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ネットワーク統合管理製品がAI/MLと連携すればデータ活用の新たな道が拓かれる

クラウドコンピューティングやテレワークの普及により、それがもたらす利便性と引き換えにITインフラ関連の管理の負担やコストが増大している。アライドテレシスは2023年2月3日、ITインフラ管理の負担を軽減する新ソリューション「AMF Plus(エーエムエフ プラス)」の提供を開始した。AMF Plusのコンセプトや機能、メリット、活用方法などについて、アライドテレシス上級執行役員 Global Product Marketing本部 本部長 佐藤誠一郎氏に話を聞いた。

アライドテレシス株式会社
上級執行役員
Global Product Marketing本部
本部長
佐藤誠一郎氏

発表から10年で新たなフェーズに

 「AMF Plus」の前身となる「AMF(Autonomous Management Framework)」は、遡ること10年前の2013年2月にそのコンセプトが発表された、アライドテレシス独自のネットワーク統合管理フレームワーク。コアスイッチやルータをAMFマスターに設定することで、配下のスイッチ(AMFメンバー)すべてを1台の仮想的なシャーシスイッチ化し、ネットワーク全体の一元管理や運用・管理の自動化、簡素化を実現する。

 AMFは2013年4月に同社のコアスイッチ製品「SwitchBlade x8100シリーズ」へ搭載が開始されて以来、ユーザーの声を取り入れながら機能の拡張、強化に努めてきた。これまでアライドテレシスのコアスイッチ製品を導入した企業のうち、1/3以上がAMFを導入しているという。

 AMFでとくにユーザーから好評なのは、「自動構築(マスターとなる機器にあらかじめ登録しているファームウェアや設定ファイルを、機器の追加時に接続するだけでマスター配下の機器に自動で適用する)」や「自動復旧(ファームウェアのバージョンアップや、設定の復元などの作業を自動で行うため、機器の故障時は工場出荷状態の機器に交換するだけで、自動的にネットワーク設定が復旧する)」といった運用・管理に関する機能だ。

例えば機器が故障した際に代替機を接続するだけで、マスターとなる機器に登録してあるファームウェアや設定ファイルが自動で適用される

 「ネットワークの運用・管理を容易にする機能がとくに高評価をいただいています。ネットワークの拡張や復旧時に、ファームやコンフィグなどを事前に設定する必要なく、工場出荷状態の予備機を挿すだけで済みますので、ネットワークに詳しい担当者がいないお客様でも容易に拡張や障害からの復旧ができます」と佐藤氏は言う。

 AMFが目指したのは、テレビのように電源に差してスイッチを入れれば、特別な設定をしなくても利用できるという、シンプルで簡単なネットワークの世界を創ることだ。この思想に沿ってネットワーク運用・管理の簡素化を実現してきたAMFが今回、新たなフェーズに入った。それが「AMF Plus」だ。

新たなネットワークの活用を提案

 AMF Plusは、AMFの持つ基本的な機能を発展させつつ、新たなネットワークの活用を提案する。その最大の特徴は「AI(人工知能)/ML(機械学習)」を組み合わせている点だ。

AMF Plusは従来のAMFの機能にAIとMLを組み合わせている

 アライドテレシスではかねてから、ネットワークの運用・管理にAI/MLを生かすことを考え、開発・検証を続け、製品化に向けて動いてきた。2016年には、AI/MLを活用して自律的に最適な無線LAN環境を維持する「AWC(Autonomous Wave Control)」を発表し、多くの顧客に利用されている。

 「AWCは京都大学との産学連携による共同研究の成果で、アクセスポイント同士が連携してチャンネルや電波強度を自律的に調整することで、快適な無線LAN環境を維持します。AI/MLを使っていますが、これはあくまで無線LANのために開発した技術です。これを有線のネットワークに生かせないかと研究・開発を続けてきました」と佐藤氏。

 2021年には、インテント(意思)ベースでネットワーク管理の自動化を実現する「AIO(Allied Telesis Intent Based Orchestrator)」を提供開始。AIOもAI/ML技術を活用しており、これとAMFを組み合わせた形がAMF Plusの原型となっている。

AI/MLとの連携で広がる可能性

 AMF PlusはAI/MLを活用、あわせてネットワークに流れるデータやログを集積することで新たな価値を創造し(Unlimited Value Innovation)、自ら進化する安全で高機能なネットワークを実現(Beyond Ethernet Limitation)。また経験豊富なネットワークエンジニアのようなITインフラの自律的な運用管理の支援を実現する(Intent-Based User Experience)。

 「Unlimited Value Innovation(無限の価値創造)」は、ネットワークを流れる多種多様なデータを掛け合わせることで、これまで限られた用途にしか使われていなかったデータに新たな価値を持たせる。さまざまなデータをマッチングさせることで、新たなサービスやビジネスの創出、地域・行政・医療などの改革に繋がる。

 「Beyond Ethernet Limitation(イーサネットの制限を超えて)」は、AI/MLを用いて予防保全の仕組みを新たに採り入れることで実質的な「ゼロ秒ダウンタイム」を可能とする。認証機能においても、デバイスの接続直後に誰からのアクセスなのか、どのようなデバイスなのかをAI/MLが明確にし、適切なセキュリティ権限を割り振るなど、自ら進化する安全で高機能なネットワークを実現する。

 「Intent-Based User Experience(意思に基づくユーザー体験)」は、経験豊富なネットワークエンジニアの暗黙知で行っていたタスクをAI/MLで形式知化し、自動的に処理する。ネットワーク全体を可視化し、より早く異常を検知する「ネットワークヘルスチェックモニタリング」や、アクセスポリシーをマトリックス形式で可視化、自律最適化を行う「スマートACL」、ネットワーク全体の優先制御のバランスを取り、完全かつ高品質な通信を実現する「インテントベースQoS」といった機能が提供される。

他社製デバイスの情報が収集可能に

 AMFとAMF Plusの大きな違いについて佐藤氏は、「AMFは基本的に当社のデバイスを管理・制御するためのものだったのに対し、AMF PlusはAI/MLの活用により他社製デバイスの情報をより活用できる点です」と語る。

 AMFでも他社製品の認識はできていたが、あくまでネットワーク機器として認識できているだけだった。AMF Plusは新たに「デバイスディスカバリー」機能を提供。ネットワーク内の他社製デバイスが“いつ、どこで、どのように”使われているか?までを収集して活用できるようになる。

 「AI/MLを活用すれば、これまで以上の情報を収集できます。機器の種類や名称だけでなく、その内部のCPUやメモリの状態まで取得して、予兆管理などに使うことができるようになります」と佐藤氏は言う。なおデバイスディスカバリー機能は今夏提供開始の予定だ。

 この他社製デバイスも含め、さまざまなデータを活用できるということは、予兆管理だけでなく、まさに新しい価値を生み出すためにも活用できるとアライドテレシスは提案する。

 例えば、「あるデバイスからの情報が一定の閾値を超えたら、別のデバイスで何らかのアクションを取る」といったことを実現する場合、従来であればそのための開発や投資が必要だったが、AMF Plusなら容易に実現できる。

 「どのようなアクションを行うかを設定するスクリプトの様なモノを用意して行きたいと思います。何かの場合に、何らかのアクションをとるといった設定が容易に行えます。簡単なアクションなら1行で設定できます」と佐藤氏。

 病院での利用を考えてみよう。例えば、点滴のためのシリンジポンプが一定以上に傾いたら、ナースコールを鳴らすというアクションだ。シリンジポンプの傾き情報を取得して、閾値を越えて傾いた場合には患者が転倒した可能性があるということで、ナースコールを鳴らすのだ。

医療現場におけるAMF Plusの活用例

 AMF Plusならこうしたアクションをほんの数行のスクリプトを書くだけで設定できる。追加の開発や投資は不要だ。「デバイスディスカバリーにより他社製デバイスと容易に連携できることで、これまで以上にデータを生かした、新しい価値の創造がしやすくなります」と佐藤氏は言う。

便利を実感できる仕組みを提供

 AMF Plusの活用例を、検証事例をもとに紹介する。まずイシダの外来患者案内システムと連携するケースだ。

 イシダの外来患者案内システムは小型の受信機で、診察の順番や診察室の場所、会計の予告案内などを提示する。次はレントゲン室、次は採血、など複雑で分かりにくい案内を手元の受信機で指示することで分かりやすくするほか、待機エリアの制限が無くなるため、院内のテナントの活性化にもつながるものだ。

 この外来患者案内システムにAMF Plusを利用することでさらに用途が広がるという。

 「この例では当社の無線LANソリューションであるAWCなどを使っていますが、無線LANのクライアント(受信機)の位置情報と、その患者さんの情報をAMF Plusで繋ぎ合わせることで、さらに活用が拡がります」と佐藤氏はいう。

 他にも資産管理での活用として、通常の資産管理では購入時期からの期間で更新時期などを決めるが、「AMF Plusで詳細な情報をとることにより、実稼働時間や劣化状況から更新時期を決めるといったことも可能です」と佐藤氏。また温度センサーの情報をビル空調システムと連携する、教育現場で生徒・児童の出席データや成績データから定量的な評価結果を出して自動的に成績表を作成するなどといった検討例もあると佐藤氏。

 「AMF Plusにより、これとこれを繋いだら良いことがあるんじゃないか、アレンジを少し加えたら便利になるんじゃないかという気付きを得てもらえると考えています。AMF Plusのコンセプトとして注意したのは、“できるだけお客様の目に見えて実利がある、便利だと見てわかっていただけるような仕組みを提供する”ことです。今のAMFをさらに進化させ、そしてデータマッチングにより新たな価値が生まれます」と佐藤氏はいう。

 将来的にはさまざまな活用例をパッケージ化して、例えば業界別、業種別などで展開していきたい構えだ。

製造業におけるAMF Plusの活用例

 「スクリプトやSyslog、APIにより接続や連携を取ることは、それほど難しくなく実現は可能ですが、データ活用は使いやすさを考える必要があります。例えばGUIやWebの画面など、アプリケーション面の作り込みなども求められます。当社でもAT-Vista Manager EXというネットワークの管理ツールを提供していますが、データ活用ではデバイスのメーカーやSIerとの協力も得ながら進めていきたいと考えており、現在新たなパートナーを募集しています」と佐藤氏は今後の展望を語った。

 AMF Plusは今後、顧客の要望なども取り入れつつ、ますます機能拡張や追加を進めていくという。今後のAMF Plusの進化に注目だ。

<お問合せ先>
アライドテレシス株式会社
https://www.allied-telesis.co.jp/