スケールアップとスケールアウトを高度に融合させたNetAppの最新ストレージOS「Data ONTAP 8.1」【前編】


 ネットアップ株式会社は、2011年12月27日に東京都内で技術者向けカンファレンス「NetApp Innovation 2011 Winter Tokyo」を開催した。本誌は、すでに同イベントの基調講演後に開催された記者説明会の模様を12月8日付で速報している

 この記者説明会では、ビッグデータに対する同社のビジョンと取り組みが語られたが、イベントそのものはクラウドとビッグデータに関連するさまざまな製品やソリューションが紹介されている。

 筆者は、前回同様に報道関係者向けに用意されたプログラムには一切参加せず、一般参加者の一人として自由気ままに勉強させてもらった。本稿では、イベントで勉強したすべてをご紹介することは不可能なので、筆者が特に興味を抱いた最新のストレージOS『Data ONTAP 8.1』のみ取り上げていく。


NetApp Innovation 2011 Winter Tokyo 基調講演会場の様子

 

首尾一貫したビジョンと有言実行で着実な進化を遂げているNetApp

 筆者は、今年2月に開催された前回のNetApp Innovation 2011 Tokyoにも参加しており、そこで学んだNetAppの最新テクノロジーについて2本の記事(前編後編)を寄稿している。前回は、2年ぶりのプライベートイベントだったこともあり、将来につながる斬新なビジョンの提示、新しいストレージ製品の発表、管理系ソリューションの大幅拡充など、かなり大胆な内容に感じられた。

 今回のイベントは、それから8カ月半しか経過していない。通常、この手のお金がかかるプライベートイベントは1年に1回、ほぼ決まった時期に開催されるが、たったの8カ月半でいったいどのようなアップデートがあるのか、開催当日までは期待半分、不安半分という心境だった。

 しかし、実際にこのイベントに参加してみて、良い意味で期待を裏切ってくれた。前回のような真新しい話題は少なかったものの、スケールアップとスケールアウトを高度に融合させた最新のストレージOS(Data ONTAP 8.1)が本格的に始動したり、ボリューム圧縮などの新機能がストレージの標準機能として搭載されるようになったりするなど、前回言ってのけたことを実際の製品やソリューションの上でしっかりと結実させていた。

 基調講演などで「ビジョン」という名の大風呂敷を広げることはたやすいが、それを有言実行することはなかなか難しい。同社は、首尾一貫したビジョンのもと、それを実際に有言実行している。基調講演では、ネットアップ株式会社 代表取締役社長 タイ・マッコーニー氏がNetAppの経営状況を報告したが、2010会計年度は39億ドルだったのに対し、2011会計年度は51億ドルまで売上高を伸ばしている。まさに有言実行である。

 

NetApp製ストレージの心臓部となるストレージOS「Data ONTAP」

 同イベントではさまざまな話題が取り上げられたが、そのような数ある話題の中から筆者が最も興味を持ったData ONTAP 8.1に絞って話を進めていきたい。

 Data ONTAP 8.1は、NetAppのストレージシステム(NetApp FASシステムやNetApp Vシリーズ)を支えているストレージOSの最新バージョンである。

 同社のマーケティング担当の方は、筆者との雑談の中で「NetAppのストレージ製品は、ストレージOSこそが『命』です。箱の部分は、当社の基準に合致する性能と信頼性を備えた汎用ハードウェアであれば何でもかまいません。いまやストレージ製品の差別化ポイントは、ソフトウェアによってもたらされる『インテリジェンス』しかありません。だからこそ、当社はData ONTAPを長年にわたって大事に育てているのです」と話している。

 世の中には、さまざまな思想に基づくストレージシステムが発売されている。グレードや用途ごとに独自設計のハードウェアとソフトウェアを組み合わせたアプローチ(例えば大手ベンダーによく見られるストレージ製品群)、自社のハードウェアに他社のソフトウェアを組み合わせるアプローチ(例えばDell DXオブジェクトストレージ)、汎用サーバーをストレージシステムとして使えるようにするソフトウェアのみを提供するアプローチ(例えばDataCore Softwareの製品)など、さまざまである。

 これらに対し、NetAppは汎用設計のハードウェア(ODM調達)に自社のストレージOS(Data ONTAP)を搭載し、これらを一式のソリューションとして販売するスタイルをとっている。ローエンド、ミドルレンジ、ハイエンドといったあらゆるグレードのNetApp FASシステムに共通のストレージOSを搭載することで、アクセス性能やディスク容量、拡張性といった違いはあるもの、実際に使用できる機能や運用管理の手法などを完全に共通化している。同社は、これを真のユニファイドアーキテクチャと呼ぶ。

 

1990年代は性能、2000年代は効率、2010年代はスケールの時代

 NetAppの歴史は、Data ONTAPの歴史といっても過言ではない。同社は1992年に設立されたが、翌年の1993年にはData ONTAPの心臓部となる独自のファイルシステム「WAFL(Write Anywhere File Layout)」を開発している。

 Data ONTAPは、このWAFLをベースとして、マルチプロトコル(NFS/CIFS)への対応、SnapshotやSnapMirror(データ保護機能)、SyncMirror(RAID二重化)、SAN/NAS統合、iSCSIへの対応、SyncMirrorの後継となるRAID-DP(パリティ二重化によるRAID)、データ重複排除やボリューム圧縮、FCoEへの対応などを矢継ぎ早に行ってきた。

 同社は、10年ごとに区切ってそれぞれのトレンド(市場要求)を説明している。1990年代はパフォーマンス、2000年代は効率、そして2010年代はスケールの追求である。

 1990年代のパフォーマンスは、WAFLによる高速アクセス、Snapshotによる高速バックアップなどで達成された。2000年代の効率は、SAN/NAS統合によるユニファイドアーキテクチャ、SATAドライブとRAID-DPによる大容量化、シンプロビジョニングやデータ重複排除を通じたディスク使用量の削減などで達成された。そしてこれからのスケールを追求するのが、2011年から製品に搭載され始めているData ONTAP 8世代である。

 Data ONTAP 8世代は、多くのビジネス環境で採用されているData ONTAP 7Gと、一部のHPC(High Performance Computing)環境で採用されているData ONTAP GXを、ソースコードレベルで統合したものだ。Data ONTAP 8世代では、従来のData ONTAP 7Gと同様の使い方ができる7-modeと、スケールアウト型のストレージ構成をとれるCluster-modeが用意され、ユーザーはどちらかを選ぶ形となる。


ストレージに対する市場要求を10年単位で見たもの(出典:ネットアップ株式会社、以下同様)。2010年代は、ストレージインフラの規模をほぼ無限に拡張していける「スケール」が求められる時代となるData ONTAPの生い立ち。NetAppが創業当初から育ててきたData ONTAPの系列と、同社が買収したSpinnaker NetworksのSpinFSを起点とする系列が、Data ONTAP 8世代で完全に統合された。前者は7-mode、後者はCluster-modeとして選択可能だ

 

64ビット化によってアグリゲートやボリュームサイズの上限を引き上げる

 NetApp FASシステムの多くはエンタープライズIT環境で採用されているため、現時点ではほとんどのユーザーが7-modeを採用している。7-modeは、Data ONTAP 7Gとの互換性を維持しながら、機能面においてさらなる拡充が図られた動作モードだ。前回のイベント時点ではData ONTAP 8.0.1が最新バージョンだったが、今回のイベントではさらにブラッシュアップされたData ONTAP 8.1がリリースされている。

 Data ONTAP 8世代からはOSのプラットフォームを64ビットに移行している。これにより、ディスク管理のアドレッシングが大幅に拡張されている。32ビット動作のData ONTAP 7Gでは、ディスクドライブのアグリゲートサイズが最大16TBに制限されていたが、Data ONTAP 8では理論最大16EB(エクサバイト)にまで引き上げられた。

 これにより、大容量のSATAドライブを搭載したシステム環境などにおいて、より大容量のアグリゲートやボリュームを組めるようになる。

 現時点では、ハードウェア側の制約によって、アグリゲートサイズが最大50~162TB、その上に作成するボリュームサイズが最大30~100TBの範囲となる。将来的には、この上限値が次々と引き上げられていくだろう。

 なお、Data ONTAP 8.1は、32ビットから64ビットへのオンライン変換もサポートする。例えば、既存の環境で作成済みの32ビットアグリゲートがある場合、ディスク増設とあわせて64ビットアグリゲートに変換しながら、同時に16TBを越えるアグリゲートサイズへと拡張していける。しかも、サービスを止めることなくオンラインで実行可能だ。


OSプラットフォームの64ビット化を通じて、アグリゲートやボリュームのアドレッシングも64ビットに拡張された。これにより、アグリゲートやボリュームの上限容量が飛躍的に引き上げられた

 

インライン方式とポストプロセス方式の両方に対応したボリューム圧縮機能

 Data ONTAP 8世代では、ディスクの使用効率を高める新機能として、ユーザーから透過的にアクセスできるボリューム圧縮機能が追加されている。

 Data ONTAP 8.0.1では、ボリューム内のデータをリアルタイムに圧縮してディスクに書き込むインライン方式のボリューム圧縮機能のみが搭載され、NetAppが承認した一部の顧客に対して試験的に提供されていた。Data ONTAP 8.1では、設定した時間帯にバッチ処理のような形でボリューム圧縮を行えるポストプロセス方式にも対応し、Data ONTAPの標準機能として正式に搭載されることとなった。

 インライン方式は、特にワークロードの多い環境においてパフォーマンスに悪影響を与える可能性がある。これに対し、ポストプロセス方式は、ユーザーがあまりアクセスしない夜間などの時間帯に圧縮処理を一括して行うことが可能だ。もちろん未圧縮のデータも一時的に保管する必要があることから、インライン方式よりも大きな空きディスク領域を常に用意しておかなければならない。

 Data ONTAP 8.1では、ボリューム圧縮機能そのものの有効化と無効化に加え、インライン方式とポストプロセス方式の選択がオンラインでいつでも変更できる。例えば、インライン方式で運用してみてパフォーマンスに問題が出るようであれば、ポストプロセス方式に変更すればよい。ボリューム圧縮機能を無効から有効に切り替え、圧縮効果が十分にあれば有効のままで運用し、効果がなければ無効に戻すことも可能だ。同社は、このような優れた選択性によって、多くのユーザーが安全にボリューム圧縮を活用できると判断し、Data ONTAPの標準機能として昇格させたと説明している。

 なお、多くのユーザー環境ですでに導入が進んでいるデータ重複排除機能(NetApp Deduplication)とボリューム圧縮を組み合わせることも可能だ。両者を組み合わせた場合、ボリューム圧縮、データ重複排除の順番に自動処理が行われる。

 実際には、ボリューム圧縮とデータ重複排除がそれぞれ効きやすい用途と効きにくい用途がある。例えば、OLTPやデータウェアハウジングなどのデータベース用途は、ボリューム圧縮は効果的に働くが、データ重複排除はほとんど効かない。一方、ファイルサービス、サーバー仮想化、ソフトウェア開発環境などはどちらも効果的に働くため、両者を組み合わせて運用する価値があるといえる。あとはパフォーマンスにどれくらい影響があるかを判断しながら、実環境での採用を決めればよい。


Data ONTAP 8.1で標準搭載されたボリューム圧縮機能。Storage Efficiencyに関連する設定画面で手軽に有効化・無効化、インライン・ポストプロセス方式の選択を行えるボリューム圧縮とデータ重複排除によるデータ削減効果の実例。ボリューム圧縮のみが効きやすいもの、ボリューム圧縮とデータ重複排除の両方が効くものなど、さまざまだ

 後編では、Data ONTAP 8.1の目玉でもあるCluster-modeについて取り上げる。

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