かもしれません」などと語ってくれた。
XP依存だった日報管理システムの刷新からはじめ、あれよあれよと25種類ものアプリを作成。「賃貸管理システムなどの基幹システムは他社システムとも連携するため、すべてをkintoneに置き換えるのは難しいですが、本当にかゆい所は基幹システムのすそ野に広がっているもの。今後もkintoneを使って、そこを改善するアプリを作っていければと思います」と伊地知氏。kintoneでの旅路は続いていく――。