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Microsoft Teamsからの外線通話を可能にする「Direct Routing」機能が登場、PBXからの本格移行を目指す

 Microsoft Teamsは、Microsoft Office 365で提供されている、クラウドベースの新しいコミュニケーション基盤だ。

 チャットベースのコミュニケーション機能に加え、Office製品をはじめとするさまざまなビジネスアプリケーションと連携して、充実したビジネスコラボレーション環境を実現できる。さらに昨年に Skype for Business オンラインの機能統合が発表されて以降、音声やビデオなどのリアルタイムコミュニケーションの機能拡充が進んでいる。

 Teamsの正式リリースから1年を経て、今回いよいよ登場するのが、外線電話の発着信にも対応する「Direct Routing」機能だ。この機能によって、Teamsから固定電話や携帯電話と直接通話が可能になる。

 今回の発表に先駆けて、5月中旬から Public Previewが開始されており、既存のPBX(構内電話交換機)からの置き換えを念頭に実証実験を始めている、あるいはこれから始めようと検討している企業は少なくないという。まさに注目の新機能といえるだろう。

 そこで今回は、日本マイクロソフトで長年ユニファイドコミュニケーション事業に携わってきたMicrosoft 365 ビジネス本部 シニアビジネスデベロップメントマネージャー 黄瀬隆律氏をはじめ、音声コミュニケーションソリューションを展開する AudioCodes 、およびRibbon Communicationsの関係者から、Teamsで実現する企業のコミュニケーション基盤について話を聞いた。

日本マイクロソフト Microsoft 365 ビジネス本部 シニアビジネスデベロップメントマネージャーの黄瀬隆律氏

ビジネスコミュニケーションの中心となる「Microsoft Teams」

 Teamsでは名前の通り、「チーム」単位でグループを作成し、さらにその配下に、業務やプロジェクトに応じた「チャネル」単位でグループを作成することにより、階層的にチーム内コミュニケーションを管理している。

 このチーム、あるいはチャネルごとにスレッドが用意され、「グループチャット」、「会議」、「ファイル共有」、「OneNote」といった機能が提供される。

 「会議」では、事前のスケジューリングやグループ内の即時会議、ゲストアクセスなど、音声およびビデオ会議などの機能を利用できる。もちろんチームやチャネル単位ではなく、特定の個人に対するチャットや音声・ビデオ通話も可能だ。

 「ファイル共有」では、SharePoint Onlineと連携して安全にファイルを共有することができる。共同編集やバージョン管理機能も提供されており、ファイル共有で問題になる「複数のバージョンが乱立する」といったことも起こらない。OneNote機能では、会議の議事録やグループ内で共有したいメモなどを記録しておくことができる。

 またOffice 365との連携はもちろん、Power BIやMicrosoft Graphなどの機能を活用したり、サードパーティのアプリケーションと連携したりもできるようになっており、すでに全世界で20万社を超える企業が、コラボレーション基盤としてTeamsを導入している。

Microsoft Teams

電話とTeamsをシームレスにつなぐ「Direct Routing」

 一方で、人と人とのコミュニケーションを考えた場合、企業において“電話”が重要な手段であるのは、今も昔も変わらない。メール、SNS、チャットなどの機能を提供するさまざまなツールやサービスが登場していても、電話による音声コミュニケーションへのニーズは依然として高いままだ。

 「企業におけるコミュニケーション基盤のクラウド統合を長く推進してきましたが、なかなか統合できないのが電話です。人が話すことをやめない限り、音声によるコミュニケーションはなくなることはありません。そのため、私たちは電話を含めた音声コミュニケーションをとても重視しています。しかしPBXという電話独自の仕組みがあり、クラウド統合は容易ではありませんでした」(黄瀬氏)。

 そこで、TeamsにPSTN(Public Switched Telephone Network:公衆交換電話網)をつなぐ仕組みとして、新たに「Direct Routing」が追加されることになった。

電話との統合を実現するパートナーシップ

 ただし、Direct Routingだけで、TeamsとPSTNを連携させることはできない。建物内に引かれているPSTNとインターネットを接続するには、「セッションボーダーコントローラ(Session Border Controller:SBC)」と呼ばれるゲートウェイが必要になるため、SBCを提供するベンダーとの協業が欠かせないのだ。

 その中でも、いち早くTeams対応を表明したのが、MicrosoftのTier1パートナーでもあるRibbon Communications社とAudioCodes社である。

 米国に本社を持つRibbon Communications社は、2017年10月に、Sonus Networks(以下、Sonus)とGENBANDが合併して誕生した新しいベンダーだ。MicrosoftとはSonusの時代から長年の協業関係にあり、Teams対応のSBC「Microsoft Direct Routing for Teams Phone System Hybrid Connection」を発表している。

 一方、1993年にイスラエルで設立されたAudioCodes社は、SBCのほか、IP電話機、VoIPゲートウェイ、およびこれらコミュニケーションに関連する運用ツールを提供するベンダーだ。2015年には日本法人を設立し、国内でも多くの導入実績を持っている。やはり、Microsoftとは長年の協業関係にあり、主力SBC製品のMediantシリーズを始め、各製品をTeamsに対応させている。

 両社はPSTNとの接続というコアなテクノロジー部分においては競合関係にあるものの、Microsoftが新しく打ち出したインテリジェントコミュニケーションの市場拡大という意味において協力しあう立場であるという。

 Ribbon Communications 上級システムエンジニア兼ビジネスデベロップメントマネージャー 渡邉光輝氏は、「これまで当社では、コミュニケーション基盤と電話を統合するなど、既存PBXとの連携やユニファイドコミュニケーションへの置き換え案件を推進してきました。音声コミュニケーションのリーディングベンダーとして、電話による音声コミュニケーションを正しくデザインし、導入から運用まで高い品質で機能するプロダクト提供を行ってきました。」と、自社を説明する。

 その上で今回の協業について、「Direct Routingの提供開始に合わせて、Teamsと電話を統合するための機能をSBCに追加しています。日本では多くの企業が働き方改革を進めており、オフィス、自宅、あるいは外出先でも同じように働ける環境が求められています。Teamsに電話を統合すれば、ユーザーはどこにいても同じ番号で電話を受信したり、発信したりすることが可能になります。この機会にMicrosoftをはじめとする関係各社と協力し、ともにTeamsを中心としたインテリジェントコミュニケーション市場の拡大を目指していきます」と述べた。

Ribbon Communications 上級システムエンジニア兼ビジネスデベロップメントマネージャー 渡邉光輝氏

 一方AudioCodes側では、AudioCodes日本支社長 松村淳也氏が、「当社でも同様に、コミュニケーション基盤と電話を統合する案件を数多く手掛けてきました。主力のSBC製品をTeamsに対応させているほか、TeamsやSkype for Businessがそのまま動作する専用のIP電話機、機器や通話品質を管理できる運用監視ツール『One Voice Operations Center(OVOC)』、通話録音製品など幅広いポートフォリオを提供しています。Skype for Business のグローバルでの実績と学びから、統合的なTeamsソリューションを提供していきます」と話している。

AudioCodes 日本支社長の松村淳也氏

Direct RoutingでPSTN接続を簡略化

 では、TeamsでDirect Routingが提供されることにより、何が変わるのだろうか。

 Microsoftがコミュニケーション基盤を提供するのはTeamsが初めてではなく、先行するサービスとしてSkype for Business(旧称:Microsoft Lync)が多くのユーザーに利用されてきた。

 Skype for Businessでも、PSTNとの接続を行うTeamsのDirect Routingに相当するものとして、「Skype for Business Cloud Connector Edition(CCE)」という製品が提供されており、Ribbon CommunicationsやAudioCodesでもこれを利用して、Skype for BusinessとPSTNの統合案件を数多く手掛けてきた。ただ実際のところ、CCEの導入・運用にはハードルがあったという。

 それは、Skype for BusinessとPSTNを接続するために、ユーザー企業のオンプレミス環境にWindows ServerベースのCCEを構築する必要があった、という点だ。簡単に導入できるよう、CCEをSBCのハードウェア装置内に搭載したアプライアンス製品が提供されていたりはするのだが、担当するエンジニアのスキルという点に大きな落とし穴があった。

Skype for Businessでは、Windows ServerベースのCCEサーバーをオンプレミス環境に設置する必要があった(出典:Microsoft)

 「PBXは長年にわたって独自の市場を形成しており、構築や運用に必要なスキルも一般のシステムエンジニアのスキルとは異なっています。そのため、サーバー系のシステムエンジニアにはPBXのことがわからず、逆にPBXのシステムエンジニアはITシステムがわからない、といったことがよくあったのです」(Ribbon Communications エンタープライズ営業部 シニアアカウントディレクターの宮下康彦氏)。

Ribbon Communications エンタープライズ営業部 シニアアカウントディレクターの宮下康彦氏

 CCEは前述のようにWindows Server上で動作するサーバー製品で、システム上の問題が起こった場合には、Windows Serverの知識がどうしても必要になるケースがある。

 もちろん、担当者がサーバー製品に関する知識を持っていれば克服できることもあるものの、実際にはそうではないケースも多いそうで、日本マイクロソフトの黄瀬氏は、「働き方改革の機運が高まった結果、Skype for Businessと電話の統合はかなり注目されています。しかし実際の導入においては、エンジニアの対応範囲やスキル都合で、CCEの構築や運用保守がハードルとなるケースもあります」と、これまでを振り返る。

 この問題について、AudioCodesジャパン プリセールスエンジニアの小澤眞氏も、「CCEの運用については、当社のお客さまでも問題になることがありました。例えば、リモートデスクトップで運用されていたケースで、CCEのWindowsアップデートが自動実行されてしまった結果、特定アカウントで接続できなくなるといったものがあります」と説明した。

AudioCodesジャパン プリセールスエンジニア 小澤眞氏

 ところが、TeamsのDirect Routingでは、SBCを直接クラウドに接続することができるようになるため、CCE相当のサーバーを構築する必要はない。「CCEが担当してたSBCとクラウドの接続部分を、Direct Routingではクラウドに持っていってもらったわけです。これは本当に大きなメリットといえるでしょう」(Ribbon Communicationsの渡邉氏)。

 なおRibbon Communications、AudioCodesの両社は、いずれも通信キャリア向けに複数の企業を同一筐体に収容できるマルチテナント型SBCを提供している。通信キャリアのデータセンター内にこうしたSBCを配置することで、通信キャリアが顧客に対し、PSTN接続機能をサービスとして提供できるようになるというのだ。

 新しく提供される Direct Routing 機能によって、今後はユーザー企業が自社内にSBCを置かず、こうしたサービスを利用して音声コミュニケーションを実現する、といったケースも増えてくるだろう。

Teamsによるインテリジェントコミュニケーションの将来

 Teamsのコミュニケーション機能を表面的に見ると、チャット、音声やビデオ会議、そして電話が統合された多機能なコミュニケーションツール、となる。

 しかし、黄瀬氏は「Teamsを単なるコミュニケーションツールとは思わないでほしい」と述べる。

 「Microsoftは『インテリジェントコミュニケーション』というビジョンに沿って、コミュニケーション基盤を進化させています。AIのテクノロジーを活用し、『ただ情報を伝える』というだけではなく、クラウドのビッグデータをインテリジェントに活用し、より効果的なインサイトをコミュニケーション体験の中で提供していきます。

 例えば会議であれば、会議の参加者との事前コンタクトやスケジュール調整、会議中の機器設定や会議終了後の議事録作成など、さまざまなタスクがあります。Teams ではこれらを統合してシームレスにエンドユーザーの各タスクを支援していきます。会議の会話から自動的にテキスト起こしする機能が提供されますが、将来的には参加者のリストと顔認証から誰が発言したのかを自動判別したり、議事録からアブストラクトを作成したり、アクション項目抽出を支援したりする機能などを追加していきます」(黄瀬氏)。

 すでにTeamsには、Microsoft Cognitive Servicesの音声認識、自動翻訳、機械学習といったAIテクノロジーを、コミュニケーション基盤で簡単に利用できるような機能拡張が予定されており、黄瀬氏が例に挙げた、議事録の自動作成に利用できる会話の自動文字起こしをはじめ、チャットメッセージの自動翻訳、音声アシスタント「Cortana」の統合などが発表されている。今後は、AIアシスタントのCortanaに話しかけるだけで電話をかけたり、会議を予約したり、といった機能も実現されるだろう。

 「企業のコミュニケーション基盤は、電話、ビジネスチャット、会議といったシステム目線で個別機能要件を別々に評価するのではなく、利用する人の目線で業務要件をベースにトータルに評価すべきです。今回のDirect Routing の機能拡充でTeamsのPBX利用シーンは大きく拡大してきます。ただ、だからこそ従来のPBX利用用途だけではなく、変化する働き方の中で、Teamsで実現できるさまざまな機能を活用し、世代や人種を越えたインテリジェントコミュニケーションによって企業のビジネス成長を支援していきたいと思っています」(黄瀬氏)。