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薬事業界向けパッケージソフトをSaaSに大転換 コンテナ活用を加速させたユニオンシンク×JTPの共創
- 提供:
- 日本アイ・ビー・エム株式会社
2022年11月11日 09:00
業界特化型のソリューション展開で存在感を強めているユニオンシンク(大阪市)と、最先進の技術とサービスで顧客の変革イネーブラーを目指すJTP(東京都品川区)。共に日本IBMのビジネスパートナーである両社がタッグを組んだ「共創」の中身とは──。双方のキーパーソンに話を伺った。
中堅以下の企業でも利用できるクラウドサービスへ
──ユニオンシンクではこのほど、医薬品業界・医療機器業界・化粧品業界向けの品質管理ソリューション「品質デザイナー for GxPクラウド」と、文書管理ソリューション「文書デザイナー for GxPクラウド」をリリースされました。まずは、この狙いからお聞かせいただけますか。
下川原: 2つのソリューションは、元をたどると弊社の自社開発パッケージソフト「デザイナーシリーズ」の一環としてオンプレミスで提供してきたものであり、今回は、それらをクラウドサービス化したという位置づけにあります。薬機法(旧薬事法)の下で遵守しなければならないことは多岐にわたり、パッケージと言えど導入に高いハードルがあることが従来からの悩みでした。導入時のSE工数が膨れて、中堅以下のお客様には厳しい価格レンジになってしまうんです。
この課題にフォーカスし、お客様層の裾野を広げられるように舵を切ったのが今回のクラウドサービス化です。1ユーザー単位で契約することができ、サブスクリプション型の月額料金で気軽にご利用いただけるのがメリットです。
──とはいえオンプレミスで提供してきたパッケージを単にクラウド化しただけでは、初期導入コストやランニングコストを削減することはできません。どんな技術課題をクリアすることで、お客様に対するコストメリットの還元を実現できたでしょうか。
下川原: そこが一連のプロジェクトの核心です。JTPさんのお力を借りながら、一方では自分たちも知識やスキルを高めることに努め、コンテナ技術の活用にチャレンジしました。一社だけでは決してなし得なかったことを二人三脚で、さらに背後では日本IBMの支援もいただきながら完遂することができたんです。まさに“共創”ですね。
元々、ユニオンシンクもJTPさんも日本IBMさんのパートナーコミュニティであるBAC(ビジネス・アライアンス・コンソーシアム)のメンバーで、月例会などを通じて顔見知りの間柄でした。そうした場では、自分たちのビジネス課題をざっくばらんに明かしながら情報交換するのが通例であり、一つのアイデアとして出てきたのがコンテナ活用だったのです。
もっとも、コンテナの概念は理解できても、私たちに直接どう役立つのかは見通せず、まるで霧に囲まれたような状態でした。ここで視界をクリアにしてくれたのがJTPさんです。同社はコンテナ共創センターの幹事企業も務めるなど、この領域について豊富な知識や見識を持っており、私たちにも使える技術なのかどうか常に相談に乗ってくれました。
岡本: もちろんJTP側としても、最初から“コンテナありき”で提案したわけではありません。あくまでも中立的な目線で臨んだのですが、詳しいお話を聞けば聞くほど、「コンテナにチャレンジする価値がある」という思いが大きくなり、アプリケーションモダナイゼーションサービスをご提案しました。
下川原: あらためて伺いたいのですが、どんな点で私たちの課題解決にコンテナがフィットすると考えたのでしょう。
岡本: 今回、クラウド化に着手したのは「品質デザイナー for GxP」と「文書デザイナー for GxP」の2つですが、私たちが注目したのはデザイナーシリーズにはそのほかにも多くのパッケージがあり、基本的に同じアーキテクチャで作られていたことです。将来的にこれらのパッケージをクラウドサービス化していくことを考えたとき、個別にインスタンスを立ててしまうとその数だけ独立したリソースを用意しなければなりませんが、コンテナを使えばリソースを共通化して集約することができます。
もう1つが運用の効率化です。Kubernetesの技術を活用すれば、仮にコンテナにトラブルが起きた場合でも自動的に再起動させるなど運用の作業負荷を抑えることができます。
導入コストとランニングコストを最小限に抑えることを喫緊の課題とされていたユニオンシンクさんにとって、コンテナを活用することが最適という考えに至り、提案させていただきました。
現行のパッケージを実際にコンテナに乗せてみる
──なるほど。そうして両社が結び付くこととなり、まずはPoCを開始したというわけですね。
下川原: 流れとしてはその通りなのですが、私たちが当初思っていたPoCとはかなりイメージが違いました。座学のようなことから始めるものと考えていたのですが、そうした基礎部分に関しては数百ページもあるeラーニングのテキストを渡されて、「自分たちで勉強しておいてください」と(笑)。
古賀: たしかに最初は教材のボリュームにたじろぎました。ただ、当然のことながら開発エンジニアとして私も以前からコンテナには強い関心を持っていましたので、こうしてしっかり学べる機会を得られたのは、とてもありがたいと思いました。
坂田: 古賀さんは本当に熱心にコンテナを学んでいただき、私たちとしてもとても助かりました。実のところ当初の想定では、基本的な事例をテンプレートとしたシステムづくりからPoCを始めようと考えていました。しかし、古賀さんたちがコンテナに関する知識や技術を猛スピードでキャッチアップしている状況を目の当たりにして、ならば現行のパッケージを実際にコンテナに乗せるところからPoCを始めようと方針を改めたんです。
井上: 経営陣からもデザイナーシリーズをクラウドサービス化するという基本方針がすでに示されていましたので、商品開発室としてはそれをできる限り短期間で実現することがミッションとなります。その意味でもJTPさんが臨機応変な形でPoCをリードしてくれたことは、当プロジェクトにおける最大の貢献ではないでしょうか。
成功要因としてあったパッケージのモダナイズ
──わずか1カ月という短期間でPoCを終え、クラウドサービス化を実現した背景には、このような取り組みがあったのですね。
下川原: もっとも、私たちにとっては想像以上のスピード感です。最初にJTPさんに相談を持ち掛けた際に、「コンテナに乗せるにはプログラムの改修が必要となるため通常は最低でも1年はかかる」と聞いており、実際に他社の事例でもそれくらいの時間軸のものが多かったので、私たちも覚悟を固めていました。ところがPoCに入ってパッケージをコンテナに乗せてみると、完全とは言えないまでもそれなりに動かすことができました。これで以降の取り組みに一気に弾みがつきました。
岡本: その鍵となったのが先に申し上げたアーキテクチャです。ユニオンシンクさんでは最近になってデザイナーシリーズをモダナイズされていたのこと。
下川原: 仰る通りです。デザイナーシリーズを最初にリリースしてからかなりの年月が経過していました。そのためアーキテクチャは時代の潮流に取り残され、セキュリティ対策をはじめとして最新の技術トレンドに追随しきれなくなっていました。そこで思い切ってデザイナーシリーズのプログラムを全面的に作り直すことにしたのです。
2017年頃から作業を始めて3年間くらいの期間を費やしましたが、これによって現在のデザイナーシリーズは、それ以前のバージョンの製品とは中身がまったく違ったものとなっています。モダナイズに着手した時点ではコンテナなど意識していなかったのですが、最新の技術トレンドを取り入れやすいアーキテクチャへ作り直していたことが、結果として今回の取り組みに大きく寄与しました。
リリース後もさらなるサービス改善を追求していく
──2022年8月にリリースした「品質デザイナー for GxPクラウド」と、「文書デザイナー for GxPクラウド」ついて、どんな手応えを感じていますか。
下川原: 中堅以下のお客様からも、価格面で折り合わないといった声は聞こえておらず、導入の検討をいただいています。その意味では、狙いどおりのコストダウンをほぼ実現できたのではないかと考えています。
井上: まだリリースしたばかりで本格的な展開はこれからですが、より多くのお客様の業務改善に貢献できるよう私たちも努力を重ねていきます。
古賀: ただ一方で、今後お客様が急速に増えていった際にその管理の仕組みをどうするのかなど、解決しなければならない課題も残っています。
坂田: そうですね。どんなサービスも決してリリースがゴールではなく、その先の取り組みが大切です。特にKubernetesをはじめとするコンテナの技術は現在も急速なスピードで進化を続けているだけに、しっかり追随していかなければなりません。
岡本: まさにそこが私たちJTPの使命でもあります。ユニオンシンクさんが今後に向けて展開していくさまざまなクラウドサービスをより良いものにするために伴走、そして共創を続け、技術面からしっかり支えていきたいと考えています。
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JTPが幹事企業として参加している「コンテナ共創センター」では毎月、勉強会を開催。11月の勉強会では、本事例の紹介も予定している。