トピック

ハイブリッドでこそ発揮されるAzureの価値
包括的な機能強化で真のDXを後押し

 日本マイクロソフトは2021年12月10日、「Azure Hybrid - Azure Arc、Azure Stack HCI - 最新アップデート!」というウェビナーを開催した。11月3~5日に米Microsoftが開催したカンファレンス「Microsoft Ignite 2021」を受け、そこで明らかになったAzure Hybrid関連のメッセージや最新情報をあらためて整理・周知することに主眼が置かれた。スピーカーを務めたのは佐藤壮一氏(Azureビジネス本部 プロダクトマネージャー Azure SME)。本稿では当日のセッション内容を元に、特に同社のハイブリッドクラウドに対する最新の想いや具体的アプローチに焦点を当てる。

DX実現に向けたマイクロソフトからのメッセージ

 「Igniteで象徴的だったのは、クラウド展開をAzureだけではなく、Microsoft 365やDynamics 365、GitHub、LinkedInなど一連のサービスを含めて『Microsoft Cloud』として打ち出すようになったこと。いわば、一つ上に傘をかけたメッセージングとなり、その傘の中からMicrosoft Azure、そしてAzure Hybridの位置づけを明確にして価値を訴求するようになりました」(佐藤氏)。実際のところ、Teamsや365など他のサービスもAzureのデータセンター上で動いていることは知られており、60を超えるリージョンでサービスを提供していることや、100を超えるコンプライアンスに準拠していることなど、これまでマイクロソフトがAzureで実直に取り組んできたことは、Microsoft Cloudとスコープを広げても何ら変わるものではない。

 ではなぜ、このタイミングでわざわざMicrosoft Cloudという傘をかけたのか。佐藤氏は「デジタルトランスフォーメーション(DX)はどの企業にとっても喫緊のテーマ。しかし、既存のインフラや各種システムが無秩序に乱立しており様々な問題に直面しています。いよいよもって“包括的に”クラウド活用を考えなければなりません。だからこそ、当社としてもAzureのみならず他のクラウドサービスも含め『Microsoft Cloud』として分かりやすく価値を訴求し、時代のニーズに応える姿勢を示したのです」と説明する。

 DXは、ツールを導入して業務効率を高めるといった表層的で部分的な取り組みとは一線を画する。先々を読むことが益々難しくなっている世の中の変化に速やかに追随しつつ、新しいビジネス価値を創造するための全社的な変革だ。従来からの常識にとらわれず、デジタル技術を積極的に活用し、そのポテンシャルを最大限に発揮させることが不可欠。トランスフォーメーション、すなわち蛹がチョウとして羽化するぐらいの変貌を遂げるには、そこに全ての意識とパワーを集中させなければならず、旧態依然としたムリ・ムダ・ムラを看過していてはゴールに到達することは叶わない。

ムリ・ムダ・ムラを一掃するための理想像とは

 ところが現実を直視すると、日々活用しているエンタープライズITには、そこかしこにムリ・ムダ・ムラが散在している。佐藤氏は企業システムには主に4つのレイヤーがあると説明。具体的には、おのおのが個別に使う端末やOS、Officeアプリ、ブラウザー等の「ユーザー層」、従業員同士が報告・連絡・相談するための「コラボレーション層」、顧客管理や販売管理など現業部門に密着して支援する「業務特化層」、組織や業務内容に依存せず全社的な活動のベースとなる「共通基盤層」だ。これらが、ビジネスの“今”に合わせてスマートに連携しつつ、リアルタイムに全体最適化が図られるのが理想だが、実情は大きくかけはなれている。

 「ユーザー認証ひとつとっても、端末へのログインのみならず、業務アプリケーションやSaaSを使おうとするたびにIDやパスワードが求めらるケースは珍しくありません。使うのは一人なのにシステムごとに管理するのはセキュリティやガバナンスの観点でもナンセンスです。KPIを共有しながら議論するようなコラボレーションでは、使い手のリテラシーに依存する部分が多く活用の成熟度はまだら模様。業務特化層ではプロセスごとに最適化されていて横連携が一筋縄ではいかないし、共通基盤も切り分けが曖昧なまま継ぎ接ぎで対処してきているため、本来の意味での共通基盤になっていないのです」(佐藤氏)。

 個別バラバラなシステムを運用し続け、連携のためにいたずらにオーバーヘッドを生じさせ、結果として時間もコストをかけていてはDXなど望むべくもない。常に全体最適を標榜し、構成するシステム群はシンプルかつ小さくしていく。当然ながらバックエンドで共通化できるところは徹底して共通化する。それが今後のスピード経営を支える要諦だ。局所的なコストダウンではなく、「新しいビジネス価値を創る」ためのプラットフォームを大局観をもって強く意識しなければならない。

 マイクロソフトはIaaS/PaaS/SaaSにまたがる多種多様なクラウドサービスを展開しているが「先の4つのレイヤー間で密接で柔軟な連携ができるように継続的に強化しブラッシュアップしています。データを中心に据えつつ、アイデアをいち早く形にし、市場の反応から洞察を得て、次なる高みを目指していく。いわば、デジタルフィードバックループを着実に回し、DXという一つのゴールにいち早く到達することをがっちり支援したいとの想いがあり、それがMicrosoft Cloudという打ち出しに結実しているのです」と佐藤氏は強調する。

Azure ArcのvSphere対応で一元管理をさらに強化

 そのMicrosoft Cloudという大枠の中でのAzureについては、これまで同様にハイブリッドとマルチクラウドにフォーカスしつつ「Most comprehensive hybrid and multicloud platform」として“最も包括的なプラットフォーム”であることがIgniteでは強調された。その文脈において、非常に重要なコンポーネントになっているとして紹介されたのがAzure Arcである。

 ハイブリッドクラウド化やマルチクラウド化が企業における現実解として広がっており、複雑さに拍車がかかるシステム環境を、合理的かつセキュアに管理するものに位置づけられるのがAzure Arc。場所や種別を問わずにVM(仮想マシン)やコンテナなども含めて、全ての構成要素をAzure Arcで一元的に管理、展開していこうというのが基本コンセプトだ。

 Igniteでは、Azure Arcに関する幾つかのアップデートが発表されたが、その“包括性”を象徴する意味合いからも最初に語られたものがVMware vSphereへの対応だ。それは、Azureを含めてテクニカル全般を担当しているエグゼクティブバイスプレジデント、Scott Guthrie氏のキーノートスピーチでも真っ先にフォーカスされていた。

「これまでもAzure Arc-enabled Serversで他社クラウドやオンプレミスのVMをサポートしていましたが、今回はVMware上のVMではなくvSphereそのものをサポートすることが発表されました。Arcを介して Azure からvSphereを管理できるようにするもので、vSphere上のVMware仮想マシンをAzureのポータルからセルフサービス形式で作成・削除したり、起動・停止したりが自在にできます。また、VMwareのKubernetesに対して、vSphereからArc-enabled Services、つまりはPaaSの類を送り込むところまで含めてサポートします」(佐藤氏)。

具体的には、Azureの管理系のソリューション使って、ArcのリソースとしてVMware vSphere仮想マシン群を見えるようにすると共に、VMwareの管理ソリューションであるVMware vCenter ServerとはAzure Arc Resource Bridgeを介して接続。これによって、テンプレートやネットワークの情報も読み取りながら、Azure側からオンプレミスのvCenterあるいはvSphere環境を管理できるようにすることを正式にアナウンスし、パブリックプレビューを開始した。すでにVMwareソリューションでプライベートクラウドを構築し、さらにAzureも使い始めている企業にとっては魅力的に映るはずで、まさにAzureのポータルで“包括”できることとなる。

Azure Stack HCI向けのサービス拡充に拍車

 続いて佐藤氏は、様々なManaged ServiceやPaaSがArcに対応し、Azure Stack HCI上で利用可能になることを紹介。ちなみにAzure Stack HCIは、オンプレミス環境にHCI(ハイパーコンバージドインフラストラクチャ)でプライベートクラウドを構築するための専用OS。当然ながらAzureと組み合わせた、一貫性のあるハイブリッドクラウドの運用にもフォーカスしている。その中でも、Azure Kubernetes Service(AKS)のオンプレミス実装であるAKS on Azure Stack HCIで、コンテナ化されたアプリケーションの展開・実行を自動化することは期待を集めるシナリオの一つだ。

 Igniteでは、Arcで接続されたKubernetesに対して、Managed ServiceやPaaSをこれからも続々と提供していくことがあらためて表明された。「場所を問わずにAzureのManaged ServiceやPaaSが使えることの意義は、Azureのプラットフォームを利用する形でアプリケーションを作れば、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドのどこにでも展開できることにあります。コンテナ化したアプリケーションも展開・運用していけます。これもまた“包括的”を象徴するトピックと言えるでしょう」と佐藤氏は視聴者に訴えた。

 データベース系としては「Azure Arc-enabled data services」として「SQL Managed Instance」と「PostgreSQL Hyperscale」をアナウンス済みであり前者はすでにGA(General Availability)となった。Igniteのタイミングでは、Azureに直接接続してAzure側から詳細をコントロール可能にするダイレクト接続モードが発表された。PostgreSQL Hyperscaleは引き続きプレビューが続く。

 アプリケーション開発に関わる「App services」「Functions」「Logic apps」「API management」の4つもプレビューとして完成度を高めている真っ只中。人工知能系としては「ML Training」がアナウンスされていたが、今回は「ML Inferencing」という推論拡張機能が加わった。いずれもプレビュー版の位置付けである。佐藤氏は今後のロードマップを示しながら、より包括的な方向にArcのスコープを広げていくことを強調した。

ハイブリッドクラウドが主流であり続ける

 ウェビナーのセッションではそのほか、前出のAzure Stack HCIの最新版となる「21H2」について強化点や見どころを解説。また、仮想デスクトップサービスであるAzure Virtual Desktopの実行環境としてオンプレミスのAzure Stack HCIを対象とする「Azure Virtual Desktop for Azure Stack HCI」(プレビュー場)を紹介した。その詳細については、別稿「Azure Stack HCI OSの最新バージョン21H2における進化」で深く堀り下げているので参照してほしい。

 デジタル時代の経営の礎となるプラットフォームに関しては、ハイブリッドクラウドという過渡期の先に、軸足を完全にクラウドに移すという見方もある中で、佐藤氏は一貫して「ハイブリッドが主流であり続けるでしょう」との考え方を示した。だからこそ、それを前提とした管理者と利用者それぞれの体験に磨きをかけると共に、そのための機能強化を綿々と続けていく必要がある。それを実直に実践しているのがAzureだと言えるだろう。