特別企画

映画「ゼロ・グラビティ」制作も支えたNAS統合・高速化技術「Avere FXT」

製品コンセプトを米Avereに聞く

Avere FXT

 企業には膨大なデータが存在し、格納するためのストレージが乱立している。部門ごとにNASが立てられ、クラウドストレージも普及したことで管理は複雑となり、データアクセスのパフォーマンス劣化に悩まされることも多い。そんな課題を「ストレージ統合・高速化」あるいは「ハイブリッドクラウドNAS」と称される製品技術で解決策を提案するのが米Avere Systems(以下、Avere)だ。主力製品は「Avere FXT」というストレージゲートウェイで、日本ではテクマトリックス株式会社が総代理店として販売することが決まった。

 今回、その特徴や技術優位性について、米Avere ワールドワイド・パートナープログラム担当シニアディレクターのDale Lafferty氏、およびワールドワイド・システムエンジニアリンググループ ディレクターのBrian Bashaw氏に話を聞いた。

パフォーマンスのみを線形的にスケール

米Avere ワールドワイド・パートナープログラム担当シニアディレクターのDale Lafferty氏

 昨今、企業内ではデータの格納先として多数のNASを利用し、拠点や部門単位でもその導入が進んでいる。また容量単価を抑えたAmazon S3をはじめとするクラウドストレージを利用するケースも増えており、統合されていないさまざまなストレージを利用する結果、管理コストの増大やストレージのパフォーマンス劣化などさまざまな問題を招いている。

 米Avereは、こうした課題を解決すべく2008年に設立されたベンダー企業。NetAppでシニアバイスプレジデントを努めたRon Bianchini氏、およびバイスプレジデント・チーフアーキテクトとして「Data ONTAP GX」を開発したMichael Kazar氏が、それぞれ最高経営責任者(CEO)と最高技術責任者(CTO)を務めている。

 主な製品は2009年より提供している「Avere FXT」。オンプレミスのNASやクラウドストレージをゲートウェイで束ねて単一ストレージプールとし、独自のキャッシュ・ティアリング技術などによってパフォーマンスアップを実現する。

 Lafferty氏によると「NASのパフォーマンスが劣化した場合、上位モデルにリプレースするか、台数を増やしてスケールアウトするかが考えられるが、リプレースは費用がかさみ、台数を増やすと追加分の容量は無駄になってしまうかもしれない。現在のNASはパフォーマンスと容量を別々にスケールできないことが課題。Avere FXTでは容量とパフォーマンスの概念を切り離し、パフォーマンスのみを線形的に向上できるようにした」のが製品コンセプトという。

パフォーマンスのみ拡張可能に

独自のキャッシュ・ティアリング技術

米Avere ワールドワイド・システムエンジニアリンググループ ディレクターのBrian Bashaw氏

 実際の構成では、複数のNASを束ねるようにAvere FXTを前段に設置し、単一のストレージプールを形成する。ゲートウェイとなるAvere FXTは「Edgeファイラー」、背後のNAS群は「Coreファイラー」と呼ばれ、Coreファイラーはベンダー混在でも構わず、Amazon S3のようなクラウドストレージも対象となる。

 EdgeファイラーとなるFXTノードはキャッシュシステムとして機能し、データへの再アクセス速度を向上させる。加えて、キャッシュデータを独自ティアリング技術で階層化するのが特長となる。Avere FXTは冗長化のために標準3ノードで組まれたシステムで、内部にRAM、SSD、SASを搭載している。また、データへのアクセス頻度を判定する独自のアルゴリズムを持ち、頻繁にアクセスされるデータ(ホットデータやウォームデータ)をRAMやSSDに、そうでないデータ(コールドデータ)をSASに――と、記録媒体の速度に応じてキャッシュデータを適正配置するのだ。

 ユニークなのは、ファイル単位ではなく16KBブロック単位で階層化を行う点。これにより、「同一ファイルにアクセスが集中しても、より高速に応答できるようになる」とBashaw氏。「例えば、ファイルの同一ブロックにアクセスが集中する場合には、そのブロックをAvereの各ノードにコピーすることでアクセスを分散させたり、大きいファイルの異なるブロックにアクセスがある場合には、そのファイルを各ノードにストライピングしてアクセスを分散させるなど、ファイルとアクセスの特性に応じて最適な処理が可能となる」という。

 クラスタ構成にも対応し、1クラスタあたりFXTノードとCoreファイラーそれぞれ50台まで拡張可能。最大250万IOPSの性能を引き出せる。さらにもう1つ特長となるのが、WAN越しのストレージにも同じ仕組みが適用できる点だ。リモート拠点のNASをFXTノードでデータキャッシュすれば、毎回WANを経由しなくてもよくなるため、パフォーマンスの飛躍的な向上が期待できる。同じことはクラウドストレージにもいえるので、「例えば、オンプレミスで管理する膨大なデータをAmazon S3に移行すれば、3セント/GBというコストメリットを得ながら、Avere FXTの併用によりパフォーマンスも犠牲にしないで済む」(Bashaw氏)という。クラウドストレージへのアクセスは、Avere FXTがREST APIで会話してくれるため、ユーザーからはNFS/CIFSで扱えるのもメリットだ。

一般的なNAS環境との違い
Avereの階層化とクラスタリング

 また、Coreファイラーとなったストレージ群は単一のグローバルネームスペースで運用できるのも特長。複数のマウントポイントを管理する必要がなくなり、管理性・利便性を向上できる。

 このほか、運用を止めることなくCoreファイラー間でデータをコピーする「FlashMove」や、Coreファイラーのデータを他拠点へレプリケーションする「FlashMirror」といった機能も備える。「ストレージベンダー製品にもデータマイグレーション機能はあるが、他社製品間ではできなかったり、できても大変だったり。それをベンダー関係なく容易に実現するのがFlashMove」(同氏)。

 いわば、ベンダー技術への依存を減らしてくれる製品ともいえ、「将来ストレージベンダーの技術がどう転んでも、汎用的に対応できる基盤を目指して」(同氏)設計されているという。

マウントポイントを統合「グローバルネームスペース」
バックエンドで透過的なデータ移行「FlashMove」
非同期データレプリケーション「FlashMirror」
オブジェクトストレージの利用「FlashCloud」

映画「ゼロ・グラビティ」の制作も支えたAvere FXT

 実際にどのような業界で利用されているのだろうか。Lafferty氏によれば、

・石油・ガス大手企業の半数(地質学データから油性分析に活用)
・アメリカ議会図書館(全デジタルメディアへAvere FXT経由でアクセス)
・Cisco(8つの部門プライベートクラウドを統合)
・Inova Transitional Medical Institute(ゲノムデータをAmazon S3で利用)
・Turner Studios(Amazon S3へ完全移行に伴うパフォーマンス向上)

 などさまざまな業界・業種で採用されているが、特に「メディア&エンターテイメント」分野で実績豊富で、「第一号ユーザーはSony Pictures Imageworks。同業界で蓄積したノウハウを他業界に広めていった経緯がある。2013年にヒットした特殊効果を使った映画トップ12でもその制作にAvere FXTが活用された」という。

どのような業界で利用されているのだろうか

 映画制作においては、主にレンダリング処理を高速化し、3Dや複雑な効果を処理するためにNASのパフォーマンスが必要になるのだ。トップ12の映画としては「ゼロ・グラビティ」「ホビット三部作」「アイアンマン3」「ガーディアン・オブ・ギャラクシー」などが挙げられる。

 「ゼロ・グラビティ」がアカデミー賞7部門を受賞したのは記憶に新しいが、ほかには「ホビット」の制作で「封切り2週間前に大問題が発生し、急きょAvere FXT約10台を導入して乗り切った」(Lafferty氏)というエピソードも。

テクマトリックス 取締役 上席執行役員 ネットワークセキュリティ事業部の矢井隆晴氏

 日本市場でも「メディア&エンターテイメント」分野のニーズが見込めるため、国内で販売を担当するテクマトリックス 取締役 上席執行役員 ネットワークセキュリティ事業部の矢井隆晴氏も「まずはこの分野から訴求したい」と語る。

 そのほか、データアーカイブやディザスタリカバリ用途でクラウドストレージを利用したい企業やサービスプロバイダー、教育・研究機関などに展開する考え。テクマトリックスでは9月5日より販売中。価格は標準3ノードで2000万円から。案件創出、営業、導入支援、構築、保守までワンストップに提供し、3年間で20億円の売り上げを目指す。

日本でのターゲット市場
テクマトリックスの役割

川島 弘之