トピック

コーセーのコロナ禍での事業拡大に向けたオンライン接客サービスとは?
ゆめみの機動力とバイタリティがDXを後押し

2020年初頭からのコロナ禍は化粧品業界にも少なからぬ影響を与え、百貨店などでの対面による接客が制限された各社の上位ブランドは苦境に立たされた。その打開に向け、化粧品メーカー大手の株式会社コーセーが2021年9月から開始したのが、最上位ブランド「コスメデコルテ」でのオンライン接客サービス「DECORTE Personal Beauty Concierge」だ。そして、そのシステム基盤「WEB-BC SYSTEM」の開発でコーセーを支えたのが株式会社ゆめみ。コーセーはWEB-BC SYSTEMによるDXのさらなる推進においても、ゆめみに大きな期待を寄せている。

コーセーとゆめみのメンバーがワンチーム体制で「WEB-BC SYSTEM」を開発した

新型コロナ禍で対面での高品質な接客が困難に

 1946年に創業。以来、「美を通じて人々に夢と希望を与え続ける」ことを使命に成長を遂げ、「コスメデコルテ」を筆頭に多様な美のニーズに応えるブランドを数多く展開してきたてきたコーセー。創業80周年が迫る中、同社はさらなる成長軌道を描くべく、中長期ビジョンの「VISION 2026」を2018年に策定。現在、「グローバルブランド拡充と顧客接点の強化」を推し進めている最中にある。

 そんな同社も2020年初頭からのコロナ禍に巻き込まれた1社だ。人流抑制が求められリモートワークが広がる中、化粧品業界は女性が化粧をする機会の減少という逆風に直面。また、百貨店の自主休業や営業時間の短縮は、化粧品各社の上位ブランドに少なからぬ打撃を与えた。

 従来、百貨店などの専用カウンターでは、ビューティコンサルタント(BC)と呼ばれるスタッフが接客を実施。BCは化粧品の色味や肌の調子などの相談に乗りながら、来店した顧客に化粧を実施する「タッチアップ」を行い、使い方などもレクチャー。顧客はそれらの説明に納得して商品を購入してきた。対面での接客は商品にまつわる顧客体験で外せない要素の1つであった。

 「この状況がコロナ禍で一変しました」当時を振り返るのは、コーセーの情報統括部でグループマネージャーを務める進藤広輔氏だ。

 「外出控えも相まって、BCの接客の機会が激減しました。加えて、飛沫防止シートの設置などにより接客も大きく制限され、このままでは従来からの高品質な接客を維持できなくなるとの危機感が社内に広がりました」(進藤氏)。

 この状況下、コーセーは打開の道を模索。そこで最終的に辿りついたのが対面接客でのオンラインの活用だ。そして、その第一弾として2021年9月から開始したのが最上位ブランド「コスメデコルテ」におけるオンライン接客サービス「DECORTE Personal Beauty Concierge」なのである。

株式会社コーセー 情報統括部 グループマネージャー 進藤広輔氏

最上位ブランドには接客にも最高品質が絶対条件

 接客でのオンラインの活用は、新型コロナによる「かつてないインパクト」(進藤氏)の克服に向けたコーセーの経営判断でもあった。その最初のブランドとして白羽の矢が立ったのがコスメデコルテであり、2020年6月にセレクティブブランド事業部と情報統括部によるプロジェクトチームが発足。ただし、当初の議論ではサービス像は今とはかけ離れたものであったという。

 例えば、顧客とのコミュニケーション用ツールだ。セレクティブブランド事業部側が想定していたのは、オンライン接客の動きが他社でも盛り上がる中、採用が広がっていたWeb会議ツールだ。しかし、「Web会議には接客上、看過ごせない問題が残されています」と進藤氏。

 利用にあたり顧客にもWeb会議アプリのインストール作業を強い、サービス利用がそれだけ煩雑になることもその1つ。また、Web会議では多人数で対話を想定して映像データを圧縮するため、映像の劣化が避けられず、「化粧品の繊細な色味や輝きを伝えるクオリティが絶対的に不足していました」(進藤氏)。

 「コスメデコルテは当社の最上位ブランドです。当然、接客にも最高品質が絶対条件。では、それを具体的にどう実現すべきかについて、現場とITの双方の知見を持ち寄り、一から議論を進めていきました」(進藤氏)。

 この過程で今回のサービス開発の方向性を決定付けたのが「ITによるビジネス変革」意識の高まりだ。実は進藤氏はかつて大手クラウド事業者に在籍し、既存の事業構造を大きく変えるITの力を深く理解していた。その観点から、進藤氏は今回のプロジェクトを単なる高品質な接客手段ではなく、コロナ禍の危機を乗り越える施策と捉え、オンライン化による新たな価値創出と、それによるビジネス変革が鍵を握ると判断。全社的な危機意識の高まりの中、「それらの必要性を一貫して訴えることで、チームの全体理解を得られ、一丸となって挑戦する機運が盛り上がっていきました」(進藤氏)。

「楽しんで挑戦する姿勢」でゆめみに白羽の矢

 約2か月の議論の末、オンライン化で目指すべき業務の全体像が取りまとめられる。核となるのは、「来店できない顧客への、物理的に不可能なタッチアップを除いた、店頭と変わらぬ最高品質の接客サービスの提供」だ。

 それを支えるのが、高精細な映像と音声での対話や、従来から提案に役立てていた接客履歴を記録するノート、さらに、接客サービスの予約から、化粧品のオンラインでの購入までのカスタマージャーニーをカバーする機能群だ。

 このうちBC向け接客の仕組みは、アフターコロナを見据えて、働き方改革を実現するものとして位置付けた。合わせて、今後の他ブランドでの接客のオンライン化も織り込み、システムはAPIで社内外のサービスを柔軟に連携可能なサービス基盤として開発を進める方針も定められた。

 これらを受け、コーセーでは2020年8月からシステム開発作業が本格化。ただし、作業はここから難航したのだという。原因は個別機能の要件をなかなか詰めきれなかったことにある。

 「新サービスは当社にとってまったく新たなもので、何が正解かも当然分かりません。そのため、現場の声を基に作り、試してもらい、返ってきた意見を基に修正する作業を機能ごとに繰り返すことになりました」(進藤氏)。

 この膨大かつ煩雑な作業を支援したのが、企業のDX支援で数多くの実績を上げてきたゆめみだ。ゆめみは今回の仕組みの全体像が固まるのとほぼ同時期に開発に参加。以来、個別の機能開発だけでなく、現場へのヒアリングなどもセレクティブブランド事業部や情報統括部とワンチームとなって取り組み、改善点の洗い出しや見極めに尽力した。

 ゆめみ プロジェクトマネージャーの山内達貴氏は、「接客品質を高めるうえで、一連の顧客体験の向上は極めて重要です。ただし、仕組みに何らかの不満を感じても、感覚的なものの場合は具体的な言葉にはしにくいものです。そこで、改善提案書の作成時には、ユーザーの立場から言葉の意味を改めて解釈して、不満の意味を突き詰めました。同時に、議論が円滑に進むよう情報共有も心がけました。機能要件を固めていた時期は、1時間ほどのビデオ会議によるミーティングの時間を毎日、割いてもらっていたほどです」と取り組みを説明する。

 「実際にBCの方に使っていただいた感想を、直接ヒアリングに伺ったりしましたね。そうした生の声から仕様書には含まれないニュアンスを汲み取って改善につなげるように心がけました」(山内氏)。

 進藤氏は、ゆめみを参加させた理由として、同社の「機動力」と「バイタリティ」を挙げる。

 「正解が分からない中で作業を前進させるには、仕様通りに開発するだけの従来からのSIerのやり方は通用しません。必要になるのは、苦しみつつも楽しんで挑戦する姿勢です。かつての経験から、ゆめみにはそうした企業文化があることを知っており、今回の開発でその能力を発揮してもらおうと考えました」(進藤氏)。

株式会社ゆめみ プロジェクトマネージャー 山内達貴氏(右)と同じくプロジェクトマネージャー 高橋 礼寛氏(左)

苦境をバネにデジタルでビジネスを拡大させるDX

 一通りの要件が出揃ったのは21年4~5月にかけてのことだ。「WEB-BC SYSTEM」と命名されたシステムは、対話やセキュリティなどの基盤機能、顧客のID管理のための「KOSE ID」、予約、ノート、パンフレットなどの共通機能、肌診断や肌色分析などの個別機能をマイクロサービスとして外部クラウド上に実装し、BCがカウンセリング中に各ブランドから必要な機能を呼び出せる構成となるまでに進化を遂げていた。

 以後、コーセーでは開発の仕上げ作業を急ピッチで推進。併せて、新サービスに参加するBCを社内から募集し、オンライン用研修の実施し体制面の整備も推し進めることで、冒頭に紹介したDECORTE Personal Beauty Conciergeのサービスインにこぎつけたのである。

 それから約半年が経過した2022年2月時点で、新サービスはすでに狙い通りの成果を上げているという。まずは、店頭と変わらぬ最高品質の接客サービスの提供だ。サービスでは利用後、使い勝手やBCを評価するアンケート調査を利用者に行っているが、「結果は非常に好評です」と進藤氏は笑顔で語る。

 「心理的にも外出が難しい中、自宅から手軽に利用できることに感謝の声を多数頂戴しています。オンラインのため逆に周りの目を気にせず何でも相談でき、また、30分という時間枠を確実に利用できる点も人気です」(進藤氏)。

DECORTE Personal Beauty Conciergeの利用イメージ

 働く場の確保の面では、オンライン接客に従事する30~40人分の働く場が新たに創出された。現在、BCは専用ブースに出勤しているが、より柔軟な働き方を実現すべく、近い将来の在宅勤務も視野に入れているという。

 店頭では雑務などもあり、接客後にBCがその内容をノートに残せないこともしばしばだった。しかし、新たな仕組みでは対応内容を確実に記録できるようになり、サービス利用後の商品誘導など、各種データ活用の施策の下準備も着々と進行中だ。

 コーセーでは、他ブランドでのWEB-BC SYSTEMの利用を見据え、改善点の検討にもすでに着手しているという。現在の接客は顧客とBCとの"1対1"だが、"1対n"のようなサロン形式も考えられる。それらの機能を、現場ニーズの先取りするかたちで提供するとともに、APIを使った外部企業のサービスの検証もこれから本格化させる計画だ。

 今回のプロジェクトを振り返りつつ、進藤氏は次のように展望する。

「WEB-BC SYSTEMとDECORTE Personal Beauty Conciergeは、コロナ禍の苦境をバネにデジタルでのビジネス拡大を目指すDXの仕組みそのものです。今後は多様な展開が考えられ、その推進に向け、今後もぜひゆめみの力を借りたい。開発の責任はすべて自身が取るという当社の基本的な考えであり、この中で、ぜひとも勇気をもってさまざまな挑戦をしてほしい。それがひいては、当社のさらなる発展につながると確信しています」(進藤氏)。

 コーセーとゆめみによる新たな挑戦が、今、再び始まりつつある。