OpenStackの次期リリース名はGrizzlyに決定
~リリースから2年を迎えたOpenStackの動向(前編)


 2012年7月11日、OpenStackの7thリリースの名前が、投票により Grizzlyに決定しました。OpenStackリリースから2年を迎え、現在は2012年9月27日リリース予定の6thリリースFolsomに向けた開発がすすめられています。

OpenStackとは

 OpenStackとは、一言で言うとオープンソースのクラウド基盤ソフトウェアです。仮想化されたサーバー、ストレージ、ネットワークを一元的に管理・制御し、ユーザーからの要求に応えます。

 OpenStackは数あるオープンソースのクラウド基盤ソフトウェアの1つですが、2010年7月にリリース当初から今に至るまで、幅広い企業、ユーザから注目を集め、勢いを増しています。日本での実績はまだ少ないですが、ここでは、OpenStackの動向を、開発・利用の側面から紹介していきたいと思います。


OpenStackの特徴はオープンであること

 OpenStackの特徴の1つに、リリース当初からソースコードだけでなく、開発もオープンであることがあります。Ubuntuに習ったコミュニティの運営を行っており、約半年毎にDesign Summit という世界中から開発者が一堂に集まる会議を開き、方針・仕様・設計・実装など、その後の開発の方向性を議論します【図1】。

 直近では、2012年4月5日に5thリリースである Essexがリリースされた直後4月16日~17日にかけて6th リリースFolsomに向けたDesign Summitが開催されました。Folsomリリース後のGrizzlyに向けたDesign Summitは、10月15日からSan Diagoで行われる予定です。

 また、OpenStackのリリース名はAから順番に地名がついていますが、これもオープンな場の投票で決定されています。 

【図1】OpenStackのリリース、およびDesign Summit開催時期の関係


OpenStackモジュール構成

 OpenStackは複数のモジュールから構成されています【図2】。 Folsomリリース時点のコアモジュールは、仮想サーバの管理をつかさどるNova, 仮想ストレージの管理をつかさどる Swift、データを連携するGlance、IDを連携するKeystone、ダッシュボードのHorizonと、Folsomから新しくコアモジュールに加わる予定の、仮想ネットワークを制御するQuantumとvolumeを制御するCinderです。

【図2】OpenStackのモジュール構成(Folsom)


仮想マシン起動までの流れ

 現在開発中のFolsomでの代表的な仮想マシン起動までの流れは、以下のようになる予定です【図3】。

【図3】代表的な仮想マシン起動までの流れ
(1)ユーザーがHorizonにアクセスしID/Passwordを入力します。
(2)HorizonはKeystone認証を行い、トークンを取得します。Horizonは、その後の操作要求はトークンを付きで発行し、要求を受け取った各モジュールはトークン情報をもとに権限の確認を行います。
(3)ユーザーが仮想マシンのテンプレートイメージをGlanceへ登録します。(Essexリリース時のHorizonにはテンプレートを登録する機能がないので、コマンドラインで行う必要があります)
(4)登録されたテンプレートイメージはGlanceでカタログ化され、実体はSwiftへ格納されます。
(5)ユーザーが仮想マシンの作成を依頼します。
(6)Nova(Scheduler)が、どのコンピュートノード(Nova(Compute))に仮想マシンを立ち上げるかを決定し、Quantumが、事前に設定したネットワークの種類に沿った設定(IPアドレスの割り当てなど)を行います。
(7)・Nova(Scheduler)が、(6)で選択したNova(Compute)に仮想マシン起動要求を出します。
・Nova(Compute)は、Swiftから仮想マシンテンプレートをダウンロードし、仮想マシンを起動します。
・必要に応じてユーザーが、起動した仮想マシンにCinderが管理するデータ領域をアタッチし、仮想マシンからアタッチされた領域をマウントします。


今のモジュール構成に至る経緯

 OpenStackのリリースに伴うモジュール構成の遷移を示します【図4】。2010年7月のAustinリリース当初のコアモジュールは、クラウド基盤を実現する最低限として仮想マシンイメージを格納するSwiftと仮想マシンの制御をするNovaから始まりました。

【図4】OpenStackモジュール構成の遷移

 Bexarリリースでは、NovaとSwiftを連携するモジュールとしてGlanceが開発されNovaが利用する仮想マシンイメージをSwiftに格納できるようになりました。

 Diabloリリースでは、KeystoneとHorizonがコアモジュールとして開発されました。Keystoneによって、NovaとSwiftのID認証を一元管理できるようになり、NovaとSwiftが疎に結合する今の形になりました。ダッシュボードのHorizonはNovaから切り出され、独立したモジュールとして開発を進められるようになりました。

 この頃から、機能豊富だったNovaでは機能を分離し、それぞれで独立した開発を進める動きが強まっていきます。Folsomリリースからは、仮想ネットワーク制御を担うQuantumと、ブロックストレージを担うCinderがそれぞれ独立したコアモジュールとなることが決定しています。


(明日の後編につづく)


岡 あゆみ(NTTソフトウェア株式会社)
日本OpenStackユーザ会設立当初からユーザー会に参加し、OSSクラウド基盤ソフトウェアの動向をウォッチしてきました。2012年から、オープンソースカンファレンスやOpenStack勉強会で時々登壇するようになりました。業務では、OSS全般の推進活動を行い始めてかれこれ8年になります。昔は、できる人が自己責任で使っていたOSSが、今では当然のように企業内で使われるようになり時代は変わったと思います。OpenStackが3年後どのような立ち位置になるのか楽しみです。


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2012/8/9 06:00