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データ分析で環境変化に対応!~ノーチラス・テクノロジーズが明かす小売2社による販売予測と原価シミュレーション事例
データ[活用×流通]フォーラム2022レポート
2023年1月13日 09:00
データはSociety 5.0に代表される超情報化社会における石油とも言われ、経済や社会にとって重要かつ高い価値を生み出すものと考えられている。また、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進に欠かすことができない要素でもある。2022年10月20日には、「データ[活用×流通]フォーラム2022 ~データがつながる、共創する! データ流通による活用高度化・その最新動向と事例を探る~」が開催された(主催:データ【活用×流通】フォーラム実行委員会、一般社団法人データ社会推進協議会(DSA)、株式会社インプレス クラウドWatch)。
本フォーラムのノーチラス・テクノロジーズのセッションに、代表取締役社長 目黒 雄一氏が登壇。「データの活かし方を事例を通じて考える ~流通業の販売予測とシミュレーションの事例から~」と題して、小売企業の販売予測と食品製造業の原価計算の事例を紹介した。
1000店舗を展開する小売企業が、機械学習による販売予測システムで出した「成果」
小売業におけるデータ活用の歴史は古い。多くの企業が、POSデータや気象データを用いた販売予測や、原材料費データのシミュレーションによる原価計算などに取り組み、売上の拡大や利益率の向上を目指してきた。ただ、消費性向の変化や気候変動、地政学的な環境変化のなかで、データ分析の取り組みはますます困難になっている。一方、DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが加速するなかで、データ分析への期待はかつてないほど高まっている。
そんななか、小売企業を含む多くの企業にデータ分析やITシステムの知見とノウハウを提供し、顧客の成長を支え続けているのがノーチラス・テクノロジーズだ。目黒氏は講演のなかで、小売企業2社の事例を取り上げ、データ分析のポイント、実務へ適用するメリットや成果、データ活用の取り組みで得られた示唆を解説した。
1つめの事例は、1000店舗以上を展開するある小売企業が、POSデータなどを使って販売予測に取り組んだ事例だ。同社が抱えていた課題は、1人の発注担当者が50店舗を担当するなど発注業務が煩雑なこと、人手不足が予想されるなか自動化して限られた人材を有効活用する必要性に迫られていたこと、AIによる販売予測を行い結果次第で本格導入したいというものだった。
「作業効率の向上とロスの削減を目的に掲げ、まずは単品の予測からスタートし、続いて特定店舗の商品での試行、最後には実際に発注数への反映まで、段階的に進める計画を立てました。予測は、1週間先までの販売予測を店舗単位の製品(商品コード)ごとに行いました。利用したデータはPOSデータ、商品マスタ、特売・店舗関連マスタ、天候・気温・不快指数などのオープンデータです」(目黒氏)。
この販売予測システムは、前処理として日次データと蓄積データ、外部システムから連携した天候予測データを統合して予測に必要なデータを準備。それらデータを複数のアルゴリズムで機械学習処理を行ない、より最適となる未来の販売数を予測して、現場の担当者に提供するというものだ。
PoC段階で良好なデータ分析結果を得ながらも、本番への導入を見送ったワケとは
実施したPoC(Proof of Concept:概念実証)では、特定商品・特定店舗の商品について、それなりに販売の傾向をとらえることができた。予測ができたものについては販売数と予測の結果が近似値となり、一部の製品に対して効果がありそうだと判断できた。そこで次に、店舗での予測をもとに、実際に1ヵ月にわたって発注を試行したという。
「その結果は示唆に富むものでした。システムの予測通りに発注して、売り場を運営することはできました。ロスが減って、利益が増えました。しかし一方で、販売数は減り、売上は下がりました。予測が正解なのか、それとももっと発注すればもっと売れたという機会ロスが発生していたのか判断できず、現場側の意見で、発注数を予測プラス1として再び2週間実施したものの傾向は変わりませんでした。つまり、利益をとるか、売上をとるかという経営判断が必要な事態になったのです」(目黒氏)
小売企業にとって、利益を追求するためには、作業効率化とロスの削減は重要だ。一方で、薄利多売なであるため売上拡大も重要だ。予測通りに運用するのか、予測を参考値にとどめ売上拡大を目指すのか、データ分析の結果が良いからといって、必ずしも実務に適用できないことを実感したという。「本格的に利用するためには、社員の評価基準が売上拡大か効率化なのか、経営として何を重要視するか、評価も含めた制度との関わりをどうするかなど、利用するための決めごとが必要になってきます。簡単には結論は出せないということで、このときは、本番導入を見送ることになりました」(目黒氏)。
見送りの判断には、ITシステムの構築・利用コストも大きく影響した。機械学習をするためのITコストは通常より高いスペックが求められる。また、分析のために1商品5分かかるため、店舗の数万点の商品を1000店規模で実施すると、分析が1日で終わらない可能性があった。さらに、季節ごとにかわるJANコードの変換・整備作業や、機械学習のための前処理、POSデータやマスタとの連携なども必要だった。今後、全社的に展開していくと、システム規模や運用コストが大きくなっていくことが予想され、どのタイミングで投資するか判断が難しかったという。
ベーカリー「アンデルセン」の原価計算システムを構築、利益を守る工場運用に貢献
2つめの事例は、ベーカリー「アンデルセン」を展開する食品製造業のアンデルセンにおける原価計算システムの導入事例だ。アンデルセングループにITサービスを提供するアンデルセンサービスでは、ノーチラス・テクノロジーズが提供するHadoop上で大規模な基幹バッチ処理を行うためのフレームワーク「Asakusa Framework」を導入し、これまでにさまざまな成果を上げてきた。
「アンデルセンでは、複数の工場で製造しているパンの原価計算を、AWS上に構築した原価計算システムを使って行っています。工場にある製品の情報、マスタ、レシピ、品質の情報などクラウド上に集め、それをHadoopで処理することで、それまでオンプレミスのデータペースシステムを使って4時間かかっていたパッチ処理を20分で終わらせられるようになりました」(目黒氏)。
原価計算は、110万の原材料、3000品目の原価をツリー構造にした積み上げ計算を実施するもので、もともとは週2回実行するのが限界だった。クラウドに移行しバッチ処理を高速化したことで、原価の見える化システムとして活用できるようになった。
「もともとはSQLでBOM(Bill Of Materials:原材料表)のデータ処理を行なっており、SQLのチューニングによる高速化には限界があったため、外に出して分散処理で高速化しました。システムでは、製品の原価を時系列で表示して、想定原価と実際でどのくらい差異が出たかを表示できます。また、部門、製品別の原価と製品ごとの数量の差異も時系列で分かります。画面からデータを呼び出すときには、テーブルの結合(Join)などを行うと処理が遅くなるため、集計しか行わないような設計としました。DWH(Data Ware House:データウェアハウス)を使わずとも、MySQLで十分に利用可能な仕組みになっています」(目黒氏)
原価計算システムにより、原価割れが起きていないかチェックし、原価の変動と生産を結びつけて調整を細かく行ない、利益を守る工場運用に貢献しているという。
コロナ禍や円安などの大きな環境変化にあって、原価シミュレーション機能が真価を発揮
さらに、このアンデルセンの原価計算システムには、導入から2年ほどして、新機能としてシミュレーション機能が追加された。シミュレーション機能とは、システムで原価計算する際に行う、理想の原価と実際に投入したあとの実績比較において、入力する項目を変えながら原価計算できる仕組みのことだ。
「例えば『小麦粉の値段が10円上がったらどうなるか』をシミュレーションできる入力フォームを作り、そこに値を入力すると、原価が上がったときのシミュレーションができます。この機能を作った経緯は、東日本大震災の際に、東北地方から仕入れていた材料が風評被害で仕入れることができなくなり、別の場所から仕入れるときにどう価格が変わるかを知るためでした」(目黒氏)。
シミュレーション機能は、導入からすぐに「売価はこれでいいか」「もっとコストカットできる箇所はないか」などを探るために広く利用されるようになった。特に、シミュレーション機能を備えた原価計算システムの真価が特に発揮されるようになったのは、昨今の“円安”が加速しはじめてからだ。
「海外からの仕入製品の価格が高騰し、『どこまで売価が今のままでも耐えられるか』『どのラインまで値上げをする必要があるか』など原価計算の想定が非常に重要になりました。今では、原価シミュレーション機能はフル活用されています。仕入価格を変更して計算のバッチを実行するだけで利用でき、計算処理も速いので、すぐに結果がわかります。いつでも実行できるので、経営判断を素早く行うことができます」(目黒氏)
何年も前に構築したシステムが、ここにきて経営に大きく役立つものになったことに対し、目黒氏は「先まで考えて仕組みを作ることが重要だと実感しました」と振り返る。
現在は、大きな環境変化が絶えず起こる時代だ。何が正解か誰にもわからないなかで、取り組みを進めていくためには、素早い分析や判断が重要になる。ノーチラス・テクノロジーズでは、「事業活動で発生するデータをいかに効率的に処理して活用するか」にこだわり、分散処理フレームワーク「Asakusa Framework」のほか、単一ノードで並列処理するエンジン「Asakusa on M3BP」や開発中の次世代型データベース「劔(Tsurugi)」などの自社プロダクトを中心に、データ加工処理のアプリケーション開発、データ基盤の構築支援、クラウド環境構築支援などを行なっていく構えだ。
最後に目黒氏は、「世の中の大きな変化にともない、ITの技術も変わってきています。DXの取り組みではデータ活用が鍵になります。ノーチラス・テクノロジーズでは、クラウドや分散処理の活用を支援しながら、企業がデータを使い切ることに貢献していきます」と述べ、講演を締めくくった。
<お問合せ先>
株式会社ノーチラス・テクノロジーズ
URL:https://www.nautilus-technologies.com/