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マイクロソフトが提供するVMware vSphere環境――、ハイブリッド/マルチクラウド時代にAzure VMware Solutionsがもたらす新たな価値

 VMwareの仮想化インフラは、従来はオンプレミス環境をベースに発展してきた。しかし、オンプレミス環境でのデファクトスタンダードともいえるvSphere環境をパブリッククラウドのインフラ上で稼働させたい、といった要望は少なからず存在する。

 こうしたニーズを吸収するため、いくつかのクラウド事業者がすでに取り組みを始めており、Microsoft AzureのサービスとしてvSphere環境を提供するAzure VMware Solutionsも、そうした中で注目を集めているサービスの1つ。先日開催されたヴイエムウェアのイベント「vFORUM 2019」内でもセッションが設けられ、多くの受講者を集めていた。

 本稿では、このセッションの内容などをもとに、Azure VMware Solutionsについて解説する。

Microsoft Azure内で展開されるvSphere基盤のプライベートクラウド環境

 Microsoft Azureは世界最大級のパブリッククラウドの1つとして知られているが、実際のところ現在はどんな基盤に発展しているのだろうか。

 日本マイクロソフト Azureビジネス本部製品マーケティング&テクノロジ部 プロダクトマネージャーの佐藤壮一氏は、「Azure is the world's computer(Azureは世界のコンピューターになる)というビジョンのもと、Trusted(信頼性)、Radiable(安定性)、Secure(堅牢性)を実現するための活動を続けています」と語り、最新の公開情報に基づいたMicrosoft Azureの全体像を紹介した。

日本マイクロソフト Azureビジネス本部製品マーケティング&テクノロジ部 プロダクトマネージャーの佐藤壮一氏

 佐藤氏によると、現在Microsoft Azureは全世界に54のリージョンを展開しており、これらのデータセンター間は10万マイルに及ぶ光ファイバーおよび海底ケーブルを含むマイクロソフト独自のグローバルバックボーンネットワークで接続されているという。ユーザーは世界135か所を超えるエッジサイトを通じてこのバックボーンに入り、Microsoft Azureの各種サービスにアクセスすることができるのだ。また、Microsoft Azureへの接続と利用を共に推進するネットワークパートナーも200以上に拡大している。

 Azureデータセンターそのものもセキュリティ、スケーラビリティ、可用性を主眼にサービスの維持継続を最も重要な機能とするほか、そこで使われる各種プラットフォームについても、設計、運用、監視のすべての観点から顧客に高度な信頼性を提供する基盤を実現するための積極的な投資を行っている。

 本セッションの中心テーマであるAzure VMware Solutionは、まさにこの連綿とした取り組みの延長線上で実現され、新たに提供を開始したものだ。佐藤氏は「Microsoft Azure内のベアメタル上に展開されるvSphere基盤のプライベートクラウド環境です」とAzure VMware Solutionの概要を説明し、次の3つの特長を挙げた。

・ヴイエムウェア社による正式な認定・認証を受け、vSphere基盤のプライベートクラウド環境をMicrosoft Azure内のMicrosoftの ファーストパーティソリューションとして提供
・既存オンプレミス環境からほとんど変更を加えることなく拡張や移行が可能
・Microsoft Azureのネイティブサービスとの統合によるvSphereワークロードの最適化

Azure VMware Solutionの3つの特長

 加えて、Azure VMware Solutionがシングルテナントとして提供される点にも佐藤氏は言及し、「ほかのお客さまのインフラストラクチャから物理的に分離されます」と強調した。

 なお、Azure VMware Solutionはすでにアメリカとヨーロッパの一部ではサービスが提供されており、東日本リージョンからも2020年の3~4月ごろをめどとして提供開始を予定しているようだ。

Azure VMware Solutionsを読み解く5つの価値

 Azure VMware Solutionの特長をさらに詳しく見てみよう。

 マイクロソフトコーポレーション Global Black Belt - Asiaのテクニカルスペシャリストである前島鷹賢氏によれば、Azure VMware Solutionからは以下に示すような大きく5つの価値が提供される。

マイクロソフトコーポレーション Global Black Belt - Asiaのテクニカルスペシャリスト、前島鷹賢氏

 第1は「グローバル」。先に佐藤氏からも説明のあったように、Azure VMware Solutionはマイクロソフト独自の広大かつ高品質なグローバルバックボーンネットワーク(Microsoftネットワーク)を活用できるのだ。「Azure VMware Solution上の仮想マシンは、Azure Virtual Network内の仮想マシンと同様に、広範なAzureサービスとの接続においてMicrosoftネットワーク経由でアクセスすることができます」(前島氏)。

 第2は「互換性」で、オンプレミスのvSphere環境からの継続性を担保する。vSphere ClientやPower CLIなどVMwareネイティブの運用機能をサポートするとともに、VMware Tools のエコシステムとして提供されている各種サードパーティツールについても、ホストへの特権モードでAzure VMware Solution環境にインストールすることが可能。また、VMware NSX-Tはもとより従来型VMware NSX Data Center for vSphereを含むオーバーレイネットワークをサポートし、vSphereネットワークの完全な互換性を維持している。これにより「社内に蓄積されたスキルセットやプロセス、ワークフロー、スクリプトなどの資産もそのまま活用できます」(前島氏)。

既存VMwareプライベートクラウド環境と高い互換性を持つ

 第3は「クラウド統合」。Microsoft AzureからはエンタープライズIT向けにAzure MonitorやAzure Log Analytics、Azure App Insightsなどの運用管理ツール、Azure Security CenterやAzure Sentinelなどのセキュリティ機能、Azure Storage(Blob, Managed Disk)によるデータ保護、Azure Application Gatewayを用いたアプリケーション基盤などが提供されている。「これらのMicrosoft AzureのネイティブサービスとAzure VMware Solutionの統合による強化を図ることができるよう、開発を進めています」(前島氏)。

 第4は「コスト削減」。Microsoft Azureのユニークなライセンス特典を得られるのだ。「ソフトウェアアシュアランスを有するお客さまは、Azure VMware Solutionを含めたMicrosoft Azureの専用クラウドサービスにデプロイを行う際に、さまざまなAzureハイブリッド特典が適用されます」(前島氏)。

 なお、Azure ハイブリッド特典には次のようなものがある。

・無制限の仮想化の権利:SQL Server EnterpriseやWindows Server Datacenterについてホスト全体がライセンスされている場合、仮想化に対する完全な制御権が得られる。
・移行時の二重使用権:クラウドへ移行しながら、同時にオンプレミスのWindows ServerやSQL ServerのライセンスをMicrosoft Azure上で最大180日まで利用可能。
・間接的なコアが無料:保守にかかる費用をマイクロソフトが負担し、ユーザーは自身のワークロードの実効に使われるコアのみをライセンス。

 また、SQL Server 2008/R2がすでに2019年7月9日にサポートを終了し、Windows Server 2008/R2も2020年1月14日にサポートを終了するが、これらの拡張セキュリティ更新プログラム(ESU)がMicrosoft Azure上では3年間にわたり無償で提供されることも、コスト削減におけるメリットの1つである。このメリットは、Azure VMware Solution 上の VMware 仮想マシンにも等しく適用される。

 第5は「一貫性」で、ヴイエムウェア社の正式な認定を受けたソリューションを、Microsoftファーストパーティソリューションとしてサポートする。「グローバルクラウドとしての高い実績を誇るマイクロソフトが、お客さまへのサポートや契約における単一窓口として機能します。Azure VMware Solutions上で仮想マシンを稼働させる際に必要なVMware vSphereやVMware vSAN、VMware vCenter、VMware HCXなどのライセンスも基本料金に含まれるため、お客さま側での個別の調達も不要です」(前島氏)。

Microsoftのファーストパーティソリューションとしてサポートが提供される

日本市場に向けて早期導入SIパートナーの取り組みも本格化

 Azure VMware Solutionsに対する日本市場のモメンタムは確実に高まっており、SB C&S株式会社、伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)、富士ソフト株式会社、日商エレクトロニクス株式会社(日商エレ)、日鉄ソリューションズ株式会社(NS-SOL)、エヌ・ティ・ティ・コミュニケーションズ株式会(NTT Com)、株式会社エヌ・ティ・ティ・データ(NTTデータ)、ユニアデックス株式会社、日本ユニシス株式会社と、すでに8社のSIパートナーが早期導入に向けた取り組みを加速している。

早期導入パートナー一覧

 セッションに登壇したSB C&Sもそのうちの1社だ。VMware製品のディストリビューターとしての実績も持つ同社だが、「実はマイクロソフトのパートナーとしてMicrosoft Azureでも、国内トップクラスの販売実績を誇っています」という。

 そうした中で注力しているのが、「C&S Azure Club」および「C&S ISV Club」という2種類のAzureパートナーアクセラレータープログラムだ。前者は、Microsoft Azureの再販を行うパートナーやMicrosoft Azure上で受託開発をする同社のパートナーに対して情報提供や技術支援、案件創出支援を行うもの。後者は、自社サービスをAzure上に構築し、サービスそのものを提供するISVパートナーに対して、マーケティング/プロモーション支援や販売支援を行うものである。

 そしてSB C&S自身も現在、基幹システムの基盤運用をAzure VMware Solutionsを活用したハイブリッドクラウド環境へ移行を進めている過程にある。「大半のアプリケーションや業務はMicrosoft Azureベースで刷新することができましたが、アプリケーションの都合で移行ができず、オンプレミスに残ってしまったものがありました。そこでAzure VMware Solutionsを活用することになりました」。

 Azure VMware Solutionsの国内展開にあたっては、こうしたノウハウの活用が期待できるだろう。

vFORUM 2019のSB C&Sブース内でAzure VMware Solutionsを展示

 一方、VMware Horizon Cloud on Microsoft Azureを株式会社ニトリホールディングスに導入するなど、VMware製品、Microsoft Azureともに大きな実績を持つ日商エレも、すでに取り組みを始めているSIパートナーの1社だ。

 同社は、Azure VMware Solutionsの最大のメリットとして、「オンプレミス環境とMicrosoft Azureをレイヤ2の延伸ネットワークで接続できること」を挙げている。これによりIPアドレスを変更せず、VMware vSphere vMotion によるクラウド環境へのライブマイグレーションを行えることから、クラウド環境への移行を加速できるのだという。

 最終的には、Microsoft AzureのIaaS/PaaS環境などへシステムを移行することを見据えている場合でも、SB C&Sの例にも見られるように、すべてのシステムがいきなりパブリッククラウドへ移行できるわけではない。それでも、クラウドに集約するメリットが見込める場合は、一時的な移動先として活用し、将来的にはMicrosoft Azureの通常のサービスへ段階的に移行していく、といったロードマップを描くことができる。

 なお日商エレでは、米国西リージョンのMicrosoft Azureにて、いち早くAzure VMware Solutionsの検証を開始しており、豊洲オフィスと米国西リージョンを専用線で接続してレイヤ2の延伸ネットワークを構成。Azure VMware Solutionsの各種検証を実施しているが、国内リージョンでのサービスローンチ時には、そうしたノウハウの蓄積をいち早く提供できるとアピールしている。

日商エレはマイクロソフトブースにてAzure VMware Solutionsの説明を行っていた

 いずれにしても、オンプレミスですでに稼働しているvSphere環境を迅速にクラウド環境へ持って行くことができるAzure VMware Solutionsを利用すれば、これまでできなかったことが可能になる場合も多い。国内でのローンチに向けて、SIパートナーの支援体制も整ってきており、クラウドの活用を真剣に考えるうえで、Azure VMware Solutionsは有力な選択肢となりうるだろう。