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大阪リージョン始動! ビジネスニーズに柔軟に応えるIBM Cloudの価値

 日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、IBM)は10月6日、「IBM Cloud Forum Japan」をオンラインで開催した。

 本イベントのメイントピックは、2020年9月29日に開設された「大阪リージョン」だ。日本においては東京に次いで2番目となる大阪リージョンは、東京と同じく3つのゾーンで構成されたマルチ・ゾーン・リージョンとなっている。

 日本国内だけでDR(Disaster Recovery:災害対策)やBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)を考慮したクラウド環境を構築できるようになったことで、金融など規制が厳しい業種でも安心して利用できるようになった。

 本稿では、その内容を中心にイベントの様子をレポートする。

ハイブリッド環境においても常にベストなシステムを提供する

 オープニングに登場した代表取締役社長 山口明夫氏は、「テクノロジーの進化、コロナ禍への対応、自然災害への対応など、企業システムには今まで以上に俊敏性が求められています。その手段の1つとして、AIと並んでクラウドが大きく注目されていますが、すべてがクラウドにシフトするのではなく、オンプレミスとクラウドが適材適所で共存するハイブリッドな環境になっていくでしょう」と述べた。

日本IBM 代表取締役社長 山口明夫氏

 長年にわたって企業のITシステムを支えてきたIBMは、メインフレームからのダウンサイジングや、インターネットの普及による仮想化といった過去の経験から、クラウドシフトの潮流においても、既存のオンプレミス環境に残り続けるシステムはあると予測している。

 「クラウド、オンプレミス、あるいは両方が共存するハイブリッド環境など、どのような環境であっても常にベストなシステムを提供できるよう、IBMはさまざまな領域で投資を行っています。例えば、業界最高水準のセキュリティ機能や、金融など規制の厳しい業界においてもコンプライアンスに準拠した環境の提供などです。今回発表した大阪リージョンも、重要な業務システムでも安心してご利用いただけるよう、またハイブリッドな環境を構築いただくためのステップです。IBM Cloudを今後の戦略に活用していただければ幸いです」(山口氏)。

IBM Cloudだけが提供できる価値とは

 続いて基調講演では、常務執行役員 クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部長 伊藤昇氏が、大阪リージョンの始動をあらためて発表した。

 「大阪リージョンは、日本におけるIBM Cloudの2番目のリージョンです。東京リージョンと同じく3つのゾーンで構成されており、高い可用性と品質でサービスを提供します。西日本のお客さまは、大阪リージョンを本番サイトとしてご利用いただけます。また、これまでご要望の多かった国内2拠点で、本番サイトとDRサイトを運用できるようになりました」(伊藤氏)。

日本IBM 常務執行役員 クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部長 伊藤昇氏

 IBM Cloudは、世界中のリージョンで稼働するデータセンターを結ぶ高速プライベートネットワークを無料で利用できるメリットがある。例えば東京と大阪でDR構成のシステムを構築しても、東京・大阪間のデータ通信には追加費用がかからない。同様に海外にあるリージョンにデータをバックアップしたとしても、データ通信費用は無料である。

 「他社のクラウドサービスはデータ通信にも課金されるため、費用の見通しが立ちにくいという声を耳にしますが、IBM Cloudにはそのような懸念は一切ありません」(伊藤氏)。

IBM Cloudはリージョン間の通信が無料

 またIBM Cloudには、基幹システムを安心して稼働できる「Enterprise Grade」、業界最高水準のセキュリティとコンプライアンスの準拠「Secure & Compliant」、クラウドサービスをどこでも動かせる 「Cloud Services Anywhere」という3つの強みがあると伊藤氏は語る。

 「1つ目のEnterprise Gradeでは、お客さまの要件に合わせた専有環境を構築し、オンプレミスで稼働しているシステムをそのまま移行することができます。2つ目のSecure & Compliantですが、お客さま以外、いかなる者もデータにアクセスできないクラウドは、IBM Cloudだけです。日本国内のFISCに対応済みで、ISMAPにも対応中、金融業界など規制の厳しい業界向けのクラウドサービスを提供しています。そして3つ目のCloud Services Anywhereでは、KubernetesとRed Hat OpenShiftをコアに、クラウドサービスがどこでも動き、一元的に管理ができる分散クラウドを実現します」(伊藤氏)。

IBM Cloud 3つの強み

 さらに、IBMの強みでもある「Power Architecture」ベースの仮想サーバー「Power Systems Virtual Server」が、国内リージョンからも提供されることも明らかにされている。

 このほか、IBM Cloudで提供されているマネージドサービスを、オンプレミス、他社のパブリッククラウド、エッジなどでも稼働できる分散型クラウドのサービス「IBM Cloud Satellite」も、国内リージョンからの提供を開始する。対象となる環境でOpenShiftが稼働する環境を構築すれば、IBM Cloudのサービスをコンテナとして実行可能だ。

 「IBM Cloud Satelliteは、最適なアプリケーションを配布・実行し、一元的に管理するサービスです。お客さまには2つのメリットがあります。1つは重要なデータはオンプレミスに残したまま、そのデータを扱うクラウドネイティブなアプリケーションを適切な環境に配布して実行できるため、全体でセキュアなオペレーションが担保されます。もう1つは、数千、数万に分散されたエッジデバイスを手元で一元的に管理できるようになるため、俊敏性や運用効率が格段に向上することです」(伊藤氏)。

 また、業界別のクラウドサービスの提供にも積極的だ。日本国内では、IBM Cloud for Financial Servicesに先駆け、日本IBMはデジタルサービスプラットフォーム(DSP)を展開しており、口座照会や振替など業界共通のサービスをクラウドから安定的に提供している。

 米IBM シニア・バイス・プレジデント IBM Cloudのハワード・ボヴィル氏は、今年5月に米IBMに入社するまで、バンク・オブ・アメリカでCTOを勤めていた人物だ。基調講演にもビデオメッセージを寄せており、IBMとほかのクラウドプロバイダーとの違いについて説明している

 「バンク・オブ・アメリカでは、ビジネス課題を解決するための戦略的手段としてクラウドプロバイダーとの協業に乗り出しましたが、クラウドの機能を戦略的手段として活用する方法を理解しているのはIBMだけでした。クラウドネイティブだけを扱ってきたプロバイダーは、オープンスタンダードの知見が乏しく、問題を把握できません。しかし、IBMは変革の道のりで何をすべきか、どのようなビジネスプロセスが行われるべきか、適切な技術は何かを理解し、クラウドを戦略的な手段として提案していました」(ボヴィル氏)。

 伊藤氏も、IBMがほかのクラウドプロバイダーと異なる点について、これまで、お客さまやパートナーとともに歩んできた長い歴史があると説明する。システムをコンテナによってクラウドネイティブ化するだけではなく、長年培ってきたインダストリーナレッジ(業界・業種ごとの知見)を持ち、システムをデリバリー(構築)して運用してきた経験があることや、すでにパートナーエコシステムを構築していることによって、IBM Cloudはオンリーワンの価値を持つという。

 また、IBM Cloudのお客さまが一覧で紹介されたあと、大阪に本社のあるお客さまが自社での取り組みを語った。

 基調講演の最後に伊藤氏は、IBM Cloudが、米Gartnerの2020年2月28日のGartner Peer Insightsにおいて、主要クラウド・プロバイダーの中で、最高の総合評価を受けたことを明らかにしている。

 「これはユーザーの個人的な主観に基づいた調査であり、お客さまの率直な感想だと認識しています。私たちはこれからも、最高の評価をいただけるよう邁進してまいります。どうぞご期待ください」(伊藤氏)。

東京と大阪リージョンから提供するIBM Cloudの価値

 基調講演に続いては、「東京と大阪リージョンから提供する IBM Cloud の価値」と題したセッションが行われ、日本IBMクラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 クラウド・プラットフォーム・テクニカルセールス 部長の安田智有氏が、大阪リージョンの詳細を解説した。

日本IBM クラウド&コグニティブ・ソフトウェア事業本部 クラウド・プラットフォーム・テクニカルセールス 部長 安田智有氏

 「IBM Cloudは、全世界で40拠点以上のデータセンターをご利用いただけるようになっています。日本にも東京に3つのゾーン(データセンター)で構成されたリージョンがありましたが、このたびダラス、ワシントンDC、ロンドン、フランクフルト、シドニー、東京に続く、7番目のリージョンとして大阪でサービスの提供を開始しました」(安田氏)。

大阪リージョンの位置付け

 大阪リージョンは東京リージョンと同じく3つのゾーンで構成されている。大阪リージョンへのアクセスポイントは1つだが、アクセスポイントの内部は経路、設備、ネットワーク機器がすべて冗長構成となっているので、障害が発生しても別の経路から継続してサービスが提供される仕組みになっている。

 また、安田氏は大阪リージョンに関して、よく聞かれる質問について次のように回答している。

――大阪リージョンを使うために特殊な契約は必要ですか?

いいえ、特殊な契約は必要ありません。すぐにご利用いただけます。

――大阪リージョンはどこにありますか?

アクセスポイントは大阪市内にありますが、データセンターはアクセスポイントから20km以上離れた丘陵地にあります。アクセスポイントやデータセンターに対して専用線を引きたいというお客さまには、個別に住所情報をお伝えしています。

――大阪リージョンの価格設定は東京リージョンと同じですか?

はい。東京リージョンと同じ価格で提供しています。

――リージョン間のネットワーク通信は本当に無料ですか?

無料です。多くのクラウドプロバイダーが、データ通信に課金をしていますが、IBM Cloudは国内のみならず、海外にあるリージョンとの通信も無料です。

――大阪リージョンと東京リージョンでDR構成できますか?

構成できます。

――キャパシティはどの程度ですか?

明確な数字は公開されていませんが、東京と同じように需要に応じて拡張します。

――アクセスポイントは1つのようですが、増強する計画はありますか?

あります。増強されるまでは、アクセスポイントとデータセンター直結の2系統で冗長構成が可能です。

――津波や地震の可能性はありますか?

強固な地盤でデータセンターのロケーションとして注目されているエリアにあります。津波の心配はありません。

 安田氏は、こうした大阪リージョンの特徴を説明した後、その使い方について、いくつかの具体例を挙げ紹介していた。

 まずは、オンプレミス環境で、テープなど何らかの媒体にバックアップしているのであれば、バックアップ先にIBM CloudのObject Storageを利用するケース。

 「IBM CloudのObject Storageは、サンプル価格が1TBで月額800円~900円程度。しかも自動的に国内3カ所に保存されるので、いずれかのデータセンターにおいてデータが消失してしまっても、残りの2カ所にデータが残っているので安心です。データ転送に時間がかかることが気になるのであれば、ぜひ高速データ転送サービスのIBM Asperaを利用していただきたい」(安田氏)。

 現在Webアプリケーションを運用しており、DDoS防御などセキュリティ対策を検討している場合には、Cloud Internet Servicesの利用を提案している。

 「Cloud Internet Servicesは、現在のWebアプリケーションの構成などを変更することなく、Firewall、CDN、高速DNS、DDoS防御、WAFなど一般的なWebアプリケーションに必要だと言われているセキュリティ機能やパフォーマンス向上の便利な機能が、オールインワンで月額3万円程度から利用できます」(安田氏)。

 現在AIXやIBM iをオンプレミスで利用しており、クラウドへの移行を検討しているのであれば、既存の仕組みをそのまま移行可能なPower Systems Virtual Serverを利用することも可能だ。

 「東京リージョンは11月、その後 大阪リージョンでもPower Systems Virtual Serverのサービスの提供を開始する予定になっています。AIXやIBM iに加えて、PowerLinuxもご利用可能で、月額1.5万円程度から使えるようになっています。クラウドですので、必要に応じてCPUのコア数やメモリを増減できる便利なサービスです」(安田氏)。

 最後に安田氏は、大阪リージョンの今後の拡張について、「現在、大阪リージョンではIaaS系のサービスが提供されています。年内にはVMwareの認定構成、Object Storage、およびPower Systems Virtual Serverのサービス提供を順次開始していく予定になっています。来年の第1四半期には第2世代クラウドやPaaS系サービス、第2四半期にはWatson系のサービスが大阪リージョンからも提供される予定になっています」と説明した。

大阪リージョンの今後の主要な機能拡張

クラウドのメリットを生かすためには運用の改善が必要

 3つ目の「IBM CloudとIBMのサービスで基盤と運用のDXを実現」では、日本IBM クラウド & コグニティブソフトウェア事業本部 部長 エグゼクティブ・アーキテクトの河野浩氏が、IBM Cloudは、エンタープライズワークロードに最適なクラウドサービスであることをあらためて説明した。

 しかしクラウドにシフトしたものの、運用のプロセスや体制がオンプレミスのままになっている企業は多く、「これは非常にもったいないこと。クラウドのメリットを最大限に生かすには、ツール・プロセス・体制の高度化は欠かせない」と、日本IBM グローバル・テクノロジー・サービス事業本部 オファーリング&CTO 技術理事の沢橋松王氏は語る。

 沢橋氏によれば、今後のシステム運用はAIを活用したAIOpsにシフトし、これまでオペレーターやシステム管理者が行っていた作業は、AIと構築から運用まで統合されたツールによって自動化され、システムはSRE(Site Reliability Engineering)ベースのアジャイルなプロセスで管理されることになるという。実は、AIOpsによる自動化はメインフレームの世界でも始まっているという。

 日本IBMでは、こうした点を踏まえ、AIOpsに対応したサービスとして、構築系のCACF(Cloud Automation Community Framework)、運用系のMCMP(Multi Cloud Management Platform)およびMCMS(Multi Cloud Management Services)、自動化のCDI(Cognitive Delivery Insight)などが提供されていると、沢橋氏は説明している。

 このほか、完全にリモートから利用できるマルチテナント型の開発・運用環境である「Dynamic Delivery」や、事業継続・災害対策向けのアセスメントなども提供されていることが紹介された。

日本IBM グローバル・テクノロジー・サービス事業本部 オファーリング&CTO 技術理事の沢橋松王氏

コンテナ技術でオープンなハイブリッドクラウド基盤を構築する

 4つ目の「IBM CloudとIBMのサービスでクラウドネイティブを本格化」には、日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業本部 CTO兼IBMオープン・クラウド・センター長 執行役員の二上哲也氏が登壇した。

 二上氏は、DXにおけるIT課題を解決する答えとして、「デジタル優先度の高いところからクラウドネイティブ化を進める」「段階を追ってクラウド化を実施する」「クラウドと現行共存を前提に開発・運用・管理を一元化」の3つを挙げ、これらを実現するためにオンプレミスとクラウドにまたがるオープンなハイブリッドクラウド基盤を築き、その上でコンテナを使ったクラウドネイティブの開発を行うことが望ましいと説明。ハイブリッドクラウド基盤にはKubernetes やRed Hat OpenShiftの採用を推奨した。

 コンテナとKubernetesまたはRed Hat OpenShiftを利用すると、開発の一元化が可能なほか、オンプレミスを含めた一元管理も実現できることを示し、そのためにIBM Cloud Satelliteが有用であるとしている。

 また、インダストリー・プラットフォームの活用事例として、りそな銀行が登壇し、次世代基盤に向けた取り組みとして「金融端末からの脱却」「オープンプラットフォーム化」「レガシーシステムからオープンシステムへの構造変革」などを紹介した。

日本IBM グローバル・ビジネス・サービス事業本部 CTO兼IBMオープン・クラウド・センター長 執行役員の二上哲也氏

ビジネスレジリエンスの強化によって変化する時代に対応する

 最後のセッションとして、IDC Japan株式会社 ITサービス リサーチディレクターの松本聡氏が、「危機をチャンスに:クラウドを活用したビジネスレジリエンスの強化」と題して特別講演を行った。

 ビジネスレジリエンスとは、「予測できない環境の変化に対応する基礎的な能力」のこと。単に「既存の業務をいかにして継続するか」という事業継続とは異なり、予測できない変化が短期間で継続して起きるニューノーマル時代に対処するためには、このビジネスレジリエンスが欠かせないという。

 では、これを強化するためにはどうすればいいのか。松本氏は、その解としてクラウドの活用を示す。ただしクラウドを活用したとしても、企業自身が変わらなくては意味がない。そのために重要なのは「データの活用」だ。

 デジタルエコノミー時代では、「企業はソフトウェアの消費者から、新たに作り出す立場に変わらなくてはいけない」とした松本氏は、クラウドなどのビジネスレジリエンスを強化したITインフラの上で、統合されたデータを分析して活用したり、デジタルサービスを大量生産したりすることが重要だと話した。

 なお、個々のクラウドサービスはあくまでもパーツであり、それらを適材適所で活用していくため、IT業界の方向性としてはマルチクラウド/ハイブリッドクラウドに進んでいる。しかし、それらをバラバラに管理していてはデメリットの方が大きくなってしまうことから、これらを統合管理することの重要性を強調。AIOpsによる運用の自動化やSREなどを、支援する事業者の力も借りながら適切に行っていくべきとしている。

IDC Japan株式会社 ITサービス リサーチディレクターの松本聡氏